【企業広報戦略研究所セミナーレポート】企業価値向上を目指した戦略的コミュニケーション~魅力的なESG活動・人的資本経営へ~

不確実性が高まっている現代において、強い関心が寄せられているテーマ「ESG」。企業が長期的に成長するため、「Environment(環境)」「Society(社会)」「Governance(ガバナンス)」の英語の頭文字を合わせた、この3つの観点に配慮した経営に取り組む必要がある、という考えが世界中で広まっています。

本年2023年7月21日、企業広報戦略研究所(電通PRコンサルティング内)では、創設10周年を記念してセミナーを開催。「ESGとは何か」、さらにその中でも特に本年注目を集める「人的資本経営」に焦点をあて、企業ブランドの創り方やそのためのコミュニケーションの在り方について読み解きました。

今回はそのセミナーの概要をご紹介します。


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目次[非表示]

  1. 1.「話題づくり」から「価値づくり」へ/「ESGレピュテーション調査」の企業ランキングと事例
  2. 2.人的資本の情報開示義務化を受けて
  3. 3.企業価値向上を目指した戦略的コミュニケーション
  4. 4.電通PRC-PRX事務局からのご案内




「話題づくり」から「価値づくり」へ/「ESGレピュテーション調査」の企業ランキングと事例



企業広報戦略研究所 副所長 末次祥行


企業の社会性に注目が集まり、株主以外のステークホルダーも重要視する必要が出てきている中、広報を取り巻く環境も企業の「話題づくり」から「価値づくり」へと重点テーマが変化しつつあります。

企業が価値づくりを推進する中、生活者の関心が高まっているのが「ESG」です。当研究所の調査では、一般生活者の認知度は約4割、ビジネスパーソンに至っては約5割という結果も出ています。
企業の価値づくりに大きな効果を発揮するESGですが、一方で推進していくための課題も多くあるようです。例えば「○○ウォッシュ」の台頭。グリーンウォッシュ、ESGウォッシュといった形で使われる言葉ですが、見せかけの環境対策や社会貢献に対して厳しい目が向けられています。他にも、コストやリソース、産業間による意識の違い、ステークホルダーの認識の違いなども挙げられます。

ESGはもともと投資を促すための基準ですが、“ESG経営”という形で経営活動の指標に組み込む場合、投資家だけでなくビジネスパーソンや生活者などもターゲットとして捉える必要があります。投資家以外のステークホルダーは企業が公開する統合報告書などをわざわざ見ることはほとんどありません。広告や活動を通じた「なんとなくの企業イメージ」で判断するケースが多く、得る情報に差があるということを認識しなくてはいけないのです。

私たちは幅広いステークホルダーを対象にしながら、「ESG活動を通じて魅力的な会社・良い会社であるという評価を得ることが重要」と考えています。そこで、この状況を明らかにすべく当研究所が実施したのが「ESGレピュテーション調査」です。

これは20業種200社の企業が、現在行っているESG活動に対する認知度、また期待する取り組みなどについてそれぞれ8項目ずつ、計24のESG項目を設定し、1万人に対して行った調査となります。





 
また、これらのESGの24項目に関する各企業の「取り組みの認知率」と、「経済的価値が高いと感じる企業」「社会的価値が高いと感じる企業」との関係性を見たところ、経済的価値を創出するためには「再生可能エネルギーの活用」「多様な人材の活用」「株主との十分な対話」などが、社会的価値を創出するためには「有害物質の不使用や削減・無害化」「独自の取り組みやアイデアの発信」「株主との十分な対話」などが必要であることが分かりました。





 
このようにESGには大きな期待が寄せられていますが、一方で「アンチESG」の流れもあります。2021年3月、欧州の大手食品メーカーCEOが解任されました。同CEOはESG経営を推進してきましたが、就任後株価は落ち込み、株主から批判を受ける形で辞任に至ってしまったのです。ただし、株主はESGを重視する姿勢を批判したわけではなく、サステナビリティを掲げていても株価が好調な企業もあるのではないか、というのがその理由だったともいわれています。また、世界最大の資産運用会社の米国ブラックロックのフィンクCEOは、「もうESGという言葉を使うつもりはない」などの発言が話題を呼んでいます。

