企業ブランドでモノを売る!(シリーズ「今なぜ企業ブランドなのか」その1)
2022年、注目の「企業ブランディング」。
PRXマガジンでは、本年8月より、「ナラティブ」「パーパス」「インターナル・ブランディング」などのキーワード紹介や実践の考え方、企業ブランディング事例などを紹介する新作記事を公開。シリーズ連載を通じて、「今なぜ、企業ブランドなのか?」を解き明かしていきます。
今回第1回目のテーマは、企業ブランドと顧客購買行動との密接な関係。題して「企業ブランドでモノを売る!」。綿密なデータ分析なども交えて、当社「企業広報戦略研究所(C.S.I.)」末次副所長がその謎に迫ります。
(電通PRC‐PRX事務局)
お客様との会話の中で、「企業コミュニケーションに力を入れても、企業のイメージは良くなるかもしれないが、モノ(商品)は売れない」といった趣旨のお話を伺うことがあります。このようなお話を伺った際には、企業コミュニケーションの目的をあらためて振り返ることをお勧めしています。
伝えるべきファクトやターゲット、タイミング、メッセージ、アクションなどが検討、精査されて実行に至っているか。今回は、これらが綿密に行われていれば、間接的にであれ、企業コミュニケーションで「モノは売れる」のだ、という点について、ご紹介したいと思います。
目次[非表示]
いま、見直される企業ブランドとコミュニケーションの価値
近年、当社に寄せられる「ご相談」の中でも、企業ブランド/コミュニケーションに関する案件が急増しています。
■商品広告の投資効果が鈍化している。企業ブランドPR活動に積極的に取り組んで来なかった影響があるのか?検証と対策の提案が欲しい。(食品/日用品ほか)
■企業コミュニケーションはやってきたが、うまく伝わっているか分からない。ビジネスや採用活動、IR活動に効果的な広報事例があれば、教えてほしい。(家電)
■コロナ禍で社内の士気が下がっている。周年を契機に帰属意識を高めて、業績にも貢献できるPR活動の事例はないか?(商社)
■「両利きの経営」を目指して、新規事業にも積極的に挑戦している。従来の事業と新規事業の両方を企業PRの視点で後押ししたい。(建設/流通ほか)
各案件に共通しているのは、「コロナ禍を経て難度が高まったコミュニケーション」「社会課題の解決に向けた取り組みの必要性」「企業イメージに結び付く具体的なファクトの未整備」「企業ブランドの成果の把握が困難」といったことでしょう。
なお、このような課題を抱える企業の多くが、企業コミュニケーションの目的に立ち返ることで解決することが多いようです。
企業ブランドと購買行動の研究~「バイタリティ」に注目。購買金額も1.3倍に!
電通PRコンサルティング内の「企業広報戦略研究所(C.S.I.)」の研究によれば、企業の魅力(企業ブランド)の向上は、購買行動に影響を与えることが分かっています。特に、企業の魅力(企業ブランド)要素の中でも、
- 「トラスト(信頼・ 安定性)」
- 「バイタリティ(活力ある風土)」
- 「提供バリュー」
の三つの因子が重要であり、さらにその中でも「トラスト(信頼・ 安定性)」と「提供バリュー」因子が、最も購買に影響を与えると報告されています。
※2017年、株式会社電通PRコンサルティング 「企業の魅力要素と購買行動の考察」(日本マーケティング学会発表「オーラルセッション2017ベストペーパー賞」受賞 )より
またこれに加え、購買金額においても、約1.3倍の効果があることも分かってきました。
※2019年、株式会社電通PRコンサルティング 「生活者が企業に感じる魅力は購買金額にどの程度影響するのか」(日本マーケティング学会 カンファレンス・プロシーディングス・ポスターセッション発表)より
つまり、企業ブランド力が向上すれば、モノやサービス(商品)は売れるということが証明されているのです。では、なぜ 先ほどのような「物は売れない」発言につながってしまうのでしょうか?
企業ブランディング事始め ~パーパス・デザイン
購買行動においては、通常、商品やサービスの対価として、金銭を支払います。その際には必ず、購入者は金額、品質、機能等、自身が「価値」と感じる要素を感じて、購入の判断を行っています。つまり、同じ市場に同程度の金額、品質、機能の競合商品があった場合などは、より企業ブランドが魅力的な方が効果的であることは、前掲の研究結果が示すとおりです。
しかし、企業コミュニケーションは、競合商品との差別化のために行うことは少なく、むしろ、株主や従業員や流通、学生などの、様々なステークホルダーに向けて、企業パーパスや企業方針、企業活動を伝えるものが多くなっています。
また、特に近年では、個人投資家の増加に伴い、コーポレートガバナンスや社会課題解決などに対する企業のスタンスを示すことが、社会全体から求められており、企業はこのことを明確に意思表示する必要が出てきています。
このように、昨今の企業コミュニケーションは、従業員エンゲージメントを高めるためのインターナルや、株主をはじめとした多くのステークホルダーに対してのエクスターナルなど、多方面の対応が期待されています。そして、いずれもその芯には「企業パーパス」が存在するのです。企業の原点に立ち戻り、「譲れない思い」と「未来の社会と自社」の姿からバックキャスト視点で思い描くことで、企業のスタンスを社会に向けて発信することの重要性を認識する企業は、今でも少なくありませんし、今後もますます増えていくでしょう。
さらに最近では、「パーパス・デザイン」において、自社内の形式知・暗黙知を棚卸しした、その企業「らしさ」の徹底はもちろんのこと、ステークホルダーの方々の客観的視点に寄り添う「ナラティブ」アプローチなどの手法にも注目が集まっています。
このように、企業のスタンスや取り組みに共感する人を増やす「顧客エンゲージメント」重視の考え方が、今の時代の“モノを売る秘訣”になってきているのではないでしょうか。
今こそ、「企業ブランドでモノを売る!」。改めて、このことを考え直す機会として頂けますと幸いです。
また、株式会社 電通PRコンサルティングでは、上記レポート内でもご紹介しました「魅力度ブランディングモデル」をはじめ、各種データを活用したコンサルティングやプランニングを通じて、お客様の事業成長や企業ブランディングを支援しています。是非、お問い合わせください。
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
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