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「分かっちゃいるけど、やめられない」ヘルスケアのマーケティングに必要な「PR思考」とは?

「分かっちゃいるけど、やめられない」に立ち向かう、PRの秘密。


 「お客様にとって、有益な健康情報や生活情報を提供しているのに、関心を持ってもらえない。」マーケティングや広報・宣伝を担当する方にとって、このような悩みを持たれる事は、少なくありません。

 では、この「分かっちゃいるけど、やめられない(or やらない)」にどう向きあっていけば良いのでしょうか?私たちは、マルチコンテキスト化する情報環境における、人々の「関係性」と「仲間ゴト化」に注目しました。「PR思考」で考える「太陽」「北風」「関係性」のアプローチ。当社ヘルスケア・プロジェクトのPRプランナー青山が、そのヒントをご紹介します。是非ご覧ください。

(電通PRC‐PRX事務局)

 

恥ずかしながら、虫歯が多くて困っています。甘いものが大好きなのでよくお菓子をボリボリ頬張りながら仕事をしているけど、歯医者は苦手。絵に描いたようなダメな大人です。歯が痛い方の頬を手で押さえながら、「いやーお口の健康って大事だな」と情けなくボヤいている私に、「これからのヘルスケアのマーケティング」についてお話しさせてください。冒頭から不健康アピールする人間が言うことは、いささか説得力に欠けるかもしれませんが、そんな人たちをどうやって健康に関わらせるかを考える「PR思考」が、これからは必要になってくるのではと思っています。



目次[非表示]

  1. 1.ヘルスケアのコミュニケーション・ターゲットは、「分かっちゃいるけど、やめられない」人たち
  2. 2.頭の中にある「損得勘定の天秤」を意識して考える「PR思考」
    1. 2.1.なぜヘルスケアマーケティングにはPR思考が有効なのか?
    2. 2.2.頭の中の損得勘定の天秤から考える「やめられない」を脱却する3つの方法
  3. 3.必要なのは自分ゴト化・仲間ゴト化させるためのPRストーリー
    1. 3.1.「北風」と「太陽」を掛け合わせ、欲求を刺激するPRストーリーの描き方
    2. 3.2.「語らせる」から、「関わらせる」ためのPRストーリーの描き方



ヘルスケアのコミュニケーション・ターゲットは、「分かっちゃいるけど、やめられない」人たち


「健康は大事!」なんてことは声高らかに宣言をするまでもなく、多くの人がうなずいてくれることだと思います。でも「どうして健康を目指すのか?」と聞けば、人によってさまざまな回答があるハズ。例えば健康づくりに向けた活動を始める理由として、「理想の体型になって意中の相手を振り向かせたい」なんて人もいれば、「生まれたばかりの子どもが成人する姿を見たいから」なんて人もいるかもしれません。一方で意気揚々と始めたものの「今月は仕事が忙しいから……」とか「今日は雨が降っているから……」なんて面倒くさくなって、やらない言い訳を探し始めるシチュエーションも十分に想像できます。

健康はあくまで状態を指すものでしかないので、その上で何を成したいかは人それぞれ。とはいえ、何を持って今が健康と言えるのか明確に実感がしづらかったりします。そのため、行動を起こしても、いざ誘惑を目の前にすると全く逆の行動を取ってしまうのは、もはや全人類共通の“あるある”のハズです。ダイエット中の甘いものも、飲み会帰りの深夜のラーメンも、発がん性リスクが証明されているタバコだって、分かっちゃいるけどやめられない。

ヘルスケア市場の商材にはさまざまなものが存在しますが、それらは共通して健康になるための手段や方法を提供してくれるものです。そのため、最も求められるのはその有効性である効果・効能に尽きますが、一度使用するだけで効果が発揮されるなんてことはなく、継続的に利用することでようやく表れるものがほとんどでしょう。企業側から見ても、市場が拡大しジャンルをまたがってさまざまな競合商材があふれていく中で、長期的に愛用してくれるロイヤルカスタマーを育てていくことの必要性が問われています。

そのため、これからのヘルスケア分野のマーケティングでは、自分たちの商材の有効性を訴えるだけでなく、いかに継続してもらえるかを意識した設計をしていくことが重要になってきています。ただし相手は、分かっちゃいるけど、やめられない人たち。健康に関わる行動変容の仕組みを理解して、無理なく続けてもらうためのコミュニケーションの設計が求められそうです。



