「コミュ力は才能?」PRコンサルに聞くコミュニケーション力を上げる方法
グローバル化が進み、価値観も多様化してきた現代。「いいものをつくる」だけではなく、「そのよさをどう伝えるか?」というコミュ力(コミュニケーション力)が企業の成長を左右すると言ってもいい世の中になってきました。しかし、まだ日本の多くの方が「コミュ力は才能」と考えています。
そこで今回は、「コミュニケーション力は鍛えられるスキルである」として、企業リーダーをはじめ多くのビジネスパーソンの「コミュニケーション・トレーニング」を行うとともに、著書「世界最高の話し方」が15万部を突破するなど高い人気を誇る、エグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジストの岡本純子さんをお招きし、電通PRコンサルティングのPA&危機管理広報コンサルタント・青木浩一とともに、お話しいただきました。
(左) 岡本純子(おかもと・じゅんこ) (右) 青木浩一(あおき・こういち) |
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コミュニケーション力は鍛えられる「スキル」
―本日はよろしくお願いします。最初に活動内容、そして活動を通じての気付きなどがあれば教えてください。
岡本)私は「話し方の家庭教師」として、社長をはじめとした企業のトップ層を中心に話し方を教えています。
日本ではコミュニケーションは才能だ、自分は話すことが苦手だと思われている部分があるので、こうやればうまくいくんだということをご存じない方が多いんです。特に最近、日本の企業は「リモートワーク」「飲みニケーションの減少」、それからすぐに「○○ハラ」と言われてしまうという三重苦に見舞われています。この三重苦で、いわゆるトップダウンのコミュニケーションに慣れてしまった昭和型のサラリーマンの方々は非常に苦労しています。
でも実は日本のほとんどの課題って、元をたどるとコミュニケーションに起因していると言ってもいいと思うんですね。なのでコミュニケーションの科学を学び、コミュ力を鍛えていく必要性が高まってきています。ちなみに最近はトップだけでなく、もう少し下の世代を対象に、「次世代リーダー向けの話し方の学校」を立ち上げました。
青木)当社でもトップコミュニケーション、パブリックスピーキングに非常に力を入れています。
これまで多くの方と相対する機会をいただいてきましたが、そこで思うのは、積極的に取り組もうとされる方と、尻込みされてしまう方がどうしてもいらっしゃるということですね。「こういう話し方をしましょう」「ここでは少し声を上げてください」といったアドバイスは強制をしてもなかなかふに落ちないところもあるので、いかに前向きに取り組んでいただくかということに難しさを感じています。
―お話から、「コミュニケーションはスキルであり、トレーニングできる」という印象を受けましたが、実際どうでしょうか?
岡本)はい、まさにコミュニケーションは誰でも、いつからでも学べる「スキル」なんです。私は以前からプレゼンテーショントレーニングを担当していましたが、実は自分自身人前で話すことがものすごく恥ずかしかったんですよ。アドバイスをしながら、自分はプレゼンが苦手という(笑)。
なので、そこを変えたいと思って米国に行って修業したんですが、そこで「コミュニケーションは才能ではない」ということを、身をもって体験しました。米国には学術的なノウハウがあり、それを授業やワークショップを通じて学べるんです。私は毎日学校やワークショップなどに通って、頭と体で覚えていきました。
日本では「自分はコミュニケーションの才能がないから」といって諦めてしまっている人が本当に多いんです。これは、日本では読み書きはやっても聞く・対話するという教育を一切受けていないことが原因です。対して海外の人たちは幼稚園の頃からその教育を受けていますし、大人になってからもプレゼンのサークルに入ったり、学校に通ったりしてスキルを上げ続けているんですよね。この差は大きいし、もったいないと感じています。
コミュニケーションは「才能」にあらず
―なぜ日本ではそのような形になってしまっているのでしょうか?
