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【リスキリング】リスキリングがビッグワードになる理由(羽生祥子氏)



2022年に世界で起きた混乱は、まさに「不確実性」が具体的な姿を現したものといえるでしょう。その混乱は間違いなく日本にも影響を及ぼし、生活者一人一人の価値観を変え続けています。では、その価値観の転換は、大きな混乱を経て迎える2023年、あるいはその“少し先”の未来においてどのように社会にフィードバックされるのでしょうか。このレポートでは6人の識者にお話を伺い、2023年に企業が取り組むべきコミュニケーション課題とそのソリューションを見いだす糸口を、五つのテーマの下にひもときます。



なお当「トレンドレポート2023」は、「WIRED」日本版副編集長、「Quartz」日本版創刊編集長を務めてこられた編集者、年吉聡太氏に監修頂きました。




これからの「リスキリング」
リスキリングがビッグワードになる理由


日本のみならず、全世界的な潮流となっているリスキリング。その必要性は、個人、企業、国それぞれの視点から読み解いていくことが有効です。そこで本記事では、リスキリングを取り巻く社会状況、本質的なリスキリングとは何かについて掘り下げるべく、日経グループで多数のメディアの創刊・創設・運営に携わってきた株式会社羽生プロ代表取締役社長で著作家・メディアプロデューサーの羽生祥子さんにインタビューしました。



目次[非表示]

  1. 1.人生100年時代と、個人にとってのリスキリング
  2. 2.人材の流動化と、企業にとってのリスキリング
  3. 3.人的資本と、国にとってのリスキリング
  4. 4.組織が向き合うべき、多方向的なリスキリング
  5. 5.どのようなゲームで勝負するかが、リスキリングの第一歩
  6. 6.10年ごとに、“リスキリング”を実行してきた
  7. 7.編集後記
  8. 8.電通PRC―PRX事務局からのご案内


人生100年時代と、個人にとってのリスキリング


ここ最近、急速にビジネスシーンで使用されるようになった「リスキリング」という言葉。メディアでも多くの情報が発信されていますが、その定義は抽象的です。つかみどころがない印象を抱いている方も多いのではないでしょうか。

例えば、経済産業省「デジタル時代の人材政策に関する検討会」資料では、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されていますが、とりわけ新しい概念ではないようにも聞こえます。にもかかわらず、なぜこれほどまでにトレンドワードになっているのでしょうか。


リスキリングの概念を捉えるために、個人・企業・国という「三つの軸」から考えてみます。



一つ目は、個人が醸成する「ムード(気分)」です。リスキリングが普及する背景に、「人生100年時代」というキーワードがあります。「長いキャリアやライフステージに対し、一つのスキルでは太刀打ちできない」といった考え方です。単純にいうならば、「人生100年時代、長過ぎるでしょ……」というムードが、リスキリングを取り巻いているわけです。

定年退職後もフリーランスとして活動するなど、社会参加が求められるようになっています。キャリアを長期的に形成するためには、転職や副業を通じて自らのスキルを獲得していかなければなりません。一社で勤め上げるとしても、50代になっても必要とされる人材であり続けるためには、常にスキルを高める必要があるでしょう。大学時代の“最終学歴”だけでは通用しない時代ですから。

ひと昔前まで、仕事を継続することに対しては、スキルだけでなく、人脈や職歴、社歴などが重視されていました。例えば私自身は大学卒業後、しばらく正社員になれず、アルバイトから契約社員までありとあらゆる立場でキャリアを積み上げるしかありませんでした。会社の〈外〉と〈中〉とを分け隔てる壁は明らかに大きかったですね。仮にスキルがあったとしても、一度、新卒一括採用のコースからドロップアウトした私のような人材は、正社員になることさえ困難な時代でした。

しかし近年、そうした事情は一変。経団連も新卒一括採用を見直す動きを見せています。人口減少による売り手市場もあり、「まっさらな新卒でなければ、人材とは見なさない」といった画一的な思考から、「むしろ就職以外の経験を持った人の方が、組織に多様性が生まれて良い」といった考えにシフトしていると感じます。

こうした流れを受け、個人は「どの会社で勤め続けるか」よりも「どのようなスキルを身に付け続けるのか」の方が重要な時代を迎えつつあるのです。リスキリングは、こうした文脈の中で注目されているのでしょう。


人材の流動化と、企業にとってのリスキリング


二つ目は、企業が生み出す「モード(形式)」でしょう。

前述した個人の事情を企業側から見つめると、新たな時代ニーズに対し、既存の社員の能力だけでは対応し切れない会社が増えています。DX(デジタルトランスフォーメーション)におけるデジタル人材が顕著な例で、ビジネスとテクノロジーの両方に理解を持つ人材は、どの企業にも足りていないでしょう。

