【メディア化する企業】オウンドメディア戦略を大学広報の事例で学ぶ
企業ブランドやパーパスにこれまで以上に関心が集まる今、企業ビジョンやパーパス策定をはじめ、企業ブランドに共感を誘うPRコミュニケーション手法に関するご相談が急増しています。
そういった中、「ジャパンブランディングアワード2021」大学初の最高賞受賞、イギリス高等教育専門誌による「THEインパクトランキング2022」全国私大6位、西日本私大2位など、大学ブランディングにおいて目覚ましい躍進を続ける龍谷大学(京都市伏見区)の大学ブランドPR活動、とくに活動の中核をなす「オウンドメディア戦略」に注目しました。
持続可能な社会実現に向け独自のアプローチとして、「仏教SDGs」を掲げる龍谷大学。「社内と社外のハブ機能」として、更には「(一般マスメディア含む)対外的な情報流通促進のハブ機能」として積極的に運用されている「オウンドメディア」や大学広報活動を通じて、社内と社外の共感を呼び込み、メディアやステークホルダーとのエンゲージメントを強化し続けています。
オウンドメディアを核にした、企業(団体)ブランディングに資する、「運動体」としてのPRコミュニケーションの在り方を通じて、「メディア化」する企業・団体に迫ります。
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オウンドメディアで躍進 大学のPR事例に学ぶ
今や、空前のパーパス(社会的存在意義、志)経営ブーム。これは、2019年、米国財界団体である「ビジネス・ラウンドテーブル」による「企業のパーパスに関する宣言」での「ステークホルダー資本主義」転換の表明をきっかけに注目を集め始めた考え方です。
今や、VUCA時代を生き抜く成長戦略、すなわち「多様性組織の社内エンゲージメント強化対策」「マルチステークホルダーとのエンゲージメント強化対策」等の一環として、「両利きの経営を支えるコアバリュー」としても、「パーパス」は企業経営に欠かせない考え方になってきました。
これは、競争が激化する大学でも同様です。少子化が顕著になり、大学も個性・特色を打ち出す必要が迫られている今、「パーパス」を明確に定め、共感を呼び込んで、ステークホルダーとのエンゲージメントを強める事が不可欠になっています。
そういった中、日本中の名だたる有名国公立大学、マンモス大学に肩を並べて、大学ブランディングにおいて目覚ましい躍進を続けているのが、「龍谷大学」(京都市伏見区、1639年浄土真宗西本願寺境内にて創立、1922年大学設置)です。
今回は、龍谷大学学長室(広報)課長・田中雅子さんに、大学PR活動、とくに「大学(企業)ブランド価値」を伝えるオウンドメディア戦略とその運用の秘訣について、お話を伺いました。
オウンドメディア開設の経緯 「文脈」伝わらない課題の中で
―まずは、大学運営における広報活動の役割について教えてください
本学ではもともと10年単位という長期の大学運営計画を立てており、前回の長期計画がスタートしたのが2010年。その際、「広報機能の強化・充実」も掲げられました。
厳しい大学淘汰の時代を迎え、偏差値以外の価値をどのように打ち出すかを考える必要がありました。
大学の様々な情報を社会に公開し、多くの人に大学の活動内容を理解してもらい、社会から支持される存在にならなければならないと考え、大学広報は、大学経営との一体化を図り、広報の目的・対象を明確にし、それぞれの情報を関連づけながら広報活動することが求められました。
全学的な情報収集・発信体制を構築し「とにかく積極的に情報発信を行う」ことを目指して活動していましたが、2019年に総括した際、一定量のメディア掲載は実現したものの、一方で総花的となり本学らしさを社会に認知されるに至っていない。一つの「文脈」としてステークホルダーに伝わっていないということが挙げられました。
そして、個性化、特色化をはかっていくことが次の長期計画での課題となりました。
―オウンドメディアを始めたきっかけを教えてください。
前回の長期計画では、目玉として2015年に農学部が新設されました。新設学部なのでしっかりと研究内容や学生の取り組みなどを伝えていきたいと考えていたのですが、そのまま発信しても多くの方々には理解して頂きにくいのではないか?
そこで、一般の方が食や農に対して興味をかき立てられるような内容としながらも、その中に本学の研究や取り組みのユニークな情報やオリジナリティを盛り込めるような情報発信の形を目指しました。
こうした議論の結果、農学部のブランディングを目的としたWEBマガジン、「食と農の楽しさを伝える『mog-lob(もぐらぼ)』」を開設するに至りました。
オウンドメディアが広げたメディアリレーションズ
―「mog-lab」の開設以降、どのような変化がありましたか?
