【コミュニケーション力を鍛える(前編)】「コミュ力ってスキル?才能?」
グローバル化が進み、価値観も多様化してきた現代。「いいものをつくる」だけではなく、「そのよさをどう伝えるか?」というコミュ力(コミュニケーション力)が企業の成長を左右すると言ってもいい世の中になってきました。しかし、まだ日本の多くの方が「コミュ力は才能」と考えています。
そこで今回は、「コミュニケーション力は鍛えられるスキルである」として、企業リーダーをはじめ多くのビジネスパーソンの「コミュニケーション・トレーニング」を行うとともに、著書「世界最高の話し方」が15万部を突破するなど高い人気を誇る、エグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジストの岡本純子さんをお招きし、電通PRコンサルティングのPA&危機管理広報コンサルタント・青木浩一とともに、お話しいただきました。
(左) 岡本純子(おかもと・じゅんこ)
コミュニケーション戦略研究家
エグゼクティブ・スピーチコーチ(「世界最高の話し方」を教える「伝説の家庭教師」)読売新聞経済部記者、電通PRコンサルティングを経て、現職。新聞記者として鍛えた「言語化力」「表現力」、PRコンサルタントとして蓄積した「ブランディング」ノウハウ、ニューヨークで学んだ「パフォーマンス力」「科学的知見」を融合し、独自のコミュ力メソッドを確立。大手都銀、商社、電機メーカー、自動車メーカー、通信会社など日本を代表する大企業や外資系のリーダー、官僚・政治家など、1000人を超えるトップエリートの家庭教師として、プレゼン・スピーチ等のプライベートコーチングに携わる。
「東洋経済オンライン」「プレジデントオンライン」などで、「コミュ力の鍛え方」について、情報発信を続ける一方、2018年に「世界一孤独な日本のオジサン」を出版、話題となる。近著「世界最高の話し方: 1000人以上の社長・企業幹部の話し方を変えた!『伝説の家庭教師』が教える門外不出の50のルール」は15万部を超えるベストセラーに。
2021年には、「今年の顔」100人にとして『2021 Forbes JAPAN 100』に選出。2022年5月に、次世代リーダー向け「世界最高の話し方の学校」を立ち上げる。https://commschool.jp/
(右) 青木浩一(あおき・こういち)
株式会社電通PRコンサルティング、ステークホルダーエンゲージメント局コーポレートコミュニケーション3部シニア・チーフ・コンサルタント、PA&危機管理広報コンサルタント
1983年、電通PR入社。企業不祥事にあたり、渦中のクライアントのメディア対応などをサポート。以来、各種広報業務サポート活動のほか、上記のような経験とノウハウを踏まえ、多くの官公庁、自治体、業界団体、民間企業の研修等において職員や企業幹部等を対象とした広報の基本的なセミナー、メディア(インタビュー)トレーニングや危機管理コミュニケーションにおける模擬(謝罪)会見トレーニングなどを遂行中。2007年10月から2011年9月まで、内閣府 食品安全委員会 緊急時対応専門委員。
コミュニケーション力は鍛えられる「スキル」
―本日はよろしくお願いします。最初に活動内容、そして活動を通じての気付きなどがあれば教えてください。
(岡本)
私は「話し方の家庭教師」として、社長をはじめとした企業のトップ層を中心に話し方を教えています。
日本ではコミュニケーションは才能だ、自分は話すことが苦手だと思われている部分があるので、こうやればうまくいくんだということをご存じない方が多いんです。特に最近、日本の企業は「リモートワーク」「飲みニケーションの減少」、それからすぐに「○○ハラ」と言われてしまうという三重苦に見舞われています。この三重苦で、いわゆるトップダウンのコミュニケーションに慣れてしまった昭和型のサラリーマンの方々は非常に苦労しています。
でも実は日本のほとんどの課題って、元をたどるとコミュニケーションに起因していると言ってもいいと思うんですね。なのでコミュニケーションの科学を学び、コミュ力を鍛えていく必要性が高まってきています。ちなみに最近はトップだけでなく、もう少し下の世代を対象に、「次世代リーダー向けの話し方の学校」を立ち上げました。
(青木)
当社でもトップコミュニケーション、パブリックスピーキングに非常に力を入れています。
これまで多くの方と相対する機会をいただいてきましたが、そこで思うのは、積極的に取り組もうとされる方と、尻込みされてしまう方がどうしてもいらっしゃるということですね。「こういう話し方をしましょう」「ここでは少し声を上げてください」といったアドバイスは強制をしてもなかなかふに落ちないところもあるので、いかに前向きに取り組んでいただくかということに難しさを感じています。
―お話から、「コミュニケーションはスキルであり、トレーニングできる」という印象を受けましたが、実際どうでしょうか?
