
AI検索に"選ばれる"情報とは?広報担当が知っておくべきAEO戦略の基本と実践
検索エンジンの進化により、従来のキーワード中心のSEO施策はもはや限界を迎えつつあります。AIが検索アルゴリズムの中心となる中、新たな最適化手法「AEO(Answer Engine Optimization)」が注目されています。
AEOでは、AIが文脈を理解し、よりユーザーの意図に沿ったコンテンツを評価するため、従来のテクニカルなSEOではなく、本質的なコンテンツ品質の向上が不可欠です。
今回は、AI研究家の中山 高史さんにインタビュー。AEOの基本概念から具体的な対策までを解説し、企業の広報担当者が今後取り組むべきポイントを整理します。
中山 高史(なかやま たかし) 総合商社、ECベンチャー、コンサルティングファーム、小売業CIO、AIベンチャー顧問を経て現職。AI Business & System コンサルタントとして、生成AIによる企業価値向上に資するビジネスイノベーションとシステム導入を推進中。 |
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目次[非表示]
- 1.日本におけるAI利用率 業界や立場により二極化傾向
- 2.2025年から変わりつつある世界の最新AI事情。「考えるAI」と自律型AI「AIエージェント」の登場
- 3.台頭しつつある“AI検索” 従来のSEOが通用しなくなる時代に これから企業広報に求められるAEOとは
- 4.「質の高い情報」と「Webサイトの画面設計」が重要 AIに選ばれるコンテンツの条件とは
- 5.人間向けとAI向け コンテンツを作り分けるPR戦略が必要
- 6.AIによる思考のフレームワークを理解した上で、ふさわしい情報を点在させることがAEOにつながる
- 7.AIの「メモリ機能」がもたらすリスク AI時代に広報が持つべき「AIリテラシー」とは
- 8.広報が意識すべきAEOコンテンツ作りのポイントとは
- 9.「冷静かつ論理的に正しく理解する」AIの登場で、より本質的なPRが求められる時代へ
- 10.まとめ
日本におけるAI利用率 業界や立場により二極化傾向
ーー企業で働く人々から一般生活者まで、AIは現在、どういった形で活用されているのでしょうか。
日本におけるAIの普及率は、業界や立場によって大きく差があるのが実情です。上場企業であっても、生成AIの活用率は全体で15〜25%程度とされている一方で、情報収集や論文作成をする大学生の間では意外と使われています。
利用の有無が置かれた環境に大きく左右されており、「必要な人だけが使っている」という二極化が進んでいる傾向にあります。
世界的に見ても、日本の企業が、生成AIを業務に導入している割合は46.8%にとどまり、米国(84.7%)やドイツ(72.7%)など他の先進国と比べて低い水準にあります。
業務における生成AIの活用状況(メールや議事録、資料作成などの補助)
出典:総務省「令和6年版情報通信白書」第5章
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/pdf/n1510000.pdf
2025年から変わりつつある世界の最新AI事情。「考えるAI」と自律型AI「AIエージェント」の登場
企業のAI活用事例としては、Microsoftが提供している「Copilot」や、OpenAIが提供する「ChatGPT」を導入する動きが広がっています。
中でも、Panasonicのような大手企業も導入を進めており、業務の効率化や情報整理を目的に活用されています。活用方法は多くの企業で共通しており、特に会議の文字起こしや議事録の作成が最も多く見られます。
そのほかにも、リサーチ業務への活用(AIによる検索補助)、文章の要約、メール返信文の仮案作成などが挙げられます。こうした取り組みにより、日々の業務における文書作成や情報処理の負担が軽減され、業務のスピードと精度の向上が期待されています。
一方で、この状況は今年から変わりつつあると私は考えています。
その理由は2つ。1つ目は、考えるAIの登場です。OpenAI社の「o1(オーワン)」や「o3 (オースリー)」、中国発のAIスタートアップ企業DeepSeek社の「DeepSeek R1」などの推論型大規模言語モデルが出てきたことで、ユーザーと対等にモノを考えて動けるAIに期待が高まっています。
2つ目は、AIのエージェント化。人間(ユーザー)が依頼したことを考えて実行する自律型AI「AIエージェント」の開発が活発化しています。
情報の収集や分析・整理、文章作成など“自己完結型”な作業が得意なAIに対して、AIエージェントは、さまざまなツールを連携させながら、複雑なタスクをこなすことができます。
主な「AIエージェント」サービス一覧(サービス発表年順)
No. |
サービス発表年月 |
ベンダー(国) |
サービス名 |
1 |
2024年10月 |
Anthropic(米国) |
Claude 3.5 Sonnet Computer use |