頭の中にある「損得勘定の天秤」を意識して考える「PR思考」


ヘルスケア分野のマーケティングでは、商材の有効性を訴えるだけでなく、いかに継続してもらえるかを意識した設計が重要だと上述しました。それに必要になるのが、世の中に語られることを逆算する「PR思考」です。

よくPRについて広告との対比で説明されますが、企業が伝えたいことを自ら「語る」のが広告、第三者に「語られる」のがPRと言われます。PR思考とは「語られること」を逆算する考えで、期待する世の中の反応をまず設定し、そこから必要なコミュニケーションをプランニングしていきます。


なぜヘルスケアマーケティングにはPR思考が有効なのか?

ヘルスケアのマーケティングには特有の課題として、薬機法などのレギュレーションがあります。どんな些細なものでも人の健康に関わるものである以上、誤解や誇張が生まれないように医学的に正しい文言を使用し、定められた範囲内でしか表現をしてはいけないと規定されているのです。世の中の生活者の多くが医学的な知識を有しているなんてことはないので、定められた範囲で正しい情報を発信すればするほど、“普通の人”には難しく伝わりづらい内容になってしまうという側面も生じてしまいます。

そこで、ストレートに商材の情報を企業自らが「語る」だけではなく、第三者に「語られる」ことを意識したPR思考が有効になります。医学的なエビデンスも担保しながら、あえて商材の周辺テーマを生活者が関心を持ちやすい文脈で届け、世の中に話題を創発させ、商材の必要性を浮き彫りにさせる。例えば、胃に効果のあるヨーグルトを訴求するために、あえて周辺テーマである「ピロリ菌の危険性」の話題を投げ掛けて、商材の有効性を浮き彫りにさせることに成功した事例などがあります。





頭の中の損得勘定の天秤から考える「やめられない」を脱却する3つの方法


ただし上述した通り、これからのヘルスケアのマーケティングでは、有効性だけでなく、続けられることを意識することも忘れてはいけません。そのためにまずは、「分かっちゃいるけど、やめられない」状態の頭の中をのぞいてみましょう。下のイラストのように、この状態の頭の中には損得勘定の天秤があり、「健康になって得られる成果」と「健康を妨げる誘惑の旨味」がバランスを競っているのが分かります。




健康づくりに向けた活動が中断されないために、ここから導ける対策としては、①「健康になって得られる成果を重くする方法」、②「健康を妨げる誘惑の旨味を軽くする方法」、さらに③「天秤の支点をずらし誘惑側が重たくても傾きを逆転させる方法」の3つのアプローチが考えられそうです。



必要なのは自分ゴト化・仲間ゴト化させるためのPRストーリー


それでは、前掲した3つのアプローチを意識してPRのストーリーづくりに生かす考え方を説明していきましょう。ただし②については、美味しさや手軽さなど商材のポテンシャルにも影響することと、ゲーミフィケーションや行動経済学のナッジなど面白い手法がありつつも施策のレイヤーに相関する考え方のため、③の説明の一部に内包するにとどめます。


「北風」と「太陽」を掛け合わせ、欲求を刺激するPRストーリーの描き方


①の「健康になって得られる成果を重くする方法」には、ターゲットに「自分は健康になって何を成したいのか」を明確に想起させるストーリーを描く必要があります。もちろん健康になる目的は人によってさまざまですが、最近の心理学の研究によると、現代人が抱える欲求は下の図のように7つに分類されます。この7つの欲求をグループ分けすると、ピラミッドの下から2段目までは「命を守る」という誰しもが共通して持つ漠然とした不安(欲求)、そして下から3段目以上は「社会の中で何を成したいか」といった具体的な欲求の2つ。この2つの欲求を下から上の順序で刺激するメッセージをつくることで、ストーリーを描きやすくなります。




まず「命を守る」という誰もが共通して持つ漠然とした不安を刺激する方法は、「恐怖訴求」です。実際にコロナ禍では多くの人が自粛生活を送り、密を避けマスクの着用や手洗いうがいを徹底しました。ウイルス感染の恐怖が世の中ゴト化された結果と言えるでしょう。上述したピロリ菌とヨーグルトの事例もここに分類されると言えます。ただし恐怖訴求はマスに向けた世の中ゴト化には有効ですが、実はそこまで効果が長続きしないという研究結果もあります。

