【映像時代の企業PR戦略❷】いま求められるトップのコミュニケーション力
現代は「映像時代」―。テレビだけでなく「YouTube」「TikTok」などさまざまな動画SNSの利用率も高まり、いまや映像を活用せずして企業のコミュニケーションは成立しないと言える時代になってきています。
今回の「PRX」では、若手ビジネス層に人気のビジネス動画メディア「PIVOT」のチーフ・グローバルエディターの竹下隆一郎さんをお招きして開催したセミナー(※)から、一部内容を抜粋してご紹介します。
前編は竹下さんに、メディアの最新事情や動画メディアの可能性について語っていただきました。後編では、当社ソリューションデザイン部部長の今井慎之助、コーポレートコミュニケーション1部 チーフコンサルタントの小野真世も加わり、社会に望まれる現代の企業トップ像、そしてそれを目指すためのトレーニングの手法についてご紹介します。
※「WEBメディアの最前線から見えるコミュニケーションの潮流」(2023年10月19日オンライン開催、電通PRコンサルティング主催)
前編の記事はこちらから▼
■PIVOT株式会社 チーフ・グローバルエディター 竹下 隆一郎氏 プロフィール
朝日新聞記者、スタンフォード大学客員研究員を経て、2016年5月ハフポスト日本版編集長に就任。2017年7月末にハフポストを退任し、PIVOT創業メンバーに。2021年3月のビジネス映像メディア「PIVOT」をローンチした。同氏が手がけるビジネス映像メディア「PIVOT」は2022年3月のサービス開始以来、わずか1年でYouTubeチャンネル登録者数33.2万人突破、 広告売上は2億円突破(2023年4月時点)。U-45のビジネスパーソン支持率約77%を記録する、いま一番勢いのあるビジネス映像メディアのひとつである。
Website:https://pivot.inc/
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「映像時代」に向いている経営者、向いていない経営者が二極化
今井:前編では、映像時代に「向いている」「向いていない」で、企業経営者が二極化しているというお話がありました。
竹下さん(以下敬称略):はい、本当にパキッと二極化している印象を持っています。前回もお話ししましたが、向いている人の特徴は「言葉の強さ」を持っている人です。記者会見などで準備した回答をそのまま話すだけでは印象に残りません。これからの経営者は「言葉の強さ」を意識してコミュニケーションしていかなければならず、そのためのトレーニングが必要だと思っています。
今井:当社ではこれまでもトップのコミュニケーショントレーニングを行ってきましたが、当社の場合、企業からトレーニングの依頼を受けるのは、どういうときが多いのでしょうか?
小野:やはり、就任前後ですね。「メディアに出なくてはいけない」という意識が新社長にも芽生えてきますので、取り組みやすいのかもしれません。そこで自分が伝えたいことを整理して、声に出して、ブラッシュアップをしていく。こうしたニーズが最も多く、四半期ごと、中期経営計画、中間決算など、企業経営の重要なタイミングに合わせて依頼されることもあります。
竹下:もちろんそのタイミングは当然やるべきですが、私たちは、これをさらに進化させていきたいと思っています。これまで、広報でいう「山」は新社長就任や記者会見といった言わば企業の既存スケジュールに合わせた「受動的」なタイミングに左右されていましたが、今は全部取っ払って、自分たちで仕掛けていくこと、すなわち能動的に「自分たちで山をつくる」ということを意識していくべきだと思っています。消費者や取引先企業にとって、企業の既存スケジュールは厳密にはあまり関係ないからです。
「能動的に山をつくる」ことで生まれる効果とは?
今井:「能動的に山をつくるべき」理由について教えてください。
竹下:いろいろな意味で「積極的になれる」というところが大きいです。自ら積極的に情報発信の山をつくれれば、その分知ってもらえる機会は増えます。それだけでなく、そこからメディアの取材が入ることもあるので、さらに情報が広がっていくチャンスが生まれるということになります。
また、自分たちで山をつくろうということになれば、「自分たちの商品・取り組みも発信したい!」とみんなが一生懸命になってくるのです。広報だけでなく営業や技術系の方も関わるようになり、結果として全社的な広報マインドが高まることにもつながります。
今井:しかし、実際にいつ山をつくればいいのか悩む企業も多いと思います。どのようなタイミングで相談すれば良いのでしょうか?
竹下: 「山をつくる」ということは、「課題をコミュニケーションによって解決する」ということだと考えています。よって、私たちにご相談いただく場合、まず「何について悩んでいるんですか?」というヒアリングから入ります。「採用」「社内士気の向上」「営業力強化」…いろいろありますよね。一つも課題がない企業というのはあり得ません。そこで私は、それぞれの企業が持つ課題を、映像メディアでの情報発信を通じて解決していきましょう、という伝え方をしています。ですので、まずはぼやっとした相談から始めていただければ大丈夫です。
業界全体の話をできるようになる「オピニオンリーダー」を目指そう
今井:「能動的な山」をつくる場合、気を付けるべきポイントは何でしょうか?
