catch-img

企業の魅力で2.8倍差をつける「非財務情報」の伝え方とは

2023年度から、上場企業に対して「非財務情報」の開示が義務付けられたことを受け、財務情報に加え非財務情報をまとめた「統合報告書」を発行する企業が年々増加しています。「非財務情報」への注目度が高まる中、そうした情報をどのように発信するかは、いまや企業の将来を左右する重要な要素となりつつあります。

「どんな人が働き、どんな思いで社会と関わっているのか」
非財務情報は、企業の未来価値を見極める新たな尺度となっています。

株式会社電通PRコンサルティング内の研究組織、企業広報戦略研究所(C.S.I.)が行った最新の調査では、非財務情報の中でも「人的資本」と「社会・関係資本」の発信が、企業の評価や個人投資家の関心に大きく影響していることが明らかになりました。

本記事では、非財務情報の発信を企業ブランディングや投資家からの信頼にどう結びつけていくのか、「非財務クロスバリューモデル」による分析結果を基に、企業広報・IR担当者が押さえるべき要点を解説します。


個人投資家が重視する非財務情報とは?「非財務クロスバリューモデル」サービス資料をダウンロード

企業の魅力をスコアで可視化「魅力度ブランディング調査」サービス資料をダウンロード

9つの広報力を診断する「企業広報力調査」サービス資料をダウンロード

 

目次[非表示]

  1. 1.「非財務情報」とは何か、なぜ重要なのか
  2. 2.非財務クロスバリューモデルとは?
  3. 3.調査結果に見る傾向|企業も個人投資家も「人的資本」「社会・関係資本」を重視している
  4. 4.「人的資本」「社会・関係資本」のダブル認知で企業に魅力を感じる割合が2.8倍に
  5. 5.具体的に発信すべき「人的資本」「社会・関係資本」の内容とは?
  6. 6.まとめ|「人的資本」「社会・関係資本」の発信力が企業価値を左右する時代へ


「非財務情報」とは何か、なぜ重要なのか


そもそも「非財務情報」とは、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書の “財務三表” などでは把握できない、企業の将来価値やリスク・機会を左右する定量・定性データの総称です。国際統合報告評議会(IIRC)のフレームワークでは、企業価値創造に関わる資本を 「財務」「製造」「知的」「人的」「社会・関係」「自然」の6資本に整理しており、財務資本以外の5資本に相当する情報を「非財務資本」と位置付けています。

かつて企業の評価軸は「売上」や「利益」といった財務指標が主でした。しかし今、注目されているのは、「人的資本」や「社会・関係資本」をはじめとする5つの “非財務資本”なのです。

財務情報は過去の成績を示すのに対して、「人的資本」を含む非財務情報は未来を知る手掛かりになり、企業の「これから」を測る判断材料として投資家や社会から重要視されています。

とりわけ、個人投資家の増加がこの流れを加速させています。新NISAの開始などを背景に、個人投資家が急増しており、2023年度には、延べ人数で、7,400万人を超え、過去最高を更新しています。個人投資家向けのコミュニケーション戦略が企業価値向上に大きな影響を与える時代と言えるのではないでしょうか。


非財務クロスバリューモデルとは?


こうした潮流を受けて、企業広報戦略研究所(以下、C.S.I.)では、非財務情報の発信と評価の見える化を実現するために、2023年に「非財務クロスバリューモデル」を開発しました。

このモデルでは、IIRCの非財務資本5項目に、社会から解決を求められている経営課題「ESG(環境・社会・ガバナンス)」の3項目をクロスさせて、合計15の領域に分類し(1領域につき2項目、合計30項目)、各領域での情報の発信状況と、それに対する個人投資家の認識・期待を整理・分析しました。

同モデルを用いた最新の2024年の調査では、株式を保有している生活者を対象とした「個人投資家調査」に加え、企業の広報担当責任者を対象とした「企業調査」も行いました。それにより、「企業側の発信意向」と「個人投資家側の認識や期待」の両方を把握することが可能となりました。


調査結果に見る傾向|企業も個人投資家も「人的資本」「社会・関係資本」を重視している


それでは、実施した2つの調査の結果と傾向を見ていきましょう。

今回の調査では、上場企業533社および個人投資家3,680人を対象に、非財務情報に関する認識と期待を検証しています。その結果、企業・個人投資家の双方が最も重視している非財務情報は、「人的資本」であることが分かりました。

企業調査では、「現在発信している非財務情報」の1位が「人的資本」(88.4%)、2位が「社会・関係資本」(79.9%)の順番となりました。また、「今後発信を強化したい非財務情報」でも、1位、2位は同じ「人的資本」(70.4%)「社会・関係資本」(69.4%)という結果となりました。

●現在発信している非財務情報
o    1位:人的資本(88.4%)
o    2位:社会・関係資本(79.9%)

●今後発信を強化したい非財務情報
o    1位:人的資本(70.4%)
o    2位:社会・関係資本(69.4%)



また、個人投資家に調査した、企業が「現在発信をしていると感じる非財務情報」と、「今後発信を期待する非財務情報」の結果も、1位、2位は共に企業調査と同じ項目となりました。

●現在発信をしていると感じる非財務情報
o    1位:人的資本(53.0%)
o    2位:社会・関係資本(44.9%)


● 今後発信を期待する非財務情報
o    1位:人的資本(26.1%)
o    2位:社会・関係資本(18.4%)


つまり、企業と個人投資家の双方の関心が高い項目が「人的資本」と「社会・関係資本」であり、ここをどう発信するかが、広報戦略の成否を分けるカギとなります。


「人的資本」「社会・関係資本」のダブル認知で企業に魅力を感じる割合が2.8倍に


とりわけ注目すべきは、「人的資本」と「社会・関係資本」の両方の情報が伝わっている企業は、個人投資家にとって「魅力」のある企業として認識される割合が「人的資本」のみの場合と比べて2.8倍の差があるという結果です。

さらに、同様に、「経済的価値」の評価は約2.5倍、「社会的価値」の評価も約2.6倍の差となっており、非財務情報の発信の仕方によって、企業評価が変わってくるということがデータで明らかになりました。


具体的に発信すべき「人的資本」「社会・関係資本」の内容とは?


