「イシュー起点の企業PR戦略」で多様化する経営期待に応える(今なぜ企業ブランドなのか06)
イシュー起点のコミュニケーション攻略のカギを探る
多彩なPESOメディアの発展とともに、「情報流通構造®」の多次元化はますます進行し、多様なコミュニケーションのあり方が問われるようになりました。これに伴い、コーポレート・コミュニケーションにおいても、ターゲットが「マルチステークホルダー」に広がっています。こうした情報環境の変化を背景に、企業が「イシュー」に向き合う重要性が高まっています。
つきましては、様々な経営課題の解決に貢献する「イシュー起点の企業広報戦略」について、その背景や手段などを、様々な自社調査データなどを用いながら、「企業広報戦略研究所(電通PRコンサルティング内)」上席研究員 坂本陽亮が解説します。
人気シリーズ【今なぜ企業ブランドなのか】
過去記事はこちらからご覧いただけます。
- 企業ブランドでモノを売る!
- 共創思考の「ナラティブ」で企業ブランドをデザインする
- 成長ファクターとしての「人材」とESGブランディング
- 「人的資本経営」広報PRの可能性と企業ブランドへの貢献
- 企業のメディア化とオウンドメディア戦略
- 「イシュー起点の企業PR戦略」で多様化する経営期待に応える(本記事)
目次[非表示]
イシューへの取り組みは、生活者の行動も喚起
情報環境の急激な変化に伴い、企業にとって向き合うべき、ステークホルダーは多様化しています。そして、企業がこれらステークホルダーの期待に応えていくためには、それぞれの関心ごとである「イシュー(※)」、更にはより多くのステークホルダーに関わる社会的「イシュー」に向き合う姿勢と、その発信が重要になってきています。
※イシュー(issue):本稿では、企業における複数のステークホルダーの利害関係に関わる「問題」や「論点」を指す言葉として使用
例えば、「エネルギー」「物価上昇」「人財(人的資本)」など、2023年現在において世の中から高い関心を集める「イシュー」に対して、自社独自のアプローチで良いインパクトをもたらすことができれば、顧客だけでなく、株主、就活生、業界全体など、さまざまなステークホルダーからのレピュテーション向上につながる事が期待されます。
また、企業として「イシュー」に向き合う重要性は、それだけではありません。「企業広報戦略研究所(電通PRコンサルティング内)」が実施した「2022年度ESG/SDGsに関する意識調査」によると、生活者に対し、企業のESGの取り組みを知った後に取った行動を聴取したところ、43.8%の人が「企業のサイトを検索」「家族や友人に話す」「商品・サービスを購入」をはじめとした行動を起こしていた事がわかります(図1)。このように、企業の「イシュー」への取り組みが伝わることは、レピュテーションのみならず、さまざまな効果を及ぼすことに注目頂きたいと思います。
図1:企業のESGの取り組みを知った後、取った行動
生活者に身近なビジネスイシューにフォーカスしよう
さて次に、企業が社会的「イシュー」に向き合う事を決めた際に、ただちに直面する課題、つまり「具体的に、どのようなテーマの『イシュー』に絞り込むか」という点について考えていきたいと思います。
近年、コロナ禍以降の社会的な「社会価値(Social Value)」への注目の高まりを考えると、生活者にとっていかに身近な問題であり(切迫しているか)、かつ、その企業が取り組むべきと感じられるものであるか(事業活動との親和性)がますます重要になっています(図2)。
例えば、2023年3月より「有価証券報告書」における非財務情報開示の義務化が開始されました。これを受けて、企業経営の重要テーマとなっているのが「人的資本」です。企業としては、「人的資本」に関する開示情報をもとに、成長戦略における投資等の経営対策や一貫性のある説明ストーリー発信に期待が寄せられています。それと同時に、従業員にとってみれば待遇や報酬などに関係するテーマであるため、比較的多くの生活者にとっても身近なものであり、かつ、企業に取り組みが期待されているテーマでもあると言えます。つまり、「イシュー」の観点からも、企業が取り組む必要性の高いテーマであると考えられるわけです。
図2:社会価値を生む企業活動の類型(企業広報戦略研究所作成)
「人財」への注目はコーポレート・コミュニケーション強化のチャンス
また、人財のテーマは、コーポレート・コミュニケーションの領域の一つ、「従業員エンゲージメント」とも関係性の深い領域といえます。改めて、「従業員起点での企業ブランディング浸透・強化」に取り組む契機として捉え返しては如何でしょうか。