2 |
2024年11月 |
Microsoft(米国) |
・Copilot StudioにAIエージェント作成機能を強化
・Magentic-One
|
3 |
2025年1月 |
OpenAI(米国) |
Operator |
4 |
2025年2月 |
OpenAI(米国) |
Deep Research |
5 |
2025年3月 |
Monica(中国) |
Manus |
※2025年4月時点、中山氏へのインタビュー内容および当社リサーチ情報をもとに作成
引用:https://note.com/naka_68/n/ne10fb8145ffd?trk=public_post_comment-text
例えば、下の事例のようにユーザーがレストランの予約を依頼します。すると、AIエージェントがブラウザーを起動。依頼した「午後7時」には空きがないと判明すると、その時間に近い枠をAIエージェント自らが調べ直し、最も近い「午後6時半」に空きがあるといった提案を、ユーザーにフィードバック。予約完了までの流れをほぼ自動化してくれるものです。なお、セキュリティー面から、IDやパスワードはユーザーが入力する必要があり、重要なことを決める場合には、人に判断を委ねる設計になっています。
【事例】AIエージェント「Operator」でレストラン予約を依頼
※引用:note Takashi Nakayama 2025/2/21 18:09「ウェブサイト制作に変化の波-『AIエージェント・ファースト』の時代へ」https://note.com/naka_68/n/n64a34faed302
昨年11月にAI業界ではベンチャーであるAnthropic社の提唱したMCP(Model Context Protocol :モデル・コンテキスト・プロトコル)という画期的な技術が登場しました。MCPとは、AIと、世の中にあるさまざまなツールやサービス(Webサイト、アプリ、データベース、会社の業務システムなど)が、スムーズに情報をやり取りするための『ルール』です。
今年に入って、OpenAI、Microsoft、Googleといった、AI分野をリードする巨大テック企業が、MCPに対応すると表明。MCPがAI業界の標準になることで、AIエージェントがより進化することでしょう。
台頭しつつある“AI検索” 従来のSEOが通用しなくなる時代に これから企業広報に求められるAEOとは
ーーWebサイトへの流入元として、Googleと並んでChatGPTやPerplexityなどの“AI検索”が台頭しつつあるなかで、従来のSEOの効果が期待できなくなっている傾向はありますか。
ここ数年、Googleの検索アルゴリズムは有用なコンテンツを重視する方向へ進化しており、従来のSEO対策は通用しづらくなっています。本当に価値ある情報が重視される“コンテンツファースト”な流れは、すでに始まっている動きです。それに加えて今後は、ユーザー(人間)が検索をするのではなく、AIが情報を選び、人間に推薦・引用をするスタイルへとシフトしていくことが想定されます。
こうした検索環境の変化により、AIに情報を“見つけてもらい、使ってもらう”ための新たな対策としてAEO(Answer Engine Optimization)が重要になっています。SEOとAEOの一番の違いは、最適化の対象です。SEOが、人間(ユーザー)に見つけてもらうために検索エンジンでの上位表示を目的とするのに対し、AEOは、AIやAIエージェントに理解・引用されることを目的とします。
例えば、レストラン選びやショッピングなど、ユーザーに仕事を委託されたAIエージェントは、ユーザーの信用を裏切らないような仕事とは何かと考えます。信用されるための検索とタスク分析をAI自身が行い、信用があるサイトとして、複数の評価比較サイト内での評価レビューを確認しながら情報を厳選した上で、一番いいレストランや商品を採用するのです。
ーーこれまでのSEOと比較して、今後のAI最適化はより難しくなってくるのでしょうか。
これまでのSEOは、検索エンジンの主流がGoogle一択だったことから、Googleが作ったものを指標として最適化が行えてきました。一方で、AI検索プラットフォームは、特定の1社が独占するということは考えにくいです。
各社のアルゴリズムなどが異なることからも、AEO対策の指標が、業界として標準化されていくのかどうかは、まだ見えていないのが現状です。
「質の高い情報」と「Webサイトの画面設計」が重要 AIに選ばれるコンテンツの条件とは
ーーAIに選ばれるコンテンツの条件とは、どのようなものでしょうか。
AIに選ばれるのは、理解しやすく正確に書かれているコンテンツです。質の高い情報であることと、ユーザビリティーが高いWebサイトの画面設計であることが重要です。
2025年1月にOpenAIが発表したAIエージェント「Operator」を私が利用した結果、AIの動きから、AIが好む規則性や苦手なことなどが明らかになりました。例えば、予約するレストラン選びやショッピングの際には、画面の分かりやすさ、読み取りやすさ(ボタンの大きさ、配置など)で選ばれているサイト構造に大きな違いがありました。
