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【速報】広報担当者が知っておきたい「生成AI(ChatGPT等)」との向き合い方



ニュースリリースの作成はAIにお任せ―。

「ChatGPT(チャットジーピーティー)」をはじめとする生成AIの登場で、手間の削減や時間の短縮になると期待している広報担当者もいるでしょう。

でも、少し待ってください。生成AIの急速な普及に伴い、利点とともにさまざまな懸念点が指摘されています。PRパーソンとして、新しく登場したツールにアンテナを張る一方、公正・正確・透明性のある情報発信をしていくために、広報活動における生成AIのリスクとの向き合い方を考えます。





目次[非表示]

  1. 1.生成AIの普及
  2. 2.利用が想定される場面と知っておきたいリスク
    1. 2.1.誤情報の発信
    2. 2.2.個人情報・機密情報の漏えい
    3. 2.3.著作権侵害
    4. 2.4.フェイクニュース拡散による風評被害
    5. 2.5.犯罪に巻き込まれるリスク
    6. 2.6.各国の規制状況の変化
  3. 3.生成AIとの向き合い方~PRパーソンとして~
  4. 4.電通PRC-PRX事務局からのご案内




生成AIの普及



生成AIとは、①インターネット上にある情報を学習し組み合わせ②人の指示に従って③文章、画像、動画、音声などを自動で生み出す人工知能システムです。「生成AI元年」といわれた去年2022年以降は、新たなサービスが次々と公開されました。

テキストを入力すると画像を生成するAIとしては、「Midjourney(ミッドジャーニー)」「Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)」「DALL・E2(ダリ・ツー)」「Adobe Firefly(アドビ・ファイアフライ)」が発表されています。またテキストから動画を生成するAIとしては「Make-A-Video(メーク・ア・ビデオ)」が公開されました。

いま対話型AIは、「ChatGPT」が破竹の勢いで普及しています。利用者数は去年11月30日の公開から5日で100万人を超え 、ことし1月、推計の月間アクティブユーザーは1億人に達しました。

マイクロソフトやグーグル、アマゾン、百度(バイドゥ)も生成AIへの参入や投資を発表しています。その注目度の高さから、1849年にアメリカのカリフォルニアで金脈を探し当てようと人々が殺到した“ゴールドラッシュ”に例えられることがあります。





利用が想定される場面と知っておきたいリスク



質問を入力すれば、わずかな時間で答えが返ってくる対話型AIは画期的です。東京大学理事で副学長の太田邦史氏は、「ChatGPT」について「私設コンサルタントのような使い方ができる」と述べています。使い方の例として、次のようなことを挙げました。[1]

  • 文書のアウトライン生成
  • 文章の要約、修正、トーンの変更
  • 翻訳
  • コンピューター・プログラムの作成や修正
  • 試験問題の作成
  • 調査や分析
  • ディスカッション・ブレインストーミングの壁打ち相手など

[1]  「生成系AI(ChatGPT, BingAI, Bard, Midjourney, Stable Diffusion等)について」

https://utelecon.adm.u-tokyo.ac.jp/docs/20230403-generative-ai


広報担当者であればどうでしょうか。ざっと思いつくのは、次のような利用法です。

  • ニュースリリースの作成
  • スピーチ原稿の執筆
  • プロモーションで使用するイラストや画像の生成
  • 広報戦略の策定

ただ、利用するに当たって注意しなければならない点があります。



誤情報の発信


ニュースリリースを「ChatGPT」を使って作成するサービスは、既にいくつか発表されています。今後は当たり前のように生成AIを使ってリリースを書く時代が到来するのかもしれません。ですが、「ChatGPT」の開発元であるオープンAIのウェブサイトに記載があるように、生成された文章には間違った情報が含まれている可能性があります。

実際、無料版を使って「電通PRコンサルティングについて300文字程度で教えて下さい」と尋ねてみたところ、他社のサービスを当社のサービスとして紹介した文章が出来上がりました。





この文章を、入社間もない新卒社員や中途社員が読んだときに、間違いに気付くことはできるでしょうか。サービス名という分かりやすい間違いなら気付けるかもしれません。では、サービスの細かい仕様に間違いがあったらどうでしょう。