おそらく、企業価値を向上させるESG経営は今後も推進されていくでしょう。われわれは、ESG経営において、社会的、経済的価値を両立させることが必須であり、かつ、投資家だけではない多様なステークホルダーから「良い会社である」「魅力的な会社である」といった評価を受けることが、ESGの本質であると考えています。




人的資本の情報開示義務化を受けて




企業広報戦略研究所 主任研究員 森碧


現在、日本では従業員が示す能力や知識・スキルなどの総称を指す「人的資本」に注目が集まっています。その理由としては米国に比べ、日本では企業価値に占める無形資産の割合が低いことが挙げられます。今後、日本の企業価値を高めていくには無形資産の価値を高めることが重要になっているのです。実際に先進的な投資家は近年、人事・人材戦略に強い関心を寄せており、人事部門の責任者(CHRO)と直接対話を始めている機関投資家も増えてきています。

また、今年3月に有価証券報告書で情報開示が義務付けられた直後には、岸田首相が人的資本の情報開示について充実させると明言した様子や、企業の5割が「人材への投資」に関する情報を開示しているというニュースが報じられるなど、メディアでの報道も増えてきています。このような動きから2023年は「情報開示元年」とも言え、国内の上場企業は人的資本経営の取り組みを見直したり、強化に取り組むようになってきています。

その「人的資本」の開示項目ですが、以下の7分野19項目から構成されています。




 
このように人的資本と言っても広範にわたるため、企業のご担当者からも「どの分野に力を入れていけばいいのか?」という悩みをよく聞きます。そこで私たちは人的資本に関するメディアの報道量を調査したところ、「人材育成(リスキリング)」「エンゲージメント(従業員エンゲージメント)」「流動性(採用)」「ダイバーシティ(少子化問題)」が多く報道されていたことから、当研究所ではこの4分野が社会的注目度の高い重点分野として捉えています。

この注目度の高い分野において、「魅力的な人的資本経営の取り組みである」と感じてもらうための検討ポイントを以下にまとめました。




 
「人材育成」については、社会への対応はもとより、自社の成長戦略に資するような人的投資であること、「エンゲージメント」は、指数を開示されている企業もいらっしゃいますが、より重要なのは自社ならではの課題意識の把握と、それに対する施策を提示することです。

また「流動性」については多様な雇用形態に対するトップのコミットメントの姿勢が、「ダイバーシティ」については、多様な個人に配慮した制度整備を行うことで従業員エンゲージメントを高めながら、それが業績にも影響する非連続的なイノベーションを生み出していくことを目指す取り組みが求められます。

このように、全体を通してステークホルダーの期待や不安をきちんと捉え、それを踏まえた自社独自の取り組みを作り、その上で戦略的なコミュニケーション活動を通じて企業価値向上に結びつけていくことが肝要です。




企業価値向上を目指した戦略的コミュニケーション




企業広報戦略研究所 上席研究員 坂本陽亮



ESGや人的資本といったテーマは企業価値向上に向けて高い効果を発揮できるポテンシャルを秘めていますが、内外に向けたコミュニケーションをしっかりと行った上で、初めてそれが成し遂げられます。

ステークホルダーに「企業価値」を感じてもらうためには、環境対応(E)、人的資本(S)、社会課題解決(S)などを組み込んだ経営計画(G)を策定し、それを戦略的に発信していく必要があります。特に、経済価値のレピュテーションと関連の深い人的資本は、最も力を入れるべきテーマと言えるでしょう。