だからといって、DXは全業界における課題であるため、そこで起きているのは、まさに激しい人材獲得競争です。他社から新たな人材を獲得するのはコストが非常にかかります。仮に可能だとしても、米国IT企業のように市場トレンドに合わせて大量解雇するわけにもいかないため、既存の人的リソースの最適化が課題になります。そうした中、自社にいる人材を最大限有効活用するために、リスキリングを通じた育成が必要になるのです。

しかし、ご想像のとおりで、キャリアの長い人材ほど新しい学びには消極的になるのが人間です。リスキリングは、企業側にとっても掲げやすいテーマです。中高年の社員に対して“学びの促進”を唱えることで、“ぶら下がり防止”を期待できますからね。

また、若手人材に対しても有効です。売り手市場を背景に人材が流動的になった現在、企業は有能な人材を自社にとどめなければなりません。「うちの会社にいれば、リスキリングを通じて自己を成長させ続けられる」と動機付けすることで、人材を自社にとどめたり、採用で有利になったりするわけです。


人的資本と、国にとってのリスキリング


最後の軸、三つ目は、国が動かす「コード(規則)」です。国がリスキリングに取り組むことで、規則や補助金が生まれるため、個人・企業にもたらすインパクトは大きいといえます。

私が2020年から参加した政府の有識者懇談会「選択する未来2.0」では、“人への投資” “人的資本”という言葉が顕著に現れ始めました。また、企業における非財務情報の開示をはじめ、多様性を重視する経済産業省・金融庁の流れもメインストリームになりつつあります。現在の国のキーワードは、モノやカネよりも、ヒトなのです。さまざまな指標を見ても日本の低成長な経済は問題であり、政府単位で対策に乗り出す必要があります。その手段の一つが、岸田文雄首相が「5年で1兆円」の投資をすると表明した、リスキリングであるわけです。これを見て、企業も「国が本気でやるんだな」と覚悟をし始めています。


以上の三つの視点からリスキリングを捉えると、全体像が見えてくるだけでなく、今後いっそう社会的な動きをつくるビッグワードであることがお分かりいただけると思います。また、企業のPR戦略においても、toB、toC、toS(社会全体向け)と、リスキリングを各文脈で把握することが、有効な情報発信につながると思います。



組織が向き合うべき、多方向的なリスキリング


ここまではマクロ視点でリスキリングのニーズを分析しましたが、現場レベルでのリスキリングは、どこに本質があるのでしょうか。組織強化の観点から見ていきましょう。


リスキリングというと、よくデジタル技術が連想されますが、それは短期的な見方だと考えられます。そこには、DXにおける日本の遅れ、コロナ禍を受けたニューノーマルの推進、AIやIoTなどの新技術の到来など、昨今の状況を取り巻く“トレンド”が関与しているからです。

しかし2022年に入り、ロシアのウクライナ侵攻や円安など、新たな課題が日本を揺るがしました。環境の変化はそれほど激しく、トレンドになっているスキルだけを身に付けてもすぐに風化してしまう可能性があります。

そもそも日本企業の人材に対する評価は、「報告できているか?」「数字は達成できたか?」「組織に従順か?」といった既存の価値観に“寄せていく”人ばかりを増やしがちです。多方向的なスキルを受け入れる土壌が弱い傾向にあります。皆が同じ成功体験、価値観、未来予測に偏り、一つのベクトルに傾いてしまうことが多いと考えています。

環境変化に対応するためには、企業はよりナラティブに、全方位的な視点で人材育成に取り込まなければなりません。リスキリングも同様であり、デジタル化やグローバル化のような分かりやすい「補強領域」だけでなく、自社が注力すべき「成長事業領域」、前例を突破するための「新規開発領域」においても、スキル強化を図るべきだと考えられます。

さらに、企業には経営的な戦略を、個々人の成長と同期させることが求められます。そのためには個人のキャリアビジョンと向き合う必要もある一方で、「自社にそれは必要か」「何年で収益化できるか」とビジネスバランスもシビアに考慮しなければならないでしょう。

少なくとも、経営陣と社員が同じビジョンを共有することは重要であり、両者が可能な限り対話をしながら、事業と人材を成長させなければなりません。経営層の腕の見せどころでもあり、企業間の差が出やすい過酷な時代です。



どのようなゲームで勝負するかが、リスキリングの第一歩


個人におけるリスキリングの本質も同様です。リスキリングと言った場合に発想されやすいスキルとして、プログラミングや会計、文章力、英会話、デジタルスキルなどがあります。しかし、これは自身の方向が定まった先にあるテクニックであり、より見つめ直すべきなのは「自分はそもそも、どのような『ゲーム』で勝負したいのか」であるべきです。なぜならばリスキリングは会社のために行うのではなく、自分の人生のために行う、“生きるための手段”だからです。