竹下:従来の受動的な発信ですと「記者から聞かれたことにどうリアクションするか?」を整理していく作業でしたが、能動的な発信の場合は「自分たちが伝えたいことを、どのように設計して、発信するか?」を意識することが重要になります。
小野:私の場合は、「自分の言葉で話す」ということを重要視しています。広報の方が用意したものを一言一句間違えないように言わなければいけないと思う方も結構いらっしゃるので、「ご自分の言葉に言い換えましょう」とアドバイスするケースが多いですね。あとはあまり外向けにお話をされてきた経験がない方もいらっしゃいます。その場合は、「外向け表現」の工夫の仕方をご説明することも多いですね。
また、企業トップのスピーチライティングをお手伝いすることも多くありますが、その際には、概念的な話だけではなく、社長の人柄や考え方が伝わるような具体的なエピソードを盛り込むようにしています。社長が普段使っている言葉やキーワードを見つけていくということも大切なポイントです。
竹下:「概念的」というのはすごく良い指摘です。X(旧Twitter)でバズらせるコツは「オピニオンリーダーになること」なんです。ここでのポイントは、自社だけではなく、業界全体を語ること。「この業界のことは、この人が分かってるね」という認識を持ってもらえるようになると、一気に注目されます。
当たり前ですが、企業のリーダーの方は業界のことを一番理解しています。これはワイドショーのコメンテーターではできない、最前線のビジネスリーダーだからこそできることだと考えています。よって、業界を俯瞰(ふかん)したメッセージを発信しつつも、自社ではこのような取り組みに挑戦していますよ、というような伝え方にすると良いのではないでしょうか。
今井:抽象的な概念から、具体的な話に落としていくということですね。例えばSDGsなどはいかがでしょうか?多くの方が関心を持つ一方で、中途半端に伝えると「きれいごと」と捉えられるケースも多いようです。
小野:「SDGsに関して発信したい」と相談を受けるケースはよくあります。が、一方で、それをどこまでどう話せばよいのか、悩んでいる方が多いですね。まずは自分の考え方を話すべきですが、自社の事業にも寄せた内容にすることをお勧めしています。
竹下:それに加えて、「学び」につなげていくことを意識すると良いと思います。例えばミールキットを販売しているオイシックス・ラ・大地という会社があります。彼らはミールキットを「便利なだけでなく、フードロスを防ぐことができる」商品であるという情報発信をしているんですね。そうすると、生活者にとっても「確かにミールキットにした方がムダをなくせるな」「フードロスにも貢献できるんだな」という学びにつながっていくわけです。
このように、発信する内容に極秘情報は必ずしも必要ではありません。その業界にいれば誰でも分かることでも、外に向けて発信していくことを通じて、訴求相手の「学び」につながることは、とても多いのです。よって、今ある情報の価値に気付き、そしてそれをどうコミュニケーションしていくかということに尽きます。
詰まってもいい。「正直に、真剣に話す」ことで伝わる
今井:「YouTube」で活躍している中田敦彦さんはプレゼンテーションに定評がありますが、中田さんのうまさはどこにあるのでしょうか?
竹下:話し方と、組み合わせのうまさだと思います。私も記者をしていたから分かりますが、世の中に隠された情報って、実はほとんどないのです。そこで、どういう組み合わせでストーリーを紡いでいくのか。この点が、中田さんは本当にお上手です。
今井:とはいえ企業のトップにも得意不得意があると思います。それをどうやって見極めて、トレーニングしていくのでしょうか?
竹下:全ての人が中田さんのような流ちょうなプレゼンテーションを目指す必要はありません。静かな人には、静かな人独特の良さがあります。映像メディアでは、良くも悪くも、人柄が全て出てしまうという特徴があります。例えば「PIVOT」には「EXTREME SCIENCE」という番組があるのですが、そこでご出演いただく科学者の方は、プロの話し手ではありません。当たり前ですが科学者として超一流なので、流ちょうに話すことを「PIVOT」としても求めていません。私もそうですが、場合によっては、言葉選びを間違えたり、途中で沈黙が生まれてしまったりすることもあります。
でも、そこがまた良いのです。テレビだとカットされてしまいますが、それを許容するのがインターネットメディア。だからこそ、そういった場合、私からは「詰まってもいいから、正直に話しましょう」とお伝えしています。たとえ流ちょうでなくても、人柄や真剣さで、好感を持たれ、伝わりやすくなると考えています。
今井:ありがとうございます!最後にメッセージをお願いします。
竹下: これまで出演していただいた方でも、最初は少し恥ずかしがられて、ご自身の言葉で語ることを敬遠されるケースもありました。しかし、われわれは決して流ちょうに話される方を求めているわけではありません。一生懸命にチャレンジしている方を求めています。
繰り返しとなりますが、「課題がない」企業は一つもありません。そして課題に感じていることの多くは、コミュニケーション活動で解決できるのです。私たちはビジネスメディアを運営し、何百人ものビジネスリーダーを取材してきました。こうした取材活動を通じて、メディアとしての視点はもちろん、出演者として情報発信する方に関するノウハウや知見も蓄積してきています。企業リーダーの発信力向上、コミュニケーション力の向上にもお役に立てるはずです。ぜひ一度、ぼんやりとした課題、悩みからでもご相談ください!
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※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
電通PRC-PRX事務局からのご案内
電通PRコンサルティングとビジネス動画メディア「PIVOT」では、共同でビジネスリーダーのプレゼンテーショントレーニングやメディアトレーニングなどを実施し、かつ取材・情報発信の実践までセットにした、サポートプログラム「ビジネス映像メディア『PIVOT』コラボレーション・プログラム」をご用意しています。
下記リンクの「トップ コミュニケーション・プログラム」資料内に当プログラムもご紹介していますので、ぜひご覧ください。
トップ コミュニケーション・プログラム
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