
IR情報発信戦略セミナー開催レポート①法務セッション ~IRとPRが融合するSNS時代の“情報発信”の法的なポイントとは~
2025年12月10日、電通PRコンサルティングとミンカブ・ジ・インフォノイドは、個人投資家に響くIR情報発信戦略に関するセミナーを共同で開催。
当日は、個人投資家のテスタ氏をはじめ、第一生命ホールディングスの齋藤信也氏、三菱UFJ信託銀行の市橋哲也氏をゲストにお迎えし、複数視点が交わる実務的なトークセッションを展開。
また、法務セッションでは、京都アカデミア法律事務所の岡本哲也弁護士をお迎えし、IR・広報・マーケティング担当者が知っておくべきIRに関する情報発信の法的なポイントについて解説しました。
今回のセミナーの模様は、前編・後編の2回に分けてレポートします。前編では、まず法務セッションパートの内容をご紹介します。
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目次[非表示]
個人投資家の台頭で「融合」するIRとPR
IRはInvestor Relationsの略称で、従来は機関投資家向けに財務・業績情報などを中心として説明したものを指していました。
一方で、日本の個人株主は年々増加を続けており、新NISAが開始した2024年度には延べ人数が8,000万人を超え、11年連続で過去最多を更新。(※1)貯蓄から投資へといった個人の意識変化に伴い、その存在感が増しています。
その結果、IRで発信する情報の内容が一般生活者向けに寄ってきており、IRとPRで扱う内容が重なるケースが増加しています。
企業のSNSアカウントも重要な情報発信ツールとなっている今、どういった点に気を付けて情報発信をしていく必要があるのでしょうか。
※1:2025年7月4日に発表された東京証券取引所ほかによる2024年度株式分布状況調査の調査結果について
https://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/examination/um3qrc000001nwjv-att/j-bunpu2024.pdf

京都アカデミア法律事務所 岡本哲也弁護士
SNSを用いた情報発信の特徴とは

SNSを用いた情報発信の特徴には、即効性、拡散性、双方向性、発信主体の多層化、そしてコンテンツを伴う発信などが挙げられます。
費用を抑えつつ効果的なリターンが得られることもある一方で、特徴に合わせて留意すべき法的ポイントがあります。
融合するIR×PR それぞれのルールを守ることで両輪として働く