生成AIを使ってニュースリリースを作成したとしても、最終的に事実をチェックする作業は欠かせないのです。そしてチェックする人間は、書いてある内容に対して知識のある人でなければなりません。

また、生成AIは過去に学習した情報を基に回答します。出来上がったニュースリリースの社長名が前年度までの人物の名前で記載されていた、過去の製品やサービスの仕様になっていたといったことは起こり得ることです。古い情報を直さずそのまま発信すれば、結果的に誤報となります。メディアや社会から当該企業の発信に対する信頼が失われる恐れがあるのです。



個人情報・機密情報の漏えい


AIに個人情報や機密情報が学習され、外部の利用者に対する回答として漏えいされれば大きな問題になります。この点を懸念して、大手金融グループでは独自に開発した生成AIの導入を検討しています。これらのグループは、社員の入力した内容が外部から閲覧できないようにしたり、入力した情報がAIの学習に利用されて外部に流出しないようにしたりする方針です。

社内規則を設けて「ChatGPT」の利用を許可する企業もあります。一部の大手IT企業は規則を定めた上で利用を許可しているほか、大手携帯電話会社は申請し許可を取った社員に生成AIの業務利用を認めているという報道もありました。

情報漏えいを起こさないためには、企業内で利用の仕組みやルールを整備すること、その周知徹底を行うことが求められます。広報担当者であれば今後、メディアから取材で生成AIの利用状況や情報漏えいを防ぐための会社の取り組みについて質問を受ける可能性もあります。いま一度、社内の規則を確認し、生成AIの利用に関する規則がなければ、整備するよう働きかけてもよいでしょう。

たとえ社内で独自に開発した生成AIであっても、機械学習に用いるデータは読み込ませてよい内容なのか考えたいものです。人事情報やクライシス事案など、入力時点では社内でさえも一部の人間にしか共有されていない機密事項もあります。指示や質問を入力する前に一度立ち止まって確認することが大切です。



著作権侵害


今後はAIで生成した画像や映像をプロモーションで使用することも予想されます。その際、もっとも注意したいのは著作権の侵害です。

商品やサービスのロゴやデザインを巡り、アーティストから「自分の作風と似ている」などと訴えられるケースは生成AIが普及する前から相次いでいます。従来は訴えがあった後に自社でロゴやデザインの作成を依頼したアーティストに聞き取りを行うなどして経緯を検証できました。ですが、画像や動画を生成するAIに対して同じような聞き取りはできません。

生成物に著作物が一部でも紛れていて無断で商業利用をすれば、法令違反を問われる可能性があります。海外では、画像生成AIによる著作権侵害の疑いが早くも問題になっています。写真などのライセンスビジネスを展開するアメリカのゲッティイメージズはことし2月、「ステーブル ディフュージョン」の開発元であるイギリスのスタビリティーAIを提訴しました。AIの機械学習にゲッティイメージズの1200万枚にも上る写真を許可なく利用されたと主張しています。一方、訴えられた「スタビリティーAI」は、現在のところコメントしていません。[2]

広報担当者として、画像や動画の生成AIを使用する場合は、開発元がアーティストとの間でどのようにライセンスを扱っているのかを調べておく必要はあるでしょう。

また、生成AIの使用の有無をどう開示するかは今後の課題です。プロモーションにAIで生成した画像や動画を使用した場合、社会に明らかにすべきでしょうか。明らかにする場合、一つ一つの生成物に「これは生成AIで作成した画像です」などと注釈を入れるのでしょうか。それとも会社のウェブサイトに「当社は生成AIで作成した画像や映像を使用しています」などと記載すればよいのでしょうか。

万が一、使用した画像や映像に他のアーティスト作品の盗用があったとき、生成AIの利用の有無を開示することで責任を免れるわけではありません。少なくとも、企業としてどのように当該画像・映像が発信されたのかを、検証・説明する責任は問われそうです。そう遠くない時期に、PR業界全体で考えなければいけないことでしょう。


