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重要性高まる「非財務情報」 個人投資家の“注目指標”と企業の発信事例

2024年1月からスタートした新NISA制度により、個人投資家のさらなる増加が予想されています。

また、2023年度から上場企業に開示が義務付けられた「非財務情報」は、過去の業績を示す「財務情報」とは別に、企業の未来を知る手がかりとして個人投資家からの注目を集めています。

非財務情報への関心が高まる中で、企業は個人投資家向けにどのような広報・PR活動を行うべきなのでしょうか。

企業広報戦略研究所(以下C.S.I.)の調査で明らかになった、個人投資家が注目する非財務情報の指標や、その発信に力を入れる企業の具体例から、個人投資家に向けた広報・PR活動のヒントを紹介します。


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目次[非表示]

  1. 1.重要性増す非財務情報 個人投資家増加の中で
  2. 2.可視化される非財務情報 注目指標は「ガバナンス」
  3. 3.具体例で見る企業の「ガバナンス」発信
    1. 3.1.三井物産の発信事例
    2. 3.2.日立製作所の発信事例
  4. 4.メディアも注目する非財務情報  “トップからの発信”強化を


重要性増す非財務情報 個人投資家増加の中で


円安や物価高といった社会状況の下で、個人が“投資しやすい”環境を整備する動きが加速しています。

2023年7月、東京証券取引所は、上場株の望ましい最低投資額として定めていた「5万円以上50万円未満」の規定から「5万円以上の下限」を撤廃すると発表。上場企業に対して、最低投資額の引き下げを促しました。

そして、今年1月からは、年間投資枠の増大や非課税保有期間を無期限とするなどといった新NISA制度が始まりました。証券取引所の調査によれば、2022年度の個人株主数(延べ人数)は6982万人。新NISA制度の導入によって、さらに増えることが見込まれています。

「個人株主数(延べ人数)」とは、各上場会社の個人株主数を単純に合算したもの。例えば、ある個人株主が1人で10銘柄保有している場合、個人株主数10名とカウント。

企業にとって、増大の一途を辿る個人投資家向けのコミュニケーションは重要な課題といえます。

出典:「2022年度株式分布状況調査の調査結果について」東京証券取引所/名古屋証券取引所/福岡証券取引所/札幌証券取引所


個人投資家の伸長に合わせ、非財務情報の開示に積極的な企業も増えています。

IR資料の中でも財務以外の情報に力点が置かれている統合報告書を発行する企業が年々増加しており、 2023年時点では上場・非上場を合わせ1017社が発行し、前年から約100社増加しました。

また、金融庁は2023年、有価証券報告書について非財務情報の開示基準を改正。「ガバナンス」や「人的資本」などに関する企業の取り組みを有価証券報告書に記載させることを決めました。


出典:『国内自己表明型統合報告書発行企業等リスト2023年版』株式会社エッジ・インターナショナル


可視化される非財務情報 注目指標は「ガバナンス」


個人投資家向けのコミュニケーションが企業にとっての課題として浮上する中、C.S.I. は、慶應義塾大学総合政策学部・保田隆明教授監修の下、企業の非財務情報に対する個人投資家の評価を数値化するモデル「非財務クロスバリューモデル」を開発しました。

非財務クロスバリューモデルでは、国際統合報告評議会(IIRC)のフレームワークのうち、「財務資本」を除いた「人的資本」「知的資本」「社会・関係資本」「製造資本」「自然資本」という非財務情報の5項目に、「ESG」(Environment「環境」、Social「社会」、Governance「ガバナンス(企業統治))の3項目を掛け合わせた、合計15の領域を設定。この中で、個人投資家が業種・企業に期待している領域を分析し、その評価を把握することを可能にしました。


C.S.I.では、この非財務クロスバリューモデルを活用し、上場企業株式を保有する個人投資家2000人が株式投資する際、対象企業のどのような非財務情報を重視しているかを調査。

その結果、個人投資家は非財務情報の中でも「ガバナンス」を重視する傾向が強いことがわかりました。


昨今、企業の「E(環境)」に関する取り組みの差別化が困難になっている中で、投資家は「G(ガバナンス)」に関する企業活動の差を見極め、経営に信頼が置ける企業を投資先として選定している実態が見えてきました。


具体例で見る企業の「ガバナンス」発信


では、企業はどのように「ガバナンス」に関する情報発信をすればいいのでしょうか?