IRとPRのそれぞれが関係する法令をあえて区分すると以下のようにまとめられます。
IRとは、主に「自社の“株式”の広報」を指します。重要な情報は速やかに公平に出していく方向性で情報発信するのが特徴です。こうした情報開示は、金融商品取引法や証券取引所が定める規則(ルール)、上場規程などに基づいて行われています。これらには、インサイダー取引や法定開示(決算情報などを法律に基づいて公表する制度)に加え、金融商品取引法に基づくフェア・ディスクロージャー・ルール(※2)なども含まれます。
※2:フェア・ディスクロージャー・ルール…上場企業等が未公表の重要情報を一定の取引関係者に伝達した場合は、原則として同時に(意図的でない場合は速やかに)同内容を公表するよう求めるルール(仮)。
一方で、PRとは、Public Relationsの略称で、IRと比較して述べるのであれば主に「自社の製品・サービスの広報」を指します。2023年10月より、広告であるにもかかわらず、広告であることを隠す「ステルスマーケティング」は、景品表示法により規制の対象となりました(※3)。広告は、企業がインフルエンサー等の第三者に依頼・指示するものから、インターネット上の表示(SNS投稿、レビュー投稿など)、テレビ、新聞、ラジオ、雑誌等の表示についても対象です。
法令に関して言えば、大きな方向性としては、IR側は情報発信を促す方向、PR側は行き過ぎた発信内容や方法を抑制する方向という、一見、向かっている方向性が逆になっているように見えます。しかし、その2つが両輪として働くことで、一般消費者や国民を混乱させないような立て付けになっているのです。
※3:消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing/
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/assets/representation_cms216_200901_01.pdf
IR×PRの関係法令のグレーゾーンに要注意―発信前に一度立ち止まることが重要
それは、言い方を変えれば、会社法や行政法などのレギュレーションを含め、関わる法令を順守している限り、情報発信の創意工夫は可能だということです。
企業の情報発信における適法なゾーンと違法なゾーン、そしてその間にあるグレーゾーン、これら3つの違いを理解した上で、発信する際にブレーキを踏むことができれば、大きなトラブルを未然に防ぐことになります。特に、注意すべきはグレーゾーンです。「分からないけど、やってしまおう」と進むのではなく、発信前に一度立ち止まることが重要です。
【グレーゾーンを含んだ事例】著名人にPR動画制作を有償で依頼した場合
新事業の認知拡大を目的に、インフルエンサーにPR動画の制作を有償で依頼した際の事例を紹介します。
IRの観点:A社/A社担当者/X氏 それぞれ規制の対象になり得る
A社の担当者がX氏との打合せ中に、未公表の重要事実を「ここだけの話」として話したとします。その後にその事実を認識しているX氏が、自分でA社の株を買った場合、これはインサイダー取引に該当します。また、A社の担当者も未公表の重要事実を第三者に伝えた場合、「インサイダー取引規制」における情報伝達・取引推奨規制の対象となり得ます。
また、PR動画の中で合理的な根拠に乏しい事実を述べ、「A社の株価が上がると思うから、今のうちに仕込んでおいた方がいい」などと話し、株価に不当な影響が出るような事態になると、「風説の流布の禁止」という規制の対象となり得ます。さらに、A社が依頼して制作した動画の中で言及していますので、A社やA社担当者も共犯となる可能性もあるため注意が必要です。
PRの観点:言ってほしいことを指示するのは「広告」
X氏がA社の広告であることを伏せた状態でPR動画を配信した場合、ステルスマーケティング規制に違反する可能性があります。判断のポイントとなるのは、A社が「X氏が動画内で配信する内容の決定に関わっていたかどうか」という点です。
A社側が明確に動画内で表現してほしいことを指示する場合は、広告になります。一部には、有償での依頼であっても、企業側(A社側)が動画内の表現に一切関与せず、投稿の有無や表現が完全に発信者の自由に委ねられている場合には、ステルスマーケティング規制の対象とならないと解されるケースもあります。ただし、その判断は個別具体的な事情に左右されるため、慎重な整理が必要です。
例えば、広告内容について明示的に依頼や指示をせずに依頼した場合でも、A社担当者が、X氏に対して、例えば、「将来こんな仕事をご相談しようかなと検討しているんです」「こういった取引の可能性があります、もうそれ以上は言いませんが」などと言った場合には、将来的な依頼の可能性をX氏に期待させるものとして、X氏の自主的な意思による表現ではない、すなわちAが内容の決定に関与したと判断される可能性がありますので注意が必要です。
このように企業のIR関連の情報発信においては、関係法令のグレーゾーンが数多く存在します。よって、発信前には一歩立ち止まって考えるということが大事になってくるでしょう。
まとめ:IRとPRの担当者が知っておくべき3つのポイント

IRとPRの担当者にご留意いただくべきポイントを3つにまとめると次のとおりです。
まず1つ目は、IRとPRの領域が融合しつつある今、自身の担当部署だけでなく他部署の活動に関係する法令にも目配りをすることが大切です。
そして2つ目は、インフルエンサー等の情報発信者を適切に監督するということです。適切に監督しない場合、 “インフルエンサーが勝手にやった”では済まない事態が起こり得ます。よって、ステルスマーケティング規制の観点からも、広告でやるのか、それとも自由に発信してもらうのか、事前に決めておく必要があります。それによって、依頼するインフルエンサーとのコミュニケーションの取り方が変わってくるからです。それらも含めて、事前に十分に検討すべきでしょう。
最後の3つ目は、法令順守だけではなく、いわゆる炎上やレピュテーションリスクにも留意が必要ということです。これはもはや法律の問題だけでもなく、非常に難しい問題です。先に挙げたSNSの拡散性などの特徴からも、場合によっては法令違反以上の社会的インパクトをはらんでいます。よって、やはり事前にマニュアル等を用意し、危機にどう対応するか、何を発信して何を発信しないでおくのかといった方針・ルールを、社内共有しておくことが重要です。
電通PRコンサルティングでは、IRの情報発信のコンサルティングも実施しています。機関投資家向けのコミュニケーションを中心に担当してきたため、個人向けのIRの情報発信をどうすべきか分からないという場合は、ぜひ当社にご相談ください。
また、報道量と株価の動きの相関関係の分析から、効果的な情報発信の仕方を検討できるサービスも提供しております。こちらもぜひお問い合わせください。
今回はセミナーの法務セッションパートをご紹介しました。後編では、ゲストを交えて実施したトークセッションをご紹介します。
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
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