
IR情報発信戦略セミナー開催レポート②トークセッション~「分かりやすさ」と「柔軟性」を持ったコミュニケーションで常に一歩先を考える~
2025年12月10日、電通PRコンサルティングとミンカブ・ジ・インフォノイドでは、個人投資家に響くIR情報発信戦略に関するセミナーを共同で開催しました。当日は、個人投資家のテスタ氏をはじめ、第一生命ホールディングスの齋藤信也氏、三菱UFJ信託銀行の市橋哲也氏をゲストにお迎えし、複数視点が交わる実務的なトークセッションを展開。
また、法務セッションでは、京都アカデミア法律事務所の岡本哲也弁護士をお迎えし、IR・広報・マーケティング担当者が知っておくべきIRに関する情報発信の法的なポイントについて解説しました。(→前編の記事はこちら)
セミナーレポート後編の今回は、上記のゲストによるクロストークの様子をご紹介します。
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(左から)ミンカブ・ジ・インフォノイド 熊取谷重徳氏、個人投資家 テスタ氏、第一生命ホールディングス 齋藤信也氏、三菱UFJ信託銀行 市橋哲也氏
注目度高まる個人投資家 上場企業が期待する4つのポイントとは
坂本陽亮(以下、坂本):モデレーターを務めます電通PRコンサルティングの坂本です。よろしくお願いいたします。
上場企業の証券代行業務をされている立場から、市橋さんは個人投資家への注目の高まりをどのように見ていらっしゃいますか。

三菱UFJ信託銀行 市橋哲也氏
市橋氏(以下、市橋):弊社は、信託銀行として上場企業の株主名簿をお預かりして、株主とのコミュニケーションのお手伝いをしている立場です。ここ3年ほどで、上場企業側から個人投資家に関する相談を多く受けるようになっています。
その中で、上場企業が個人投資家に求めるポイントは主に4つほどあるように思います。
1. 株主総会における議決権行使
2. 昨今進む政策保有株や持ち合い株解消の受け皿
3. 長期保有による株価の下支え役
4. ファンおよびロイヤルカスタマーへの育成(主にBtoC企業)
個人投資家は1人当たりの持ち株が小口で分散されているため、株価の下落局面などで一斉に同じ方向に向かないんです。
また、株価の変動よりも配当や優待など別の目的があったりするため、個人投資家の比率が高い企業の方が、株価のボラティリティ(価格変動性)が低い傾向にあります。
機関投資家と個人投資家の違いとは―右脳的視点でも投資する多様な個人の登場
坂本:そもそも、機関投資家と個人投資家の違いは何でしょうか。
市橋:機関投資家は、ビジネスとして運用をしているため、当然会社の指示や決められたルールに基づいてアクションをしています。一方で、個人投資家は、ルールなどに縛られず、「この会社が好き」「この商品が好き」「応援したい」といった気持ちで投資をしているところがあります。
その違いを例えるならば、機関投資家は左脳で投資をするのに対して、個人投資家は左脳だけでなく右脳も使って投資をする、といったところです。
坂本:個人投資家であるテスタさんにも、そのような投資をする場面はおありですか。

個人投資家 テスタ氏
テスタ氏(以下、テスタ):そうですね。個人投資家は今本当に幅広い年代で、いろんな想い、感情、目的があって多種多様になっていると思います。機関投資家とは違う思いで、「この会社が好きだから」「ここはずっと持っていよう」など、応援の意味も含めて株を保有する人もいます。
僕は専業かつ株式投資で生活をしているので、なるべくそういう感情は入れない派ですが、それでもずっと持ち続けている株、例えば優待があるからという理由で保有している株などもあります。
企業が抱える個人投資家向けコミュニケーションの課題「ライト層へのタッチが難しい」「施策の効果が見えにくい」
坂本:続いて、齋藤さんは上場企業のお立場で、個人投資家向けにどのようなIR活動をされていますか。