ほかにも、英語表記への反応の良さもありましたね。また、コンテンツの整合性を図るために、コメントや口コミなどの「ユーザー評価を確認」していました。サイト内のレビューに嘘が多いかどうかなども含めて、複数のサイトにあるユーザーの評価情報を深堀りして、適切な情報を確認した上で信用できるかどうかを判断材料にするのです。
SEOとAEO比較表
対策 |
従来のSEO |
これからのAEO |
最適化の対象 |
検索エンジン(Googleなど) |
生成AI、AIエージェント |
目線 |
人間(ユーザー) |
AI |
目的 |
検索結果で上位に出すこと |
AIに理解・引用されること |
評価条件 |
・ キーワードやタイトルの工夫 |
<質の高い情報> |
人間向けとAI向け コンテンツを作り分けるPR戦略が必要
一方で、人間の感情や美的センスに訴えかけるようなサイトデザインは、現時点ではAIに選ばれません。人間にとって良くても、AIにとって良いかどうかは別問題なのです。
今後数年は、人へ訴求するサイトとAIへ訴求するサイトを明確に作り分ける必要が出てくるかもしれません。コンテンツファーストとあわせて、“AIエージェントファースト”なウェブサイトの構築が今後求められるといえます。
AIによる思考のフレームワークを理解した上で、ふさわしい情報を点在させることがAEOにつながる
「Operator」の他にも、中国発のMonicaによる「Manus」やOpenAIによる「Deep Research」など複数のAIエージェントが出てきているなかで、代表的な思考フレームワークが存在しています。
主に1~4のステップに沿って、段階的に思考し、具体的で総合的な提案にたどり着く流れになります。そこから読み取れることは、AIがどのような思考の枠組みで問題を解決しているのかということです。
これらのフレームワークは単独で機能するだけでなく、相互に補完し合いながら複雑な思考プロセスを形成します。小手先の対策は、これまで以上に通用しなくなり、AIが思考することにふさわしい情報、すなわち、信用できる情報源(例えば有名メディアなど)や、エビデンスに基づいた情報(個人発信よりもパブリックメディアや査読のある論文など)を点在させることが、AEOにつながるといえるでしょう。
AIエージェントの代表的フレームワーク
1.Chain of Thought (CoT) - 思考の連鎖
ステップバイステップで論理的に考える2.ReAct (Reasoning and Acting) - 推論と行動の繰り返し
推論と行動を交互に繰り返す3.Tree of Thoughts (ToT) - 思考の木
複数の思考の道筋を並行して探索する4.ReAct (Reasoning and Acting) - 推論と行動の繰り返し
自分の思考や出力を批判的に振り返る
※引用:News Picks 中山高史 2025/3/22「AIエージェントの「頭の中」-4つのフレームワークとその理解」
https://newspicks.com/news-in-app/13917957/
AIの「メモリ機能」がもたらすリスク AI時代に広報が持つべき「AIリテラシー」とは
ーー企業の広報担当がAI最適化を進めていく上で重要なことは、AIの行動や意思決定にたどり着くまでの思考を理解した上で、コンテンツを設計し、正しい情報を発信することなんですね。
AI を使いこなすためには、論理的思考能力と質問能力が必要です。
つまり、正しい問いを立てる能力がないと、AIとの会話が成立しません。2025年4月、対話型AIの代表格であるChatGPT4oに対して、大幅なメモリ機能のアップデートが行われました。過去の会話を記憶することで、ユーザーの個性や嗜好(しこう)、要望をより正確に反映できるようになったということです。今後、AIのエージェント化が進み、人間がAIとしか対話をしなくなると、その膨大な対話メモリが何らかの形でメタ化、抽象化されて記憶されていきます。
便利な半面、過度な抽象化がもたらすリスクと、誤った印象が修正されないまま蓄積する「メモリ機能のブラックボックス化」の問題が出てきます。ユーザーが「そんなこと言った覚えはない」と言ったとしても、そもそもAIは、どこでどう誤解したのか、メモリの中で追跡することは難しいんです。
【事例】「過度な抽象化」がもたらすリスク
ある日、ユーザーが「いちごとメロンとリンゴが好き」とAIに伝える。
➡AIはユーザーを「果物が好きな人」としてメモリに記憶(抽象化)。
後日、「私の好きなものをネットスーパーで買って」とAIに頼む。➡AIはディスカウントされていたため「キウイ」を注文。
(実はユーザーはキウイが苦手)
※過去にキウイが好きという会話を一切していなくても、AIはユーザーが“フルーツ好き”と抽象化していることから、ユーザーにとって想定外の意思決定を行う可能性がある。