このサイトを立ち上げて以降、マスメディアの方々にもコンタクトの度にご紹介をしていく中で、NHK様をはじめ、数多くのテレビ番組、新聞、WEBメディアや雑誌編集部の方々、とりわけ、京都や関西エリアのリージョナルメディアの方々のみならず、東京はじめ全国のメディアの方々からも、記事内容の転載や取材のお問い合わせを頂けるようになりましたね。
今では、これまで直接的なコンタクトやリリース配信を中心としていたメディアリレーション活動に、新しい可能性が広がった活動にまで育成できていると認識しています。
加えて、WEBマガジン『mog-lob(もぐらぼ)』の社会的認知拡大に応じて、学内の教職員からの積極的な情報提供や取材協力、執筆・出演協力などが得られるようになったことも、特筆すべき成果であったと思います。この「mog-lob(もぐらぼ)」で挑戦した小さな成功の連続が、オウンドメディアという施策への期待値も高まってきたように感じています。
なお、「mog-lob(もぐらぼ)」は、現在では、農学部のみのブランドサイトから発展。「食」と「農」をテーマに、全学内に開放しており、大学全体のブランド貢献を目指す活動ステージに移行しています。ぜひ一度ご覧ください。
大学ブランディングとオウンドメディア
―大学ブランディングとそのPR活動の取り組みの経緯について教えてください。
本学では、2039年に迎える創立400周年に向けた新しい長期計画をスタートさせました(2020年〜)。
この長期計画の中では、本学として、学長のリーダーシップのもと、「SDGsに貢献する」ことを盛り込んでいます。
そもそも、SDGsの「誰一人取り残さない」社会の実現という理念と、仏教において阿弥陀仏が誓われた「摂取不捨(せっしゅふしゃ;すべての生きとし生けるものを決して見捨てない)」の心には共通性があります。
そこで、仏教を建学の精神に持つ本学として「仏教SDGs」という独自のアプローチを掲げ、積極的にSDGsの達成に取り組んでいくこととなりました。
こうした活動を伝える場として、大学ブランディングを目的に、「みんなの仏教SDGsウェブマガジン『ReTACTION(リタクション)』」を立ち上げるに至りました。
なお、「ReTACTION」には、以下の意味が込められています。
◎ReTA(利他)+ACTION(行動)
=自省利他に基づいて行動する。
◎Re(再)+TACTION(触覚)
=今一度、感覚を研ぎ澄まし、世界に触れ、持続可能な社会につながるヒントを得る。
とくに、「利他」は、本学が掲げる行動哲学「自省利他」から来ています。自らを省みて他を利するという意味です。
自己中心的な考え方をあらため、他者の幸せや社会の利益を考え行動することが、社会を再構築するカギになります。
意識改革と実践的な活動の両輪で、龍谷大学はSDGsを推進していこうという宣言の意味を込めた名称としました。
オウンドメディア運営「3つの戦略」
―大学ブランドWEBサイトを開設・運用されるにあたってどのようなことを考えましたか?
オウンドメディアは開設して終わりではなく、継続して運用していくことが最も重要です。
そのため「①体制づくり」「②テーマ・メッセージの方向性」「③情報発信の工夫」については徹底的に議論し、検討を進めてきました。
体制づくり
まず1点目。「体制づくり」については編集部を立ち上げることだけでなく、いかに「全学で取り組めるものとするか?」を考えました。
編集部がいかにがんばっても、情報が集まってこなければ長期的な運営は見込めません。そのため本学では、前回(2010~2019)の長期計画から「広報基盤強化」を掲げて約40程ある部署全てに広報責任者と担当者を置き、半年ごとに各部署での広報目標・計画を立案・提出してもらうことにしています。
―40の部署全てとは大規模ですね!しかし、各部署の担当は専門職ではないですよね?
おっしゃる通りです。なかなか骨の折れる作業ではありますが、私たち広報部門の担当者4名が約10部署ずつを担当し、各部署の担当にヒアリングしながらどのような先生がいるか、広報素材があるかという情報の整理をする形を取っています。
その後、集まった情報を見ながらこれはリリース、これはオウンドメディアといったように、それぞれの広報施策に振り分けていきます。
このように各部署の担当と直接やり取りすることによって関係性も作れたので、今では日々の情報のやり取りなどもスムースになってきました。
テーマ・メッセージの方向性
―これは大きな組織を持つ大学・企業にとっても大きな学びになりますね。次に、2点目に挙げられた「テーマ・メッセージの方向性」について教えてください。
私たちの場合、大学総合サイトと別に、前述の「Mog-lab(もぐらぼ)」が「食と農」、「ReTACTION」が「仏教SDGs」とテーマは明確に定まっていたのですが、その「伝え方」については十分に議論しました。
「ReTACTION」開設にあたっては、まず学内にあるSDGsの取り組みに関する情報を集め、それぞれがSDGs17の目標のどこに当てはまるかを整理しました。すると、大学の強みになる領域と取り組めていない領域がある事がはっきりとわかりました。
これはオウンドメディア運用戦略だけでなく、大学運営、そして広報活動においての大きな気づきにもなったと思います。
そこからコンテンツを制作していくのですが、「SDGsの●番」といったような形ではなく、地域や人、自然といった一般の生活者の方が見ても分かるようなキーワードを前面に出していく形にしました。「Mog-lab(もぐらぼ)」の「一般の方に食と農の魅力を伝える」という方針同様、「研究内容や学生の取り組み・活動(FACT)を翻訳して伝える」というイメージです。
要するに、「言いたいことを一方的に伝えるコンテンツ」の編集、制作ではなく、実際の取組・活動(FACT)をベースに、情報を届けたいステークホルダーが関心を持っていただけるであろう文脈やテーマに寄り添う形で、情報を編集、加工して提供する事。その結果、サイト全体として多くの皆さんが「入りやすい」空気を作ることができたのではないかなと思います。
情報発信の工夫
―開設後、どのような形で「見ていただく」ための取り組みをされたのでしょうか?