岡本)先ほどお話しした教育も原因の一つですが、そもそも日本は非常に同質性の高い文化だったので、「言わなくても伝わる」という以心伝心の文化があり、学ぶべきものであるということが認識されていなかったんですよね。ただ、昨今価値観も多様化している中で、そういった昭和型のコミュニケーションっていうのは、もう立ち行かなくなっているけれども、どうしていいか分からない人が多いというのが現状です。
また、入ると意外とやっていけてしまうのが日本の会社だったりするんですよね。シャイなことは個性の一つだと受け入れられますし、コミュ力がなくても、仕事さえできていればいいのではというスタンスでもどうにかなってしまうんです。ただ、欧米だとシャイであることは致命的です。
何よりもったいないのは、能力を持っている、いいものを作っているのに、その魅力を伝えられずに損をしてしまっているケース。コミュ力がある人だけが得をする世界になっているのはおかしいと思っています。
なので、ただコミュ力をつけさせようということではなくて、みんなが「自身の能力分のコミュ力をつける」ことによって、日本社会はもっと活力が出てくるのではと思っています。
青木)お相撲さんなんかもそうですよね。昔は「力士は多くを語るな」という風潮がありましたが、最近は取組直後のインタビューでもかなりしゃべりますよね。しゃべるから人気が出て、声援が来る。声援が来るから、力が出るといういいサイクルが生まれています。
そのほか最近の象徴的な例で言うとWBCの大谷翔平選手ですよね。能力のある人があれだけ高いコミュ力を持っていると、さらに注目されるという。
岡本)野球の栗山英樹監督や、サッカーの森保一監督もそうです。とにかくしゃべりがうまい。ただ、一方的にああしろという命令型ではなく、みんなでディスカッションしていこうね、みんながリーダーだよねというスタンスを持っていることが特徴的です。
つまり「言って聞かせる」というより、「聞いて言わせる」というリーダーシップです。海外でもGoogleやマイクロソフトなどはそのようなスタンスを持った方がトップになっていますし、新しい時代のリーダーシップとしては「コミュ力の重要性」がトレンドになってきていることを感じます。
―日本では昔から「男は黙って〜」と言ったような話が数多くあります。男女間や世代間などでの違いはあるのでしょうか?
青木)やっぱり歴史ですよね。親や先輩を見ているから「そうあるべき」という流れができてしまっている。
岡本)私も同じ印象です。ただ一方でこれは性差ではなく、環境だと思っています。例えばニューヨークに行くと、タクシーに乗った時に男性の運転手さんがずっとしゃべっていたりするんですよ。日本では環境、特に企業文化の中で「男は多くを語るな」ということを刷り込まれているんですよね。
でも実は男女年齢関係なく、みんなしゃべりたいんですよ。
日本でも高まる「コミュ力の必要性」
―最近はコミュ力を高めることに対して、皆さんどのように感じていらっしゃるのでしょうか?
青木)コミュ力の必要性を感じる人が確実に多くなってきていますね。これは間違いありません。特に最近、動画での情報発信によりオンラインでスピーチするケースが増えました。例えば、グローバルに発信しなければいけないんだけれども、目線を下に向け原稿を読むだけでは伝わらないので何とかしたいといった相談を受けることが多くなってきました。
岡本)グローバル化で日本もその波が来ていますし、若い方でも関心を持っている人は増えてきています。
多くの日本人は小さな瓶に閉じ込められちゃっているんですよ。手も出しちゃいけないし、声も上げてはいけないという教育を受けて、「出るくいは打たれる」というカルチャーが出来上がってしまっています。私たちの仕事って、その瓶を割ることなんですよ。もっと手を出していいよ、声を上げていいよって伝えて、自身の「コンフォートゾーン」を広げてあげる作業です。もっと解放して、自分自身をきちんと表現できるようになってほしいと思って活動しています。
一番必要なのは「意識」
―実際にトレーニングの講師をされていて、効果が出る人と出にくい人について教えてください。
岡本)一番重要なのが「意識」なんですよね。実は、自分で「変わりたい」と思っている人は100%効果が出るんです。なので、自分から「変えてください」と言って来られる方は、私自身も本当にやりがいがあるし、実際どんどん変わっていきます。
ただ、「会社から言われて仕方なく来た」という人は一番変わりにくいです。そもそも必要ないと思っているのでトレーニングにも身が入らず、途中で「自分には必要ない」と言って帰ってしまった人もいました(笑)
あとは、自分で一生懸命練習するのもいいんですが、筋トレでも変な形で練習すると変なところに筋肉がついてしまいますよね?コミュニケーションもスキルである以上、しっかりとコミットする意識、プロから学ぶ意識を持つことが重要です。
青木)前回も少し話しましたが、自分が講師として担当させていただく時には、トレーニングなんか必要ないと思っている人を「いかに乗せて“自分ゴト化”してもらうか」というところが一番注力する部分ですね。
そのために事前の準備を重視しています。アンケートを取ってこれまでのご経験や自覚しているクセなどを書き込んでいただく、また以前に社内外でお話しされている動画を拝見したりといったご本人のコミュ力レベルをある程度把握しておくことは欠かせません。
加えて、直近の関連記事を集めたり、ホームページなどを拝見してその企業の風土や社風を把握しておくことにも注力しています。