当社内「企業広報戦略研究所」が2021年に実施した「第2回インターナルブランディング®調査」結果によると、「エンゲージメントの高いビジネスパーソンは、退職意向や会社への不安・不信感が低くなる」という結果が出ている事がわかります(図3)。様々なステークホルダーに良いインパクトを波及させていく第一歩として、このように、企業にとって一番近いステークホルダーである「従業員」とのコミュニケーションを再考し、ここから企業ブランディングに着手するというもの一案でしょう。
図3:エンゲージメントを高めることによって、期待できる効果
広報部門は、メッセージ・ストーリー力の強化に注力
さて次に、近年の広報部門が抱える課題感の観点からも、「『イシュー』起点のコミュニケーション」攻略のヒントを探りたいと思います。
ここでは、当社内「企業広報戦略研究所」が上場企業の広報部門の責任者を対象に、広報活動実態について聴取した「企業の広報活動に関する調査」(2021年)のデータをご参照ください(図4)。同調査「今後強化したい(広報活動の)項目」では、「クリエイティブ力」がトップに位置付けられています。これをさらに内容を細かく見てみると、ステークホルダーに応じたコンテンツ制作に加えて、「メッセージ・ストーリーの策定力を強化したい」という意向の強さが浮かび上がっています。
本稿を読まれている方の中にも、例えば企業/事業/商品の「ブランディング」において、「パーパス」や「ナラティブ」に関する議論をされたことがある方も多数いらっしゃるのではないでしょうか。この議論の中では、メッセージ・ストーリー策定や、これを導き出すための社会的イシュー分析は、必要不可欠な要素となります。またさらに、イシューの分析は、広義の「パブリック・リレーション」を担う各社広報部門が専門能力を発揮しやすい分野であり、まさに今の時代、「企業ブランディング」において、広報部門の積極的な貢献が求められている状況にあると言えます。
図4:上場企業の広報責任者が回答する「今後強化したい項目」
イシューはタイミングが命、事業活動との接点を常に意識
最後に、「イシュー」の「賞味期限」にも着目したいと思います。当然、コミュニケーションの照準を定める「イシュー」の内容にもよりますが、特に社会の注目が集まる「イシュー」は刻々と変化していくため、広報部門としては、その変化のトレンドをいち早く察知し、できる限り効果的なタイミングで、「イシュー」に関連する企業の取り組みの情報発信を設計していきたところです。
そこでご提案するのが「企業PR戦略カレンダー」の策定です。広報部門におかれては、年間/月間での情報発信の予定を整理した「カレンダー」を作成し、運用されていることも多いと思います。この「情報発信カレンダー」を「イシュー」視点でアップデートしてみては如何でしょうか。自社にとっての重要な「イシュー」に関わる関連行催事をプロットし、「イシュー」との接点を定期的に確認しながら、効果的な内容・タイミングを探る事で、戦略的な情報発信の設計とマネジメントの向上を図ることができます(図5)。是非ご活用ください。
図5:イシューと連携させたカレンダーのイメージ
本稿では、「イシュー」を絞り込む観点、ブランディングやメッセージ・ストーリー策定との接点、情報発信のタイミングを図る重要性の観点から、「『イシュー』起点のコミュニケーション」攻略のポイントを整理してきました。戦略的な企業コミュニケーションにおいて、自社が向き合うべき「イシュー」への対策と情報発信における活用を考える機会にしていただけましたら幸いです。
電通PRC-PRX事務局からのご案内
① 2023年度ビジネス・イシュー・カレンダー抜粋版
(「企業PR戦略カレンダー」作成プログラムのご提案付き)
2023年度の重要イシューとして「物価上昇」「エネルギー」「人財」を中心に、1年を通じて注目すべき行事や予定を一覧で整理し、その抜粋版をご提供しています。また、企業が各重要イシューに向き合うための、「広報対策のポイント」なども整理しております。巻末には、年間の企業PR戦略策定に効果的な「『企業PR戦略カレンダー』作成プログラムのご提案」もご用意しました。
②「企業メッセージづくり」とIR/PRコミュニケーション・サポートプログラム
多くのステークホルダーから、(非財務情報を含めた)企業の経営方針や成長戦略を、一貫性のある「メッセージ」として語る事が強く期待されています。当社では、お客さまの「企業価値」が、安定的、継続的に、適切な評価を獲得し、企業成長を支援する事を目的に、企業メッセージの開発や発信をお手伝いしています。