では、広報やIR担当者は「人的資本」や「社会・関係資本」に関する情報としてどのようなものを発信すべきなのでしょうか?それを考える上で参考となるデータが出ています。

非財務クロスバリューモデルによる調査では、15領域それぞれに当てはまる具体的な非財務情報を2項目ずつ(合計30項目)設定して調査しています。そこで、企業調査の「今後発信を強化したい非財務情報」と、個人投資家調査の「今後発信を期待する非財務情報」の、どちらも平均値以上になった項目をピックアップすると、以下の9項目となりました。


「人的資本」(青)では、

●従業員が働きやすい制度設計を通じた従業員エンゲージメントの向上

●性別、年齢等に関わらない多様な人材がリーダーシップを発揮できる制度の導入

●透明性の高い経営体制の構築

●経営者や従業員のコンプライアンス(法令遵守)に向けた取り組み

●環境意識を高める従業員教育


「社会・関係資本」(オレンジ)では、

● 企業価値向上のための経営計画やビジョンなどの説明
● 環境に配慮したサプライチェーンの構築

となっています。


まとめ|「人的資本」「社会・関係資本」の発信力が企業価値を左右する時代へ


調査結果から明らかになったのは、企業・個人投資家の双方が「人的資本」と「社会・関係資本」を重要視しているという事実です。中でも、「従業員が働きやすい制度設計を通じた従業員エンゲージメントの向上」や「透明性の高い経営体制の構築」など、企業の内面に根差した取り組みが高く評価されています。さらに、「人的資本」と「社会・関係資本」の両方が伝わると企業への魅力評価が高まるということです。これは、ただ情報を開示すればいいということではなく、双方向的なコミュニケーションによる良好な関係構築が重要であることを示唆しています。

「人的資本」や「社会・関係資本」の情報は、企業の未来を評価する材料として、個人投資家から注目されています。そして、これらの情報が“伝わる形”で発信される企業は、評価され、選ばれると考えています。

非財務情報の開示は、もはやIR部門だけの役割ではありません。企業全体のブランディングと経営戦略に直結する広報の重要ミッションとして、今こそ見直す時です。




本モデルを用いて分析した最新の調査結果については下記のリリースをご参照ください。


https://www.dentsuprc.co.jp/releasestopics/news_releases/20250617.html





▼個人投資家が重視する非財務情報とは?「非財務クロスバリューモデル」サービス資料をダウンロード

  非財務クロスバリューモデル 企業の非財務・ESG情報を、社内/社外の“両面から捉える”アプローチで分類し、個人投資家視点で、企業ブランディング向上を支援します。 「PR X」マガジン|すべてのビジネス領域に、PRの技術を|株式会社電通PRコンサルティング

▼企業の魅力をスコアで可視化「魅力度ブランディング調査」サービス資料をダウンロード

  魅力度ブランディング調査 企業広報戦略研究所(株式会社電通PRコンサルティング内)は、生活者が企業のどのような活動や事実(ファクト)に魅力を感じ、その魅力がどのように伝わっているのかを解析することを目的に、2024年7月、全国1万人を対象とした「第9回 魅力度ブランディング調査」を実施しました。 「魅力度ブランディング調査」は、企業広報戦略研究所が2016年から毎年調査を行っています。200社を対象とした生活者調査の結果から、魅力度ランキング、業界別ランキング、魅力を感じた情報源などについて分析しています。また、今年は社会課題(ソーシャルイシュー)対応などについても分析を行っています。 「PR X」マガジン|すべてのビジネス領域に、PRの技術を|株式会社電通PRコンサルティング

▼9つの広報力を診断する「企業広報力調査」サービス資料をダウンロード

  企業広報力調査 「企業広報戦略研究所(電通PRコンサルティング内)」では、日本における企業の広報活動の実態や課題意識を把握することを目的に、2014年から隔年で企業広報力調査を実施しています。2022年に「調査モデル」を大きく刷新。これからの企業の広報活動には、企業価値創造(「価値づくり」広報)の視点をより強く意識する必要があると考え、そのために必要な戦略・戦術を加味して再設計し、 「価値づくり広報モデル」 となりました。 新・企業広報力調査は、「価値づくり広報モデル」をベースにした調査票で、2022年6月末から9月初めに実施。回答を得た450社のデータを集計し、日本の上場企業の広報活動の全体傾向や課題について分析しています。 「PR X」マガジン|すべてのビジネス領域に、PRの技術を|株式会社電通PRコンサルティング

関連記事

重要性高まる「非財務情報」 個人投資家の“注目指標”と企業の発信事例

企業に求められる9つの広報力とは?「企業広報力調査」で広報課題を浮き彫りに

【コーポレート・コミュニケーション最前線】企業広報は「価値づくり」の時代​​​​​​​

PRX編集部
PRX編集部
電通グループ内のPR領域における専門会社「電通PRコンサルティング」が運営するオウンドメディアです。1961年の創立以来、国内外の企業、団体をサポートしてきた経験・実績をベースに、電通PRコンサルティングならではの視点で、PRの基礎から最新PRトレンドやソリューションまで幅広くお届けします。

人気記事

参加者募集中のセミナー・講座

オンライン広報講座