よって、AI時代の広報に求められるAIリテラシーとは、AIを使いこなす力だけでなく、生成AIやAIエージェントの特性を理解し、情報がどのように扱われ、伝わるかを考慮したコンテンツ設計です。AIに伝わる言葉選びや構成、信頼性の担保など、AIに“選ばれる”視点が不可欠でしょう。
また、ユーザー側は、AIが過去の記憶(メモリ)から固定化したバイアスがかかっていないか、常にチェックするなど、AIにトレーニングすることが今後、必要になってくるかもしれないですね。
広報が意識すべきAEOコンテンツ作りのポイントとは
ーー広報担当が意識すべき文章の書き方、コンテンツの出し方とは何でしょうか。
実直に、正しいことをきちんと書くことが重要です。文章やコンテンツは当然ながら評価され、その評価情報は蓄積されていきます。それらをどのように評価するかという点においては、AIであっても人間であっても大きな違いはないと思います。常に相手の立場に立ってコンテンツを作成・発信し続けることが大切です。
また、Googleから信頼されるパブリックサイトには、リテラシーが高いと判断されるようなコンテンツが存在していると考えられます。したがって、オウンドメディア内だけでなく、評価や信頼性の高いパブリックサイトにも、質の高いコンテンツを提供していく必要があるでしょう。審査がある論文サイトなども、その一例として挙げられます。
一方で、価値観が変化していくなかで、現時点で評価が高いメディアであっても、今後AIがどのように判断するかは未知数です。今後はテレビなどの既存メディアではなく、インターネット上の特定のサイトが高く評価される時代が来る可能性もあるでしょう。
広報が意識すべきAEOコンテンツ作りのポイント
①正しいことを正しく書く、虚偽は書かない
②読み手にとって分かりやすい丁寧な説明
③情報の随時アップデート(最新の情報を発信)
④評価の高いパブリックサイトに、質の高い情報を提供する
▼
相手の立場に立ってコンテンツの作成・発信をし続けることが大切
「冷静かつ論理的に正しく理解する」AIの登場で、より本質的なPRが求められる時代へ
ーー最適化する対象が異なることで、今後のKPI指標はどうなっていくのでしょうか。
シンプルにAI時代には、いかにAIのクローリングに引っかかるコンテンツを作れるかがKPI指標にはなってくると思います。一方で、KPIという概念自体が業界問わず古い考え方になっていくと思います。PRの仕事の本質は、お客さまやクライアントにとって、本当に大切なものは何だろうか?ということをちゃんと考え抜いて、大切なものを届けることです。
例えば、自社の製品がニーズに合っていないということであれば、それを伝えて製品を変えていくことや、何を提供すべきかを考えて、会社の戦略に反映させていくことも同じくPRの仕事だと思います。
ーー企業が本質的なPRの価値を追究していくことと、これからのAIの時代との相性は、良くなっていくと考えられますか。
その通りだと思います。AI が登場したからこそ、より本質的なものを求められるようになると思います。人間のように感情に振り回されない“冷静”な判断、本質を理解しようとして判断する能力、自己利益を考えないという点では、AI の方がたけています。
人間は、直感的思考と感情的思考と論理的思考、この3つの思考を無意識に使い分けているわけですよね。だけど AI にはそこがないんです。
論理的かつ客観的に物事を判断するAIの登場で、ごまかしがきかない時代になり、感情に訴えただけではモノが売れなくなるでしょう。
まとめ
検索エンジンがAI主導へとシフトしつつある今、企業広報に求められるのは、「誰に届けるか」ではなく、「誰に選ばれるか」という視点です。AIによる理解・引用・意思決定のプロセスに最適化する必要があります。
AIと共存し、AIに評価されるために、広報・PR担当者が意識すべきは次の5つのポイントです。
① 分かりやすく理解しやすいもの、正確に書かれているコンテンツ
② 人間にとって良くても、AIにとって良いかどうかは別問題
③ コンテンツファーストかつ“AIおよび、今後主流となるであろうAIエージェントファースト”なウェブサイトの構築が求められていく
④ AIの思考のフレームワークを理解した上で、ふさわしい情報をふさわしい場所へと点在させることが最適なAEOにつながる
⑤ 相手の立場に立って、コンテンツの作成・発信をし続けることが大切
これらは、単なる検索対策に留まらず、AIにとって信頼に足る「一次情報源」になることを目的とした戦略的アプローチです。
今後、AIエージェントが情報流通のハブとなる時代において、企業広報が果たすべき役割はさらに重みを増します。正確で信頼される情報を、適切な構造で、ユーザーにもAIにも届くように──そんな発信こそが、AI時代における“選ばれる広報”の本質と言えるでしょう。
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
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