第一生命ホールディングス 齋藤信也氏
齋藤氏(以下、齋藤):個人投資家の方が増えていますので、もう無視できない存在になっていると強く感じています。今はいかに個人の方々に株主になってもらうかという取り組みを日々考えながら活動しています。
具体的には、2024年から株主優待の導入を始め、2025年4月からは株式を分割し、1株を4株に分割したことで、個人投資家にも株を買いやすい環境を整えてきました。また、株主優待の周知や、イベント実施、社長によるオンライン会社説明会、役員によるテレビ出演、広告出稿などを展開しています。
坂本:そういった新しい取り組みを展開してく中で、個人投資家のテスタさんにも聞いてほしい悩みや、あるいは難しさは感じられていますか。
齋藤:これまでは、投資に慣れている人向けの情報提供が多かったのですが、投資家の多様化が進み、投資に詳しい人もいれば、そうでない人もいる。年齢、性別、価値観もさまざまになっていると感じます。われわれとしては、最終的にファン株主になってもらい、多くの株を持って長く株主でいてもらいたいのです。
そのためには、いろんな施策を打つ中にも、当社らしさを大事にしたいですし、われわれの魅力がどこにあるのかを探らないといけないと思っています。そして、それらを分かりやすさや親しみやすさ、エンタメ性などを含んだ形でSNSを活用するなどして情報提供していくことで、今まではアプローチできなかった投資のライト層と接点が持てるようにしたいと考えているところです。
今までのやり方では通用しないので、多様な視点で新しいチャレンジをしていかなくてはと思っています。
また、こういった施策は、単発や短期間やっても意味がないため、ある程度一定期間やり続ける必要がある一方で、本当にどれだけの効果があるのかというのはなかなか見えないというのが正直な悩みです。確からしさがないものを長期間やらなければならないところにすごく難しさを感じています。
テスタ:まず、話が難しいんですよね。株を始めるときの最初のハードルは「難しい」と「怖い」です。株の専門用語を使って話していると、最初の1、2分で初心者は本当に話についていけなくなってしまうんです。
新NISAの登場などで個人投資家が増えたことは、企業にとってもメリットの一つです。株価は高ければ高いほどファイナンスもしやすく、話題にもなりやすいです。話題になったら、個人投資家がその株に興味を持って、その商品やサービスにも興味を持つから、結局回り回って注目度が高まる。なので、やはり、どれだけ個人投資家が理解しやすく分かりやすい言葉や動画で伝えているのかが、重要です。
専門用語を使って難しいことを言っても通用した機関投資家しかいなかった時代と、今の時代との大きな違いになってくると思います。
個人投資家のホンネと求める情報とは―「分かりやすさ」と「柔軟性」が大事
坂本:テスタさんに質問です。企業の思いのこもった活動や、その企業“らしさ”は、どんな工夫を加えていくと、より個人投資家の方に届くと感じられますか。
テスタ:分かりやすさという点で言うと、見やすさ、伝わりやすさ、言葉一つとっても簡単な言葉であったり、バラエティー的な要素を入れたりしていくことではないでしょうか。例えば、今よく投資関連で見られている動画は、芸人さんが出演するなど、一昔前にはなかった“柔らかさ”やバラエティー感を取り入れています。以前は、メディアでお金の話はしない文化があり、著名人に出演してもらうのも難しかったのですが、今は変わってきました。
よって、そういった方々に発信のところで一緒に協力してもらうなど、今と昔の違いを考えた上で情報戦略を練っていくことがすごく大事だと思います。
僕が個人投資家としてSNSのフォロワーが多い理由は、発信内容の“分かりやすさ”や“楽しさ”を心がけてきたからだと思っているんですね。個人の視点で考えたら難しい専門用語などはちゃんと訳して届ける意識を持っているから、いろんな人が見てくれてフォロワーも増えるんです。これは企業にも同じく大事なことだと思います。
坂本:今のSNS時代に、個人投資家にはどのように情報発信すると届きやすいのでしょうか。
テスタ:SNSは、うまく効率よくやればそんなに費用をかけなくてもチャレンジすることができると思います。企業の顔があるので、なかなか踏み込んだことができなかったり、発言に気を付けたりしないといけない部分はもちろんあるとは思いますが、やっぱり最初にそこに踏み込んだ企業がウケていて、個人から受け入れられている現状はあります。
予算の決定権がある人は社内での立場や年齢が上の方になってしまうと思いますが、SNSはやはり社内でも若い人でチームをつくって、目線をその年代に落としてやるのがいいのではと思います。
多忙な現役世代の個人投資家に響くコンテンツの肝は「SNS活用」
坂本:それでは続いて、金融情報メディアを運営している熊取谷さんに伺います。メディアという第三者視点で、個人投資家に魅力的な企業として認知してもらうためには、どういった点を工夫したらよいでしょうか。