では、どのようにコミュニケーションを組み込んでいけばよいのでしょうか?コミュニケーション戦略とは、ありたき姿(達成したい目標)に向かってどのように進むべきか?というシナリオである、と考えることができます。「誰に」「どう思われたいのか」という目標を定め、「現状とのギャップ」を把握した上で、コミュニケーション施策を活用してどのように埋めていくのかを考えていくアプローチです。

そこで参考になるのが、当研究所が2022年に日本の全上場企業の広報部門責任者を対象に実施した「企業広報力調査」です。この調査は、企業価値を向上させるための広報活動のあり方をまとめた「価値づくり広報モデル」をベースに実施しました。




詳細:企業広報戦略研究所HP
https://www.dentsuprc.co.jp/csi/csi-outline/20221027.html


 
「価値づくり広報モデル」において広報活動は、「ストラテジー」「アクティビティ」「マネジメント」の3つに分類されますが、今回はこの「ストラテジー」から戦略をひもといていきます。「ストラテジー」についてはさらに「課題把握力」「目標設定力」「ファクト力」という3つの領域に分類できます。

下記は、その3つの領域に関連する企業の活動実施率をグラフ化したものですが、私たちは項目の中で企業の取り組みに伸びしろが大きく、かつ広報専門家が重要である項目に着目しました。これは先ほどご紹介した、「目標」と「現状のギャップ」を見定めることにつながりますので、戦略の構築に向けてより重要視していくべきと考えます。


「課題把握力」関連活動実施率


「目標設定力」関連活動実施率


 
「ファクト力」関連活動実施率



また、以下は電通PRコンサルティングが2023年6月に公表した「ソーシャルイシュー100調査」の結果です。現在話題となっているソーシャルイシュー(社会課題)から100項目を抽出し、生活者1,000人を対象に、「解決優先度」と企業への「解決期待度」を調査・測定したものです。


データから見る生活者・顧客の期待や不安



 
この結果を見ると、生活者が優先して企業に解決を求めるイシューの特徴として、「人的資本」に関する項目が多いことが分かります。注目度が高い一方、多くの企業が取り組んでいるため、コミュニケーション的にはレッドオーシャンともいえ、他社とは異なった独自色の強い取り組みが必要となります。一方で、「食料自給率」についてはそれほど高くなく、この解決にコミットすること自体が独自性につながる可能性が高いと言えます。このような環境を踏まえ、自社の強みを発揮できるコミュニケーションテーマを設定していくことが必要となります。

最後に戦略を練り、ファクトを作っていったところで、どのように効果的に伝えていくかという点についてご説明します。

コミュニケーション業界ではメディアを分類した「PESO+R」という考え方があります。これは「Paidメディア(広告など)」「Earnedメディア(報道)」「Sharedメディア(SNSなど)」「Owedメディア(自社webサイトなど)」「Real(商品、店舗など)」の頭文字を組み合わせた言葉です。

まずは企業のアクションとなりますが、それをPaidメディアやOwnedメディア、Realなどで展開して情報発信の起点をつくっていきます。これを活用しながら、信頼度が高く、発信力の強いEarnedやSharedに位置付けられる第三者のメディア・インフルエンサーなどの関心を集め、露出につなげていくという形が基本的なコーポレートコミュニケーションの設計になってきます。


PESO&R視点の情報発信設計



では、ESGに関する情報発信ではどのような活動が有効なのでしょうか?ESGレピュテーション調査を見ると、最も効果的なのは「Earned」メディアという結果が出ています。報道機関に取り上げられることで、多くのステークホルダーに情報を届けられることに加え、その取り組みに信頼性が得られることがその理由です。一方でステークホルダーごとにこの優先順位は変わってきますので、ステークホルダーごとにデータを深く分析しながら、力を入れていくメディアを検討していく必要もあります。



 
情報は「開示」して終わりではありません。戦略を立て、ステークホルダーの期待に応えるために企画したアクションは、さまざまなメディアを通して広がっていくポテンシャルを十分に持っています。コミュニケーション活動を通して多くの人に伝えていくことは、価値の具現化には非常に重要であると考えています。