[2] 2023年2月7日 CNET Japan「ゲッティイメージズ、画像生成AI「Stable Diffusion」開発元を提訴--著作権侵害で」https://japan.cnet.com/article/35199679/



フェイクニュース拡散による風評被害


自社に関する誤り(=フェイク)が拡散された場合、レピュテーションの毀損(きそん)につながる恐れがあります。AIは一見もっともらしく自然な文章、画像を生成できます。外部の人が見たときにフェイクと見破ることが難しいのです。

去年2022年には、実際に起こっていない「静岡県の水害」だとする画像がSNS上に投稿され、画像を信じた人たちが拡散しました。読売新聞の報道によりますと、投稿者はイギリスのAI開発企業の無料ツールを利用して画像を生成し、「『見た人がだまされたら面白いな』という軽い気持ちだった」と話したといいます。[3]

この件は投稿者に悪気があったわけではないのかもしれません。ですが、悪意のある人間がそれらしいフェイクをつくり出し、競合会社の株価下落を狙って拡散することも可能です。

フェイクニュース拡散による風評被害を最小化するために、インターネット上で自社について語られている情報や画像をこれまで以上に注視すること、フェイクと疑われる情報をキャッチした際に早めに社内で共有し、事実確認と対外公表を行うことが重要です。


[3]  2022年10月3日 読売新聞「台風被害デマ画像、投稿者後悔「だまされたら面白いなと軽い気持ちだった」…無料AIで作成 https://www.yomiuri.co.jp/national/20221003-OYT1T50154/



犯罪に巻き込まれるリスク


生成AIは、犯罪に対するハードルを下げるという指摘もあります。自然なメールの文章はもちろん、ウイルスのコードまで自動で生成できるためです。EU=欧州連合の欧州刑事警察機構は本年2023年3月、「ChatGPT」はフィッシング詐欺やサイバー犯罪などに悪用される恐れがあると警鐘を鳴らしています。

自社をかたって顧客に対して行われる詐欺、取引先や上司を装ったビジネスメール詐欺など、これまで以上にクライシスに巻き込まれる恐れが増しています。広報担当者としては他社で発生した生成AIを巡るクライシス事例を集め、社内で知見を蓄積・共有していきたいものです。



各国の規制状況の変化


生成AIを巡る規制の議論は各国でこれから本格化します。

イタリアでは膨大な個人データの収集が個人情報保護法に違反する疑いがあるとして、当局がことし3月末に「ChatGPT」の使用を一時禁止すると発表しました。その後解除に必要な措置を開発元に提示しています。アメリカでも利用者の個人情報を守る法律の整備が必要だとして、AIの規制案の検討が始まっています。 中国は、AIの作成する文章は、社会主義の価値観を反映しなければならず、サービス提供前に当局の審査を義務づけるなどとした規制案を公表しています。 日本でも自民党で「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」が立ち上がりました。

生成AIの普及は過渡期にあり、状況は流動的です。グローバル企業の広報担当者は各国の規制の状況を注視して柔軟に対応する必要があります。





生成AIとの向き合い方~PRパーソンとして~



さまざまな懸念点があるからといって、生成AIを否定して利用しないのも「リスク」です。生成AIは教育・研究・芸術・ビジネスと今後幅広く活用されます。作業の効率化に貢献し、新しいものを生み出す可能性のあるツールを使わないのは、自ら成長する機会を捨てることでもあります。

大切なのは懸念点を理解した上で適切に活用していくことです。生成AIの利用を前提に、PRパーソンとして心に留めておきたいことがあります。

生成AIがつくったものは、必ずしも独創性にあふれていたり、人の心を揺さぶったりするものにはならないということです。広報担当者は社長や役員のスピーチ原稿を書くことがあります。例えば、入社式における社長のあいさつの原稿を書くとしましょう。生成AIの画面に、お祝いの言葉、自社のパーパスやこれまでの実績、今後数年間の目標、社員に期待していることを入力した上で字数を指示すれば、一定レベルの原稿にはなるでしょう。ですが、そのスピーチの後、新入社員が「入社して良かった」「頑張って会社に貢献しよう」「面白い社長だ」などと感じるかどうかは分かりません。