ミンカブ・ジ・インフォノイド 熊取谷重徳氏
熊取谷氏(以下、熊取谷):弊社は、約4,000社の上場企業の多岐にわたる金融商品の情報を表示して資産形成と運用に関する初心者向けコンテンツを充実させた「みんかぶ」、機関投資家と個人投資家の情報格差を埋めるというコンセプトの下にスタートした、有望株(銘柄)の発掘・選択をサポートする「株探(かぶたん)」を運用しています。
前者は、情報がやさしめで非常に広く親しまれているメディアなのに対して、後者は本格的に投資をされている人向けのメディアとなっています。
そこで、情報発信を工夫していかないといけない中で難しさを感じているのが、個人投資家の中に若い世代が爆発的に増えたことです。従来の投資家は勉強熱心で情報を拾いに来ては投資先を探すようなタイプの方々だったのに対して、爆発的に増えている若い世代に、今まで通りの情報配信をしていて理解ができるのか、というジレンマを抱えています。よって、SNSのように、世代に合わせたコンテンツ作りを前向きに考えていかなければと考えています。
坂本:上場企業の証券代行業務をするお立場である市橋さんに質問です。上場企業から、多世代の個人投資家との向き合い方に関する相談などをされることはありますか?
市橋:われわれ証券代行および上場企業もそうなのですが、実は株主名簿では、株主の住所と名前は分かるものの、年齢などは分からないんです。個人投資家と向き合う上での悩みの一つではあります。そのため企業によっては、自社の個人投資家の世代割合をアンケート等で推測、把握する取り組みをしています。マクロ視点で見てみると、新NISAの影響もあり、50代以下の現役世代層の個人投資家数が、60代以上の個人投資家よりも多く、増えているのが現状です。
つまり、普段仕事をしている世代の方が圧倒的に多いため、そういう忙しい方々に勉強を強いるのも酷です。個人投資家の多様性が増してきたところに、どう情報発信していくかはどの企業も悩まれています。
坂本:テスタさんに質問です。急激に増えた個人投資家へ情報発信するためのアドバイスはありますでしょうか。
テスタ:やはり一気に届けるためにはSNSを活用するのが一番良いと思います。SNSを現在利用していない人がそのまま使わなくても、今から生まれてくる新しい世代はずっと使っていくものだと思うので、少子高齢化といえどもSNS利用者数自体は増えていく可能性があります。未来のことを考えたら取り組んでいくべきだと思います。
また、上場企業は、入社が難しく高学歴な人たちが多いと思いますが、社会全体で見ると、異なる前提の方のほうが圧倒的に多いわけです。高学歴な人たちだけで意見を決めようとすると、世の中から求められていない方向にいってしまう可能性があります。幅広く、もっと柔軟に全体を考えることが重要だと思います。
まとめ:これからの個人投資家向けIRとは―個人投資家やメディアの興味の一歩先を行く発信姿勢がますます重要に
坂本:SNSやデジタルを活用した、これからのIRについて、熊取谷さんにメディア視点での展望をお伺いできますか。
熊取谷:われわれは企業がSNSやデジタル活用を進めていくことを肯定的に捉えています。投資家の世代交代に合わせて、ツールも合わせていくべきです。
一方で、われわれは第三者目線のメディアですので、「これがいいですよ」など推奨になるようなことは言えないのですが、だからといって、フラットな情報をSNSに流しても効果はないと思うので、例えば上場企業自らの発信による情報やパフォーマンスをサイト内にニュースとして掲載することは問題ないのです。よって、上場企業の皆さんに頑張って取り組んでいいただきたいというのがメディアとしての本音です。
坂本:テスタさんは、 SNSやデジタル活用について、企業にもっと取り組んでいってほしいことはありますか。
テスタ:SNSとひとくくりに言っても、SNS自体も多種多様です。新しいSNSが出てきてはやるといったことがここ数年でも進んでいるので、そういった変化に対応できるかどうかは重要です。新しいSNSがはやり出したら、とりあえずそれを使ったコンテンツを考えたり手掛けてみるといいと思います。失敗しても知見が残りますしね。
5年後、10年後はどのSNSが主流になっているのか、今と変わっている可能性もあります。そういう変化にもちゃんとついていく姿勢や視点を企業として持っておかないといけないと思います。
SNSは移り変わりが非常に早く、気付いたら遅れているという状況になりかねないので、株式投資で成功する上でも、一歩先を常に考えておくのがとても大事だと思います。
坂本:企業側のお立場から齋藤さんに質問です。上場企業としてのレピュテーションリスクといった面では、失敗した際のリスクはどのようにお考えでしょうか。
齋藤:弊社でいうと、新しいことに真っ先に飛び込むのが難しい環境ではあるものの、乗り越えなければならないと思っています。やっていいことと、いけないことの線引きをしっかりすることが大事なので、そのギリギリを攻めるようなことなども手掛けてみたいと感じました。
テスタ:炎上とバズるとでは違うので、やはりバズる方を目指して取り組まないといけないですね。
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電通PRコンサルティングでは、IRの情報発信のコンサルティングも実施しています。これまで機関投資家向けの発信が中心だったために個人投資家向けのIRの情報発信をどうすべきか分からないという場合は、ぜひ当社にご相談ください。
また、報道量と株価の動きの相関関係の分析から、効果的な情報発信の仕方を検討できるサービスも提供しております。こちらもぜひお問い合わせください。
今回はセミナーのクロストークパートをご紹介しましたが、前編では、IR・広報・マーケティング担当者が知っておくべきIR情報発信の法的なポイントを紹介しております。併せてお読みください。
登壇者プロフィール