※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。




電通PRC-PRX事務局からのご案内



電通PRコンサルティングでは、企業PR関連のお役立ち資料や、ESGに関わるサービスプログラムのご紹介等を行っています。下記よりダウンロードしてご覧ください。


❶新・企業広報力 比較分析プログラム

  新・企業広報力 比較分析プログラム|PR X マガジン|電通PRコンサルティング 日本における企業の広報活動の実態を調査する「企業広報力調査」(調査主体:企業広報戦略研究所、2014年より隔年実施)。 2022年度調査(第5回)は、広報担当部局への期待や役割の拡大に伴い、これまでの調査から測定モデルを刷新。「価値づくり広報モデル」と名付け、これからの企業の広報活動に不可欠な、「企業価値」創造の視点を取り入れて調査を行っています。 「新・企業広報力調査2022」で回答を得た15業種450社のデータをもとに、「お客様の広報力」を調査回答企業全体や業界平均等と比較分析可能なレポートプログラムをご用意。個別活動分析レポート、ならびに業種別活動実態ランキング/広報活動比較シートをご提供いたします。 今後の広報活動計画を見直す機会として、ご活用ください。 「PR X」マガジン|すべてのビジネス領域に、PRの技術を|株式会社電通PRコンサルティング



「ESGブランディング」プログラム 2023年版

  「ESGブランディング」プログラム2023年版 |PR X マガジン|電通PRコンサルティング 「伝わるESG」と「伝わらないESG」の違いとは何か?この視点を中心に、今回新たに「ESG起点の企業PR戦略」資料を刷新。「ESGブランディング」プログラム資料として公開します。今回新たにご提案する「ESGブランディング」の戦略「n=1起点」、戦術「3つのP」等の具体的な考え方や事例も追加しました。課題設定~効果検証まで、企業の価値創造をワンストップでサポートします。 「PR X」マガジン|すべてのビジネス領域に、PRの技術を|株式会社電通PRコンサルティング



 
❸従業員エンゲージメントプログラム2.0

  従業員エンゲージメント・プログラム|PR X マガジン|電通PRコンサルティング 【2023年3月8日資料更新】電通PRコンサルティングでは、当社独自指標からなる「従業員エンゲージメント調査」を起点に、継続的な「人的資本経営」推進をコミュニケーション視点からサポートする「従業員エンゲージメント・プログラム」をご提案しています。 経営戦略と人材戦略との関係性を「統合的なストーリー」として構築する事。そして、機関投資家や株主、ステークホルダーとの対話を通じて、その計画やストーリーを磨き上げる事。今こそ「ストーリー設計力」に強い期待が寄せられています。当「従業員エンゲージメント調査」を通じて、企業経営戦略、人材戦略のコミュニケーションを支援し、人的資本経営の推進と企業ブランド力の向上に貢献してまいります。 「PR X」マガジン|すべてのビジネス領域に、PRの技術を|株式会社電通PRコンサルティング







電通PRC‐PRX事務局
電通PRC‐PRX事務局
株式会社電通PRコンサルティングでは、メディアをはじめとする豊富なインフルエンサー・ネットワークを武器に、PRが本来有する思考法「PR思考」に注目。この「PR思考」の視点と「PR手法」の技術で、あらゆるビジネス領域の課題を解決に導く事。私たちは、これを「PRX(PRトランスフォーメーション)」と定義しました。 多次元化する現在の情報コミュニケ―ション環境においては、企業の課題もまた、複雑にマルチコンテキスト化しています。だからこそ、「すべてのビジネス領域に、PRの技術を」。私たちは、膨大なデータや事例、実績から得られた「PR思考」と、これに裏打ちされた「アイデア」、そしてこれを実現する「PR手法」で、クリエイティブに課題を解決し、「お客様の新しい企業成長」と「持続可能な社会」の実現に貢献してまいります。 WEBマガジン「PRX」発行中 https://prx.dentsuprc.co.jp/

 


 

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