そのため、ターゲットが健康になる目的を自分ゴト化するには、より個人に合わせた理由付けが必要です。そこで下から3段目以上の「社会の中で何を成したいか」といった具体的な欲求を刺激する情報を付加していきます。例えば、ピラミッドの最上段「親族養育」の事例として、製薬会社が行った「禁煙外来」のPRがあります。ターゲット自身へ喫煙に伴うリスクを恐怖訴求すると共に、「親の喫煙が子どものぜんそくに与える影響」というファクトをもとに、喫煙が子どもにも影響を与えることを伝え、禁煙外来の受診率の上昇につなげました。

このように、誰にでも共通する不安は「北風」として、個々のターゲットが望む成したいことは「太陽」としてメッセージをつくることで、ターゲットが健康づくりに向けた活動を自分ゴト化できるPRストーリーを描きやすくなります。


「語らせる」から、「関わらせる」ためのPRストーリーの描き方


続いて、③の天秤の支点をずらし誘惑側が重たくても傾きを逆転させる方法」としては何ができるでしょうか?あらためて宣言しますが、ヘルスケアのコミュニケーションターゲットは「分かっちゃいるけど、やめられない」人たちです。いくら天秤の両サイドの重さを調節しても、やめられないものはやめられない。個人の力では限界があるので、自分以外の第三者に関与してもらい天秤の支点を押してもらうのが効果的な手法と言えます。先に紹介した欲求のピラミッドを見ても分かる通り、人間の欲求の多くが他者との関係性で生まれており、最も行動変容に影響を及ぼすのも第三者からの働き掛けとも言えます。

実際に、メタボ健診(特定健康診査)など国が行う公衆衛生でも、同様の手法が取られています。またコロナ禍でも、初期は危機意識から感染対策が徹底されましたが、長引くにつれて気が緩み対策も怠られるようになってきました。外出するときにうっかりマスクを忘れて、周りの目線が気になって慌てて用意した経験はないでしょうか?

今までのPRで多く描かれていたストーリーでは、商材と世の中をつなぐテーマから話題を「語らせる」ことを目指していました。しかし、これからのヘルスケアのコミュニケーションでは「関わらせる」ことが重要です。下のイラストのように、ターゲット周辺のステークホルダー(家族・友人など)や所属するコミュニティー(企業や行政など)を巻き込み、そこからターゲットの健康に干渉させるストーリーづくりが求められます。




例えば、前立腺がんの予防のために製薬会社が行ったPRでは、敬老の日に合わせて息子や孫におじいちゃん宛ての手紙を書かせることで、受診を促した事例があります。また飲料メーカーが行ったPRでは、離島で暮らす高齢者に自社の商材を届け、体の健康にも心の健康にも寄与することができたという実証実験を、行政と一緒に立ち上げたという事例も。

周辺の巻き込み方の1つとして、ゲームなど面白さを追求する施策を入れ込むことができれば、上述した②「健康を妨げる誘惑の旨味を軽くする方法」を打ち出せるかもしれません。

最後に、第三者を巻き込むことのメリットをもう1つ。上述の通り、健康という概念は明確に実感がしづらいという側面があります。さまざまな情報処理に追われる1日の可処分時間のうち、ターゲットが自身の健康について考える時間などほとんどないのが普通だと思います。それが、第三者を巻き込むことで、強制的に健康について考える機会を増やすことはもちろん、ターゲット周辺のステークホルダーも自然と健康を意識するようになるため(仲間ゴト化)、商材自体への接触機会を上げることも見込めるでしょう。





以上、分かっちゃいるけど、なかなか健康になれない私が、「これからのヘルスケアのコミュニケーションに必要なこと」についてまとめてみました。ヘルスケアの市場も、PRの在り方も日々、進化をしているので、他にももっといろんなやり方や考え方が存在します。私たちがお付き合いするヘルスケア分野のクライアントも、大企業からベンチャー、行政、大学、医療機関、NPO……と、どんどん多種多様になってきています。これからももっといろんな方々と共に、コミュニケーションの力で世の中を健康にすることを模索していきたいと思っています。打ち合わせ用のお菓子も用意していますので、ぜひ気軽にお声掛けください。


出典:Transformation SHOWCASE

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。


青山  公亮
青山  公亮
映画配給会社、製薬会社を経て電通PRコンサルティング入社。電通グループ横断のヘルスケアプロジェクト「dentsu health」にも参画し、ヘルスケア領域のクライアントを中心に幅広くプランニングやディレクションを担当。

 


 

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