コミュニケーションの目的は結局、人に情報が伝わって、人の意識と行動を変容させることです。電通PRコンサルティングで企業のトップや幹部に向けて話し方のトレーニングをする際、人に伝わるための3要素として、

①内容(コンテンツやファクト)
②技術(話し方や見た目の印象)に加え
③人間力(知識、経験、能力、熱意、品格、気合、誠意、謝意、志、自信など、体全体からにじみ出る空気)を挙げています。


生成AIの作成した原稿にそもそも誤りはないのか(①を満たしているか)。話しやすい言葉遣い、聞きやすい表現になっているか(②を満たしているか)。そして③の要素がきちんと入っているのか。初稿において生成AIを利用したとしても、仕上げに向けて広報担当者が自ら考え、登壇者と議論・調整し、内容を検証・校正していくことに変わりはありません。


生成AIが「下書き」を作ってくれる時代だからこそ、正確で独創性があり、そして人の心を揺さぶるものを生み出すための「地力」が、今試されているのではないでしょうか。


※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。




電通PRC-PRX事務局からのご案内


❶電通PRC「危機管理広報プログラム」

電通PRコンサルティングでは、「危機管理広報」に必要なスキルを、総合的に5領域のペンタゴンモデルで整理。国内屈指の対応実績などを武器に、変化し続けるリスク判断基準から組織を守る、当社ならではの「危機管理広報プログラム」をご提供しています。

  電通PRコンサルティング 危機管理広報プログラム 「危機管理広報」とは、企業の姿勢や方針、対応を社内外に発信することで、企業へのダメージを最小限に抑える活動のことです。 不祥事が経営に与える影響は大きく、具体的には売り上げ減少や株価下落、法的責任の発生、社会的信頼・レピュテーションの低下などが挙げられ、危機管理、いわゆるリスクマネジメントは重要な経営課題ともいえます。 電通PRコンサルティングは、半世紀以上にわたり危機管理広報のサポートを手がけています。経験に基づいた知見に加え、多様なステークホルダーの視点から世の中の変化を捉える力を武器に、総合的な「危機管理広報プログラム」をご提供しています。 「PR X」マガジン|すべてのビジネス領域に、PRの技術を|株式会社電通PRコンサルティング


トップコミュニケーション・プログラム

電通PRコンサルティングでは、企業リーダー(経営者、役員等)をはじめ、様々なビジネスパーソンに適した、コミュニケーション力強化のためのプログラムをご用意しています。ステークホルダーやメディアを想定した「スピーチライティング」支援から、「パブリック・スピーキング」「メディアトレーニング」など、メディア出身者、演出家、心理学者など、実績豊かで多彩な講師陣がチームを編成して、皆さまのコミュニケーション力向上をお手伝いします。


  トップコミュニケーション・プログラム|PR X マガジン|電通PRコンサルティング 電通PRコンサルティングでは、企業リーダーの為のコミュニケーション・プログラムをご用意しています。スピーチライティング支援から、パブリック・スピーキング・トレーニングやメディアトレーニングなどのプログラムを、ステークホルダーやメディア等の想定される対象者ごとにカスタマイズ。実績豊かな多彩な講師陣がチームを編成して、リーダーにとって最適なコミュニケーション力の向上をお手伝いします。 「PR X」マガジン|すべてのビジネス領域に、PRの技術を|株式会社電通PRコンサルティング


山田 美樹
山田 美樹
株式会社 電通PRコンサルティング ステークホルダーエンゲージメント局PA&危機管理広報コンサルタント テレビ局の記者として約10年間勤務。このうち6年にわたり、青森県・福島県で事件・事故、選挙、災害、行政を中心に、一般の生活者から企業、官公庁まで幅広く取材。その後、東京で全国放送のニュース番組の制作を担当した。 2021年より現職。企業・組織の危機管理広報を支援。メディアの視点を生かしたリスクコンサルティングを実施している。そのほか報道論調分析、危機管理広報マニュアルの作成、模擬記者会見トレーニングの講師・記者役などに従事している。

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