
PRIDE月間と企業の姿勢―ピンクウォッシング・ピンクハッシングに陥らないために
6月は、世界的に「PRIDE月間」として、LGBTQ+への理解と包摂について考える機会とされています。
日本でも関連イベントや企業の取り組みが広がる中、企業に求められているのは、単なる賛同の表明ではなく、自社の価値観や行動と一貫した姿勢を社会にどう示すかです。では、企業はこのテーマにどう向き合うべきでしょうか。
本記事では、PRIDE月間を切り口に、パブリックリレーションズの視点から誠実なコミュニケーションの在り方を考えます。
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「PRIDE月間」に問われる企業の姿勢
6月は、世界的に「PRIDE月間」として知られています。1969年6月28日にアメリカ・ニューヨークで起きた「ストーンウォールの反乱(※)」を契機に、LGBTQ+の権利を求める運動が広がり、現在では多様性と包摂性を尊重する象徴的な月となっています。
<ストーンウォールの反乱とは>
ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジにあったゲイバー「ストーンウォール・イン」で起きた、警察による摘発に対して性的マイノリティの当事者たちが抵抗した事件です。
当時、同性愛は社会的に強く抑圧されており、ゲイバーへの取り締まりが日常的に行われていました。しかし、このとき初めて当事者たちが集団で抗議し、数日間にわたる運動へと発展しました。
この出来事は、その後のLGBTQ+権利運動の出発点とされ、現在のPRIDE運動の原点となっています。
日本においても、毎年6月は各地で関連イベントが開催され、企業や団体による取り組みが活発化します。
とりわけ東京の代々木公園で開催されるTokyo Prideは、日本最大級であると同時にアジア最大級のLGBTQ+イベントとして知られており、2025年には27万人以上が参加するなど、その社会的インパクトは年々高まっています。

2025年のTokyo Prideにおけるdentsu Japanのボランティアチーム。dentsu Japanは、今年で10年目のブース出展を迎えます。
こうした場において企業が果たす役割は、単なる協賛や露出にとどまりません。自社の価値観や姿勢を社会に対してどのように示すか、すなわちパブリックリレーションズそのものが問われる機会でもあります。企業はこうした機会にどう向き合えばよいか、この問いを考える上で、避けて通れないのが、「ピンクウォッシング」と「ピンクハッシング」という二つのキーワードです。
ピンクウォッシングとは何か

近年、LGBTQ+のコミュニティをサポートする企業が増える中、企業活動において重要なキーワードとなっているのが「ピンクウォッシング(Pinkwashing)」です。
ピンクウォッシングとは、特定非営利活動法人 東京レインボープライドによると、人権侵害など、自らにとって都合の悪い「負のイメージ」を、LGBTQ+フレンドリーな姿勢を示すことで覆い隠そうとする行為への批判をさすとしています。
一方で「レインボーウォッシング」と同義に使われることもあり、LGBTQ+への支持を表明しているように見せながら、実態としては十分な取り組みや配慮が伴っていない状態を指す言葉として用いられることもあります。
故意の場合もありますし、達成しようとしていても、リソース不足などで達成できなくなり、不本意にも「ピンクウォッシング」に陥る可能性もあります。
なぜ、“ピンク”なのか
ここでいう「ピンク」は、ナチス・ドイツによる迫害の中で、同性愛者に付けられたピンク色の逆三角形(ピンクトライアングル)に由来します。ナチスのホロコースト政策において強制収容所に送られた人々は、胸に三角形や星形の識別章を着けさせられましたが、ゲイ(バイセクシュアル男性やトランス女性を含む)はラベンダー・ピンクの逆三角形、レズビアン(を含む「反社会的な女性」)は黒の逆三角形を着けさせられていました。
このピンクトライアングルは、もともと差別と抑圧の象徴でしたが、その後、当事者コミュニティによって抵抗と誇りの象徴として再び意味付けられました。現在では、ピンク(ラベンダー・ピンク)はレインボーカラーと並び、LGBTQ+のシンボルカラーとして広く用いられています。