当然ですが、オウンドメディアは記事を読んでもらわなければ意味がありません。私たちは、まず最初に、学生や教職員など学内の関係者、いわゆる「内側の人々」にしっかりと見てもらい、「仏教SDGs」という考えを再確認/浸透させることを目標としました。
そこで、はじめに学長インタビュー記事を公開し、「仏教SDGsとはどういう考え方か。なぜ取り組むのか」、「行動哲学である自省利他(自らを省みて他を利する)」を解説する記事を公開し、そこから学内にある「仏教SDGs」をベースにしたさまざまな取り組みを紹介していきました。記事公開のタイミングではイントラネットを活用したり、twitterの公式アカウントを運用するなど、積極的に情報を届ける工夫も行いました。
その結果、開設初年度の分析データを見ると、流入は学内からが最も多くなり、初期目標を達成することができたと考えています。
そのため、2022年からは、学内対策は継続しつつも、本学サイト「mog-lob(もぐらぼ)」(前述)で得た活動実績や知見を活用して、関与者の皆様や関心を持っていただいたステークホルダーの皆さんを通じたUGCによる再発信はもちろん、テレビ、新聞からWEBメディア、雑誌などマスメディア各社の皆さんにも、情報をお届けできるような取り組みも始めました。
運動体としてのオウンドメディア~企業のメディア化~
―まずはインターナル全体の運動体としてのオウンドメディアを目指し、それを武器に、対外的(エクスターナル)な運動体としての広がりを見せていったわけですね。
はい、おかげさまで少しずつ認知もいただくようになり、今では外部からの流入が内部を大きく上回っています。また、記事を読んだ報道関係の方からの問い合わせも増えてきました。その一例が、「生理に関するプロジェクト」の記事です。
これは、本学の社会起業家育成プログラム2020で女子学生がビジネスアイデア「生理に関する正しい情報発信」を発表したことをきっかけに、教育機関として早急な対応が必要だと判断し、本学に設置した教職員によるワーキンググループの活動です。
ワーキンググループ設置後学生へのヒアリングなどの調査を実施。生理について安心できるキャンパスライフへ向けて生理用品を無料配布する装置を関西の大学で初めて全キャンパスに設置したことや教職員、学生のリアルな声をReTACTIONで紹介したところ、多くのメディアから問い合わせがあり、報道につながりました。
―オウンドメディアの運用が、広報活動を広げていったんですね。
オウンドメディア上での情報発信がきっかけとなり、大学のコンテンツがさまざまな形で社会に広がったというのは大きな効果でした。
これまではなかなかメディアに取り上げてもらえなかった内容でも、記事という翻訳されたコンテンツを見ていただくことでより理解が深まりやすくなったのもその理由と考えています。また、最近では「ReTACTION」の記事を他のメディアで転載させていただくようなケースも増えてきています。
―そのほかにはどのような効果があったのでしょうか?
英国の教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)社による「THEインパクトランキング(SDGsの枠組みを使って、世界の各大学における社会課題解決に資する取り組みを評価する世界的な大学ランキング)」において、日本国内の私立大学では5位(2021年)、6位(2022年)と上位にラインクイン頂いたことも挙げられます。
これまでも私たちはさまざまな取り組みをおこなってきましたが、「ReTACTION」という大学ブランドの発信プラットフォームを開設したことで、本学の強みを再認識し、仏教SDGsに基づく一連の取り組みとして整理して伝えられたのではないかと考えています。
2023年度からは、「ReTACTION」のコンテンツをエビデンスとしていきます。
―ありがとうございました。それでは最後にメッセージをお願いします。
オウンドメディアを通じて継続的に発信していくことで、本学のビジョンや強みが一つの大きなストーリーとして伝わっていることを実感しています。
また、先生からは「自分たちの研究内容がわかりやすく社会に伝わった」という評価をいただいたり、学生からも「取り上げてもらえてうれしかった」といった声が上がるなど、学内関係者のモチベーション向上のきっかけにもなっています。
このように、オウンドメディアは内外に対する広報活動の「軸」になりうる取り組みなのではないかと考えています。継続的な運用はなかなか大変ですが、これからも積極的に取り組み、本学の取り組みを多くの方に知っていただけるようがんばっていきます。
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
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