その糸口を探るため、「ガバナンス」における情報発信を積極的に行っている三井物産と日立製作所の事例をご紹介します。


三井物産の発信事例

“人の三井”を掲げる三井物産は、統合報告書で、経営資本として「財務資本」に加え「人的資本」「知的資本」「社会関係資本」「自然資本」の4つの非財務資本に関する情報を取りまとめています。

「長い年月をかけて築き上げてきたブランドや業界での評価、パートナー・顧客・地域社会・政府機関など幅広いステークホルダーとのネットワーク、信頼関係」が「社会関係資本」であると定義。人的資本レポートの開示や、従業員の働きやすさの改善といった活動など、人的資本にガバナンスや社会を掛け合わせた発信でリードしています。

出典:三井物産株式会社「統合報告書2023

また、石油、天然ガス、鉱物資源などの資源領域のイメージが強い同社ですが、2017年5月に公表した中期経営計画において、「ヘルスケア」領域を成長分野の一つに選定。アジア最大手の民間病院グループであるIHH Healthcare Berhad(以下IHH社)を核とするヘルスケア・エコシステムの構築を目指すなど、非資源領域でも存在感を増しています。

投資家などを対象とした事業説明会でも、こうした活動を積極的にアピール。2022年6月に開催されたIHH社を中心とするヘルスケア事業説明会には、事業本部長や執行役員が登壇し、同社の成長戦略におけるヘルスケア事業の重要性を訴求しています。

また、2024年2月には、日経ビジネスの特集記事「人事トップに聞く『2030年をつくる人』 自律型人材こそ企業成長の源泉」の中で、人事総務部長が、人事システム「Bloom」のグローバル導入や転勤の有無を選べる新人事制度などをアピール。その他にも、女性管理職の増員に向けての方策や、社員の健康管理システムといった先進事例を披露しました。

その結果、男女バランスの均衡や社員の健康管理に尽力する同社の姿勢の訴求につながっています。


日立製作所の発信事例

2023年の「第3回日経統合報告書アワード」で、グランプリG賞を受賞した日立製作所。アワードでは、「毎年他社が模範と仰ぐ最高峰」「特にガバナンスではリスクとの向き合い方や取締役会の機能などの説明が極めて秀逸」と評価されました。

同年の統合報告書「コーポレートガバナンス体制と特長」では、自社のマネジメント体制や、インセンティブなどの報酬体系を公開しています。また、「透明性の高い経営体制の構築」という観点では、取締役に求められる能力と、その能力に該当する取締役の人数も公開しています。
その他にも、取締役会の運営状況、社外取締役への情報提供、取締役会の実効性に関する分析・評価などについても細かく記載することで、透明性の高い経営体制をステークホルダーに訴求しています。

出典:株式会社日立製作所「日立 統合報告書2023

2024年3月の週刊東洋経済内の記事「シン・日立に学べ 脱『伝統的日本企業』のススメ」では、情実人事の排除などガバナンスの行き届いた登用システムが、“人的資本×ガバナンス”の先進事例として、取り上げられました。


メディアも注目する非財務情報  “トップからの発信”強化を


2社の事例から分かるように、非財務情報に関する企業の姿勢は、個人投資家だけでなく、彼らの関心を呼び起こしたいメディアからも注目されています。

財務情報の開示においては、経営に直結しないテーマについてもESGの観点から情報発信することが、広報・PR担当者の重要なミッションといえます。

企業トップからの納得感ある情報発信はもちろんのこと、自社の取り組みを客観的な視点で語ることができる社外取締役を通じての情報発信も有効となります。

発信の際は、ポジティブな要素のみを語るのではなく、課題なども明らかにした上で、企業の今後の成長への道筋やゴールを伝えていくことも心掛けてみてください。

引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。



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PRX編集部
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電通グループ内のPR領域における専門会社「電通PRコンサルティング」が運営するオウンドメディアです。1961年の創立以来、国内外の企業、団体をサポートしてきた経験・実績をベースに、電通PRコンサルティングならではの視点で、PRの基礎から最新PRトレンドやソリューションまで幅広くお届けします。

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