(岡本)
はい、まさにコミュニケーションは誰でも、いつからでも学べる「スキル」なんです。私は以前からプレゼンテーショントレーニングを担当していましたが、実は自分自身人前で話すことがものすごく恥ずかしかったんですよ。アドバイスをしながら、自分はプレゼンが苦手という(笑)。
なので、そこを変えたいと思って米国に行って修業したんですが、そこで「コミュニケーションは才能ではない」ということを、身をもって体験しました。米国には学術的なノウハウがあり、それを授業やワークショップを通じて学べるんです。私は毎日学校やワークショップなどに通って、頭と体で覚えていきました。
日本では「自分はコミュニケーションの才能がないから」といって諦めてしまっている人が本当に多いんです。これは、日本では読み書きはやっても聞く・対話するという教育を一切受けていないことが原因です。対して海外の人たちは幼稚園の頃からその教育を受けていますし、大人になってからもプレゼンのサークルに入ったり、学校に通ったりしてスキルを上げ続けているんですよね。この差は大きいし、もったいないと感じています。
コミュニケーションは「才能」にあらず
―なぜ日本ではそのような形になってしまっているのでしょうか?
(岡本)
先ほどお話しした教育も原因の一つですが、そもそも日本は非常に同質性の高い文化だったので、「言わなくても伝わる」という以心伝心の文化があり、学ぶべきものであるということが認識されていなかったんですよね。ただ、昨今価値観も多様化している中で、そういった昭和型のコミュニケーションっていうのは、もう立ち行かなくなっているけれども、どうしていいか分からない人が多いというのが現状です。
また、入ると意外とやっていけてしまうのが日本の会社だったりするんですよね。シャイなことは個性の一つだと受け入れられますし、コミュ力がなくても、仕事さえできていればいいのではというスタンスでもどうにかなってしまうんです。ただ、欧米だとシャイであることは致命的です。
何よりもったいないのは、能力を持っている、いいものを作っているのに、その魅力を伝えられずに損をしてしまっているケース。コミュ力がある人だけが得をする世界になっているのはおかしいと思っています。
なので、ただコミュ力をつけさせようということではなくて、みんなが「自身の能力分のコミュ力をつける」ことによって、日本社会はもっと活力が出てくるのではと思っています。
(青木)
お相撲さんなんかもそうですよね。昔は「力士は多くを語るな」という風潮がありましたが、最近は取組直後のインタビューでもかなりしゃべりますよね。しゃべるから人気が出て、声援が来る。声援が来るから、力が出るといういいサイクルが生まれています。そのほか最近の象徴的な例で言うとWBCの大谷翔平選手ですよね。能力のある人があれだけ高いコミュ力を持っていると、さらに注目されるという。
(岡本)
野球の栗山英樹監督や、サッカーの森保一監督もそうです。とにかくしゃべりがうまい。ただ、一方的にああしろという命令型ではなく、みんなでディスカッションしていこうね、みんながリーダーだよねというスタンスを持っていることが特徴的です。
つまり「言って聞かせる」というより、「聞いて言わせる」というリーダーシップです。海外でもGoogleやマイクロソフトなどはそのようなスタンスを持った方がトップになっていますし、新しい時代のリーダーシップとしては「コミュ力の重要性」がトレンドになってきていることを感じます。
―日本では昔から「男は黙って〜」と言ったような話が数多くあります。男女間や世代間などでの違いはあるのでしょうか?
(青木)
やっぱり歴史ですよね。親や先輩を見ているから「そうあるべき」という流れができてしまっている。
(岡本)
私も同じ印象です。ただ一方でこれは性差ではなく、環境だと思っています。例えばニューヨークに行くと、タクシーに乗った時に男性の運転手さんがずっとしゃべっていたりするんですよ。日本では環境、特に企業文化の中で「男は多くを語るな」ということを刷り込まれているんですよね。
でも実は男女年齢関係なく、みんなしゃべりたいんですよ。
日本でも高まる「コミュ力の必要性」
―最近はコミュ力を高めることに対して、皆さんどのように感じていらっしゃるのでしょうか?
(青木)
コミュ力の必要性を感じる人が確実に多くなってきていますね。これは間違いありません。特に最近、動画での情報発信によりオンラインでスピーチするケースが増えました。例えば、グローバルに発信しなければいけないんだけれども、目線を下に向け原稿を読むだけでは伝わらないので何とかしたいといった相談を受けることが多くなってきました。
(岡本)
グローバル化で日本もその波が来ていますし、若い方でも関心を持っている人は増えてきています。
多くの日本人は小さな瓶に閉じ込められちゃっているんですよ。手も出しちゃいけないし、声も上げてはいけないという教育を受けて、「出るくいは打たれる」というカルチャーが出来上がってしまっています。私たちの仕事って、その瓶を割ることなんですよ。もっと手を出していいよ、声を上げていいよって伝えて、自身の「コンフォートゾーン」を広げてあげる作業です。もっと解放して、自分自身をきちんと表現できるようになってほしいと思って活動しています。
(後編へ続く)
後編ではコミュ力を高めるためのトレーニングについて、更にじっくりとお話を伺っていきたいと思います。
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
電通PRC―PRX事務局からのご案内
❶トップコミュニケーション・プログラム
電通PRコンサルティングでは、企業リーダーの為のコミュニケーション・プログラムをご用意しています。様々なステークホルダーやメディアを想定した「スピーチライティング」支援から、「パブリック・スピーキング」や「メディアトレーニング」など、メディア出身者、演出家、心理学者など、実績豊かで多彩な講師陣がチームを編成して、企業リーダーのコミュニケーション力向上をお手伝いします。(※本記事に登場いただいた、岡本純子さんも、当社の外部サポートメンバーのおひとりです。)
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