私が大学を卒業したのは2000年。農学部に入学し、物理や数学が得意だったので、生物機能学やデータ分析を学んでいました。その一方で、哲学や言語にも関心があり、将来的には編集をやっていきたいという思いから、同じ大学の文芸論(総合人間学部)に転部。その後はヨーロッパを放浪するなど25歳まで無職でしたが、さまざまな仕事を経て6社目で日経グループに入社し、35歳で「日経マネー」の副編集長にたどり着きました。

無職、フリーランス、ベンチャー、契約社員、業務委託など、さまざまな働き方を体験し、35歳以降も複数のメディアビジネス立ち上げに携わった経験から、時代が「画一性より多様性」を求める変遷を体感できたと思います。


10年ごとに、“リスキリング”を実行してきた


2000年代の私は、即戦力にもなれず、学歴だけはあるものの独自性が強く、さらに女性だということもあり、就職に苦戦しました。


一方で日本の経済成長はどうかというと、その後見通しは立たず、2012年に再登板した安倍晋三首相により「アベノミクス3本の矢」が発表されます。女性の賃金水準が向上する中で、2015年には女性活躍推進法が成立。こうした動向をデータで見据え、私は共働き世帯に向けたメディア「日経DUAL」を2013年に創刊しました。

2020年代になると、個人においてライフシフト、ウェルビーイング、多様性がますます重要になってきました。企業や政治、大学ではダイバーシティ、インクルージョン、SDGsなどが課題視されるようになり、ビジネスにおいては“もうけること”から“正しいこと”が求められるようになってきました。こうした中、浮き彫りになっていた組織課題としての男女平等に取り組むべく、私は「日経ウーマンエンパワーメントプロジェクト(WEP)」を立ち上げました。

そして同時に、日本はいつの間にか人生100年時代と呼ばれる社会に突入。自分自身のキャリアを考える中で、一社だけで走り抜けることに限界を感じ、45歳までに独立することを決意。2022年に株式会社羽生プロ代表取締役社長としてキャリアをスタートしています。

このように自分のキャリアを振り返っても、20代、30代、40代とリスキリングをしてきたわけですが、それは常に、「世の中をいかに生き抜くか」というサバイバル的な視点だったと感じます。編集者という職業上、時代の要請に対応する視点も大切にしてきましたが、最も重要なのは、「自分はどのようなゲームで勝負すべきなのか」を考え続けたことです。


やはり、会社が自分の面倒を見てくれないことに、定年間近の59歳で気付くのが遅いことは否めません。定年退職の先にある人生が20年、30年続くことを前提にキャリアシフトをすることは、今後いっそうスタンダードになっていくでしょう。

40代、50代のうちからリスキリングをすることで、自分の価値観や目的を明確にすることは重要だと思います。それは単純に生産性や単価の話ではありません。子どもが好きだからと給食調理員になるのでも、社会に貢献し続けたいから地域で活躍するのでもいいのです。そうしたシンプルな発想で、自分のゲームメイキングをじっくりと考えることが、「リスキリングとは何なのか」という問いに対する答えなのだと思います。


編集後記


インタビューの中で、“企業のPR戦略においても、toB、toC、toSと、リスキリングを各文脈で把握することが、有効な情報発信につながる”とありましたが、リスキリングを、ただやみくもに社員のDXスキル向上の一手段と捉えず、企業ビジョンや社会課題対応に向けた人材育成方針の表明など、PRの好機として活用していくべきでしょう。

リスキリングは人事担当者だけが担うものではなく、社内のコミュニケーションのハブとなるPR担当者が、人事担当部署や経営層といった他部署と連携し、若手社員の声に耳を傾けながら関わることが肝要です。インターナルコミュニケーションがリスキリングのキーになるのではないでしょうか。

​​​​​​​出典:https://www.dentsuprc.co.jp/pr/trend/20230120.html

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。




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  企業メッセージ開発とIR/コミュニケーション|PR X マガジン|電通PRコンサルティング 大きく変動する社会経済情勢や世界情勢をうけて、事業戦略から人材戦略に至るまで、様々な経営改革に取り組まれている企業は少なくありません。そういった中、株主、メディア、アナリストほか、多くのステークホルダーからは、これら改革の取り組みを、一貫性のある「企業メッセージ」として語る事が強く期待されています。電通PRコンサルティングでは、「価値創造サイクル」視点で、企業メッセージの開発や発信のお手伝いしています。 「PR X」マガジン|すべてのビジネス領域に、PRの技術を|株式会社電通PRコンサルティング


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