企業のリスクマネジメント 近年の傾向と対策例
ある日突然企業に降りかかる「クライシス」。事件、事故、不正などその形はさまざまです。テクノロジーの進化や、企業の社会課題への対応に注目が集まるなど、社会環境の変化によって企業を取り巻くリスクも複雑化してきています。
今回は近年のリスク傾向から、それを踏まえた企業のリスクマネジメントのポイントについてご紹介します。
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近年のリスク傾向① 複雑化・多様化するリスク
近年、サイバーセキュリティに対する脅威が散見されるようになりました 。多くのことが1台のスマートフォンで実行可能になったことで、インターネットでの購買行動や取引の決済などが時や場所を選ばずに行われています。その結果、通信障害やシステムトラブルは人々の暮らしに直接影響し、規模や復旧に要する時間によっては極めて大きな損害を与えかねないものとなりました。
加えて、悪意を持って企業のシステムにアクセスし、その稼働を妨害したり、企業が保有する個人情報や機密情報を盗み出していわゆる「身代金」を要求するサイバー攻撃も多発するようになりました。中には不正なアクセスがあったことに気付かないケースも多く存在します。
さらには、AIの発達によりフェイク画像・動画・音声の生成が容易となり、それを拡散させる危険性を高めたほか、AI学習に伴う知的財産権の問題や情報流出の懸念も指摘されています。
また、人権や差別に関する意識の高まりに伴い、これらのテーマに対する十分な配慮が求められる中、企業のコミュニケーションに対し批判が増加している傾向が見られます。
プロモーションや広報活動の一環としてソーシャルメディアで発信された内容が、ステレオタイプな表現として捉えられ、短期間に批判的な反応が集まる事態に直面する結果となることもあります。
企業にとっては「発信する情報が誰かを傷つけたり、不快にしたりする表現はないか」などを誠実に複数の目でチェックし、万一批判を受けた場合に早期の対応を可能にするためにも、世の中の声に対するアンテナを常に張っておくことが肝要です。
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近年のリスク傾向② 意思表示を求められる企業
企業による社会課題への取り組みがますます社会から注目されるようになってきています。その結果、企業が政治的な意思表示をせずにニュートラルな立場を貫くこともリスク要因の一つになってしまう可能性があります。
以前であれば、リスクマネジメントの観点からは、自社に直接関係のない人権問題などのデリケートなテーマに対しては、あえて火中の栗を拾わないことが賢明という見解もありました。
しかし、海外では昨今、人権問題などに関して明確な意思や姿勢を示す企業が増えている傾向が見られます。日本企業であっても、グローバルにビジネスを展開しているのであれば、自らの政治的立場を明らかにせざるを得ない状況は常にあります。特定のイシューに対し、ノーコメントやニュートラルな立場を貫き通すことが、それらを擁護していると解釈されることもあり、国際的に大きな批判を浴びるケースも出てきました。
人権問題は、ある種の政治問題や国際紛争を背景とする場合が多く、企業としては踏み込んだ発言をするのが難しい性格を持つのも事実です。ですが、ソーシャルメディアが強い力を持った現在では、公へのコメントをしないことの方がむしろ、商品ボイコットなどにつながり、経営リスクとなるケースがあり得るのです。
企業は自らの意見や方針を表明せざるを得ない状況に置かれた際、
1. 表明する意見や方針が自社のパーパスに沿っているか
2. 表明する意見や方針は、自社がこれまでに取った行動と食い違いはないか(行動が伴わないと“ウォッシュ” との批判も)
などの視点からチェックする必要があるでしょう。
ただし、米国でビジネスを展開する企業は、現在特に留意しておかなければならない点があります。国際政治学者イアン・ブレマーが率いるユーラシア・グループが2024年 1月に発表した『 2024年10大リスク 』では、米国内の二極化が第 1位に挙げられています。これは、大統領選挙前から党派による国内市場の分断が進行していることを示しています。世界の潮流に対して反ESGの動きも目立ってきており、特に米国市場における企業の意思表示は 当面慎重さが求められます。
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リスクマネジメントのポイント① 組織全体で意識を高める
こうした近年のリスク傾向を踏まえ、企業はどのような点を意識してリスクマネジメントをするべきでしょうか。
不祥事につながる背景には、品質よりも納品期日や利益を最優先する企業風土、経営者・従業員のコンプライアンス意識不足、 隠蔽(いんぺい)や不正黙認につながるような組織内コミュニケーションの問題などさまざまなものがありますが、いずれにしてもリスクに対する「意識」が緩んでいることが挙げられます。日頃からリスクに対する「意識」を組織全体で高めておくことが重要です。
1. 日頃から組織内外のリスク情報を把握し、反応を予想
クライシス発生時に最も重要なのは「初動対応」です。初動が遅れれば遅れるほど事態は重篤化、深刻化し、企業のレピュテーション低下につながります。 迅速かつ的確な初動対応のためにも、日頃から組織内外でリスクになりそうな情報をチェックしておくこと、それらの情報を社内できちんと共有しておくことが大切です。
また、自社の意思表示が社会やステークホルダーに及ぼす影響を念頭に置き、 普段から世の中の状況やステークホルダーの反応を予想し、適切な対応を検討する習慣をつけておくことも 重要です。
2. リスクの洗い出しとルール・体制の整備
自社を巡るリスクとして何が考えられるか、最悪のケースを想定し、社を挙げて洗い出しておくこと、また、リスク発生時の自社のスタンスを明確にしておくことが大切です。
リスク発生の頻度と被害を極力最小化するためのルールや、危機発生時に迅速に意思決定ができる体制を整備しておくことも重要です。特に、多様な価値観を持つオーディエンスに対応するためには、クライシスに対応する社内チームも多様な背景を持ったチームで編成すべきでしょう。
3. 役員・従業員への意識啓発
整備したルール・体制をきちんと運用していくためには、社員一人一人がリスクに対して真摯(しんし)に向き合い、ルール順守の大切さを認識することが重要です。
また、避難訓練と同様に定期的な訓練を行って、「いざ」という時の手順を確認しておくことも効果的です。
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リスクマネジメントのポイント② トップ自ら誠実な行動を
近年、日本においても経営者に求められる資質として「インテグリティ( integrity)」が注目されています。インテグリティとは 「誠実」「真摯」「高潔」などの概念を意味する言葉ですが、トップ自らが率先して誠実な行動を体現することで、組織・従業員に良い影響を与え、リスクにつながる要素を減らしていけます。
1. 率先垂範
リスクの洗い出しやルールの順守、クライシス発生時の情報共有など、予防や早期の初動実現の重要性を理解し、トップ自ら率先して誠実に取り組み、役員・従業員をリードすることが重要です。
2. 傾聴
企業としての取り組みは、トップだけの力で成し遂げることはできません。組織内の各人がリスクに対する意識を共有し、その回避やダメージの最小化に向けて上下の別なく意見を述べ合える環境づくりを目指して、トップが従業員に意見を求め、誠実に自らの考えを示すことも大切です。
社会環境の変化に伴い、 企業が向き合うリスクも変化しています。近年の傾向を踏まえたリスクマネジメントの見直しなど危機管理広報に関するご質問・ご相談などございましたら、お気軽に電通PRコンサルティングにお問い合わせください。
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
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