テスタ/個人投資家
2005年に300万円を証券口座に入金して株式投資をスタート。以来20年間リターンがマイナスになった年はない。初期はスキャルピングやデイトレードを中心に取引を行い、2016年からは中長期投資を中心に行う。累計利益は100億円を超え、2014年からは全国の児童養護施設への寄附を継続的に行っている。Xのフォロワー数は100万人超。

齋藤 信也(さいとう しんや)
第一生命ホールディングス株式会社
総務ユニット 経営総務グループ ラインマネジャー
2002年第一生命保険入社。入社以降、支社での営業推進や保険契約の各種手続きに係る事務の企画・開発、経営企画、国内営業戦略の企画・立案、取締役会運営、秘書業務等幅広い分野での経験を経て、2025年より株主総会や株主優待制度の運営、機関投資家との対話、ファン株主増加に向けた施策の企画・実施等に従事。

市橋哲也(いちはし てつや)
三菱UFJ信託銀行株式会社
法人マーケット統括部 証券代行業務開発室長 兼 海外証券代行企画室長
1992年東洋信託銀行(現三菱UFJ信託)入社。入社以降、法人営業や組織再編等に携わり、不動産業務企画を経て、2021年より証券代行業務の企画、特に証券代行業務関連の新サービス開発やスタートアップ企業との出資・提携等に従事。

熊取谷 重徳(くまとりや しげのり)
株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイド 執行役員
金融機関を経て大手SIerにて金融機関向けソリューション販売に従事した後、2015年ミンカブ入社。金融ソリューション事業の立ち上げに参画し、事業基盤を確立。現在はメディア営業統括責任者としてシステム開発とメディア運営を管掌し、企業のIR高度化支援や、情報発信を通じた資本市場の活性化に取り組む。
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
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