企業がレインボーカラーの商品や広告を展開しても、社内制度や実際の行動が伴っていなければ、かえって信頼を損なうリスクがあります。
そのため、表層的な表現ではなく、実体が伴うもの、そして、自社の価値観や取り組みと一貫したコミュニケーションが求められます。
ピンクハッシングというもう一つのリスク
一方で、近年はピンクウォッシングという汚名を着せられることを避けようとするあまり、「ピンクハッシング(Pinkhushing)」と呼ばれる傾向も見られるようになっています。
ピンクハッシングとは、「ピンクウォッシング」と批判されることを過度に恐れるあまり、LGBTQ+に関する発信や取り組みそのものを控えてしまう状態を指します。
環境問題において「グリーンハッシング(Greenhushing)」が増えているように、人権領域においても同様の傾向が見られるようになっています。
しかし、企業が社会的な課題に対して何も語らないことは、結果として無関心や消極性として受け取られる可能性もあります。
完璧な姿よりも、透明性、誠実さを示す
では、企業はどのようにしてピンクウォッシングにもピンクハッシングにも陥らずにコミュニケーションを行えばよいのでしょうか。
重要なのは、「完璧であること」ではありません。一般生活者やステークホルダーは、企業に対して完全無欠の対応を求めているわけではありません。
むしろ求められているのは、企業としての努力のプロセスを示すことです。すでに実現できていることだけでなく、まだ達成できていない課題についても正直に開示し、継続的に改善していく姿勢を示すことが重要です。すなわち、透明性と誠実さに基づくコミュニケーションこそが、信頼構築の鍵となるのです。
「知らずに傷つけてしまう」リスク
一方で、LGBTQ+に関するコミュニケーションにおいては、意図せず誰かを傷つけてしまうリスクも存在します。
例えば、知識不足や無意識の前提、固定観念に基づいた表現、あるいは配慮のつもりで行った言動が、当事者にとっては排除や違和感として受け取られることがあります。
このような悪意のない差別は、企業コミュニケーションにおいて特に注意が必要なポイントです。そのため、当事者の声に直接触れる機会を持ち、現実の経験や感覚を理解することが重要です。また、企業の社員研修などは、一度の講習で終わるのではなく、継続的に学び続ける姿勢が求められます。
こうした積み重ねが、より適切で信頼されるコミュニケーションにつながります。
企業にとってDEIは経営課題
LGBTQ+への取り組みは、単なるCSRや社会貢献といった、本業に結びつかないアドオン業務ではなく、企業の持続的成長に関わる経営課題です。
DEI(Diversity, Equity & Inclusion)への取り組みは、従業員エンゲージメントの向上、採用競争力の強化、さらにはブランド価値の向上にも直結します。
特にインパクト投資(※)が拡大している現在、上場企業にとっては、「何を頑張ったか」だけではなく「どのようなインパクトを社会にもたらしたか」を投資家をはじめとするステークホルダーに訴えていくことも重視されるようになっています。
※インパクト投資とは、財務的リターンに加え、社会・環境にポジティブなインパクトを生み出すことを目的とした投資です。ESG投資よりも直接的な社会変化を目標とし、その効果を測定・管理します。Global Impact Investing Networkによると、世界の市場規模は2020年以降拡大を続けており、2020年から2024年にかけて年平均約15〜20%で成長しています。一方、日本でも関心が高まり、GSG Impact Japanの調査では、2021年から2023年にかけて年20%前後の伸びが確認されており、2025年度の投資残高は約18.6兆円に達しています。
dentsu Japan各社では、クライアント企業の課題に応じた支援を行っています。LGBTQ+を含むDEI領域におけるコミュニケーション設計、社内勉強会の講師派遣を含む意識醸成、情報発信戦略の策定などです。
具体的な取り組みやご相談については、ぜひお問い合わせください。
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
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