「理論」を学びながら、ひたすら人前で「実践」
―実際のトレーニングの進め方について教えてください。
岡本)私が講師を務めている「世界最高の話し方の学校」は全7回あります。1回目は雑談、2回目はボディランゲージ、3回目は説明、4回目は説得といった形で、毎回異なるテーマで課題を出して、ひたすら人前で表現していってもらう形を取っています。
それに加え、ある程度の基礎知識は必要なので、理論を基に裏付けを説明していきます。「こういう形でボディランゲージをするのは、こういう意味があるから」と説明を加えて、理解してもらうイメージです。理論と実践を積み重ねていくことで、最後には大きく変わってきます。
ちなみにこの学校ではコミュニケーションを通じたチームビルディングをしていく実験もしているんです。「小学校のようなコミュニティーをつくる」ようなイメージでしょうか。普段の授業や遠足、行事を通じて思い出を積み重ねて、大人になっても帰ってくる場所ができるという。
プログラムは3カ月間ですが、初めての人と何度も会って、食事をして、それぞれ自身の弱みを徹底的に探して、人前でさらけ出していくんです。このような「恥ずかしいこと」を積み重ねていくうちに、だんだんその恥ずかしさがなくなっていって、最終的には年齢、性別、職業関係なく、ものすごく仲良くなっていくんですよ。
青木)前述の事前準備もさることながら、迎えた当日のトレーニングでは対象者の言葉の選び方や話し方(バーバル)、また表情・動作(ノンバーバル)の良いところや持ち味をいち早く見つけて、「まず褒める」ことを心がけています。褒めて、自分もまんざらでもないと感じていただきます。その上で、記録した映像を客観的にご覧いただきながら、さらにこうすればもっと良くなるというポイントをディスカッションしながら確認していきます。
これも前述の、「乗せる」ということで言えば、当日ドアを開けて入ってこられた様子を見て、まず「その方をふっと笑わせる言葉はないかな」と考えてみたりもしています。「アイスブレイク」という言葉がありますが、トレーニングの出だしはとても重要だと考えています。ちなみにトレーニングを受ける方には、プレゼンテーションや取材対応の際、冒頭に、まずは聴衆や記者を和ませるための、場面にふさわしい「笑み(スマイル)」を浮かべていただくことなどもアドバイスしています。
―普段気を付けること、自身でできるトレーニングなどはあるのでしょうか?
青木)まずは企業トップとしては、必ずしも本業ではない「コミュ力」について、関心や問題意識を持っていただくことではないでしょうか。
普段からさまざまな業界トップの言動を見たり聞いたりするクセをつけることが大切です。私もこの仕事をするようになって、それまで以上に人の話し方に耳を傾けることが多くなりました。例えばテレビを見たりラジオを聞いたりしながら、「この人ちょっとしゃべり過ぎだな」「こういうクセがあるな」、また「このメッセージは効果的だな」という批評をしてみたり。いろいろな人の話しぶりを聞いていると、その人の個性や特長が見えてくるんです。そのような経験を積み重ねながら、トレーニングを受ける方の表現力やクセを改善したり、あるいは生かしていくことに役立てています。
あとはプレゼンテーションの事前練習。プレゼンの前、スピーチ原稿を用意することがありますよね。それを読んで頭に入れておくこともさることながら、「声に出して練習する」ということがとても大切です。「この部分は他よりもゆっくり話す」とか、「ここで間を置く」「ここでちょっと目を見開く」といったようなポイントを原稿に書き込みつつ練習することは重要ですね。録画や録音をして自分で客観的に聞いてみるということもお勧めします。
トレーニングで「自分らしさ」を磨き上げよう
―こういうトレーニングを受けると、皆が同じような「型」にはまってしまうという不安を持たれている方もいるのではないでしょうか?
岡本)それは違います。トレーニングはテンプレートがあって、「声を大きくしましょう」とか「ジェスチャーしてください」ということを通り一遍に学ぶものではありません。トレーニングを通じて「自分らしさを出していきましょう」というだけなんです。
自分の弱みや強みは何か?いうことを徹底的に考えていただいて、それを踏まえて自分らしい個性をどう表現するかが重要なんです。そういうところを引き出して、最適な姿を目指していくのが私たちの活動です。なので、みんな全然仕上がりは違ってきますよ。
―最後に、コミュ力を鍛えたい皆様への メッセージをお願いします。
岡本)私が一番お伝えしたいのは、繰り返しになりますが「コミュ力は鍛えられる」ということです。この仕事をしていて感じるのは、本当に皆さんそのことを知らないんですよね。学んだら必ず変わるし、ビフォーアフターで自信がついた自分に出会うことができるということを、多くの人に知ってもらえたらと思います。
青木)トップや役員の言動は、そのままその企業や組織のレピュテーションに反映されます。SNSや動画が当たり前になって、顔を出して話す機会も格段に増えました。「あの人の経営する会社だったら信頼できる」から始まって「あの会社には共感できる」とステークホルダーに思ってもらうためにも、「コミュ力」についてもっともっと関心を持っていただければと考えています。
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
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