【企業のパーパス浸透を支援】アイマスクをして参加するワークショップ『ビジョン・クエスト』ができること
「パーパスを策定したものの、社員一人一人が自分ゴトにできていない」
そういったパーパス浸透に関するご相談に応える電通PRコンサルティングのソリューションの一つが、ワークショップ『ビジョン・クエスト』です。社員に、自分や会社がこれまで何を大事にしてきて、この先どうありたいのかの言語化を促す『ビジョン・クエスト』は、見える世界と見えない世界をつなぐブラインド・コミュニケーターの石井健介さんたちとともに開発したプログラム。視覚を使わないというルールを設けることで、本来誰しもが持つ潜在的なクリエイティビティを最大限に引き出し、モヤモヤした気持ちや熱い思いを冷静な言葉へと自ら変換していく特徴を持っています。
今回は、『ビジョン・クエスト』の開発をゼロからご一緒いただいた、石井健介さんと、当社のPRコンサルタントの石井裕太が、プログラムの誕生に至る経緯や、プログラムの土台となる「ブラインド・コミュニケーション」の持つ力、そして「ブラインド・コミュニケーション」の展開可能性を幅広く語ります。
石井 裕太
PRコンサルタント
1979年生まれ。2001年、電通パブリックリレーションズ(現・電通PRコンサルティング)に新卒入社。以来、環境から人権まで、さまざまな社会課題を起点にしたコミュニケーション戦略全般に携わる。現在は、社会的&経済的インパクトの両立を目指すコーポレート・ブランディングに従事。「言いにくいことを言い合える関係」をつくるファシリテーションが得意。
15年以上取り組んできたパラスポーツの普及発展プロジェクトで、「PRアワードグランプリ2021」 「PR Awards Asia 2022」「国際PR協会Golden World Awards for Excellence 2022」などを受賞。2022 Asia-Pacific SABRE Awards審査員なども務める。
石井 健介氏
ブラインド・コミュニケーター/ラジオパーソナリティー
1979年生まれ。アパレルやインテリア業界を経てフリーランスの営業・PRとして活動。2016年の4月、一夜にして視力を失うも、軽やかにしなやかに社会復帰。『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』※1 での勤務を経て、2021年からブラインド・コミュニケーターとしての活動をスタート。見える世界と見えない世界をポップにつなぐためのワークショップや講演活動、ラジオパーソナリティーなどをしている。また、失明する前の2012年から、ロッキング・テクニックと声の誘導によるマインドフルネス瞑想、クラニオセイクラルを組み合わせたオリジナルセッションも行っている。UCLA認定Navigating Life's Challenging 「MBSR(マインドフルネスストレス低減法)」修了。
https://kensukeishii.com/
※1 暗闇の中、視覚障害者による声などで案内を受けながら体験するソーシャル・エンターテインメント。 視覚以外のさまざまな感覚、コミュニケーションを通し、人と人との関わりやつながりをどう育み、保っていくのかを体感できる。 https://did.dialogue.or.jp/about/
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目次[非表示]
視覚を使わないという「ルール」が、人の創造力を開花させる
―最初に『ビジョン・クエスト』開発に深く関わる、お二人の出会いについて教えてください。
左:石井健介氏、右:電通PRコンサルティング 石井裕太の“ブラインド対談”
石井裕太(以下、裕太):6年くらい前に、僕がワークショップの講師として『ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下、ダイアログ)』に招いていただいたのが最初でした。健介くんは、「ダイアログ」のアテンド※2 として働いていて、そのワークショップに参加してくれていたんです。それ以来、仕事仲間であり、家族ぐるみでの付き合いが続いています。
※2 「ダイアログ」内で、晴眼者(視覚障害がない人)を案内する視覚障害者スタッフ。
石井健介(以下、健介):「社会や相手の興味・関心と問題意識から考えて、自分の言いたいことを伝える」という『PR思考』を学ぶ研修だったのですが、すごくシンプルな言葉で内容を伝えてくれて、その時裕太くんから教わったキーワードは、今も活動や普段の生活で意識しているくらい記憶に残っています。
裕太:そう言ってもらえるとありがたいのですが、ワークショップの事前打ち合わせは何回やったか分からないほど、実施まで壁にぶつかり続けました(笑)。普段のワークショップであれば、つくり込んだパワーポイントの資料をスクリーンに投影しながら概要を説明しますが、健介くんをはじめとしたアテンドの皆さんは視覚障害者なので、資料が見えない。事務局の方から「PR思考って一言で言うと何ですか?」「そもそも社会って、どう考えればいいんでしたっけ?」と何度も問いかけられ、必死で考えました。でもやっぱり、見たことのない人たちにうまく伝えられない…と思い悩んでいたら、「裕太さんも、目を使わなければいいんじゃない?」とアテンドの方にアドバイスをいただき、打ち合わせはアイマスクをするというルールで、事務局の皆さんや社内メンバーとの対話を重ねました。自分の奥底に眠っていた記憶や言葉が次から次に湧き上がってくる感覚があって、最終的に出てきたのは、PRの教科書の1ページ目にあるような言葉。そのPRの原点を伝えられたからこそ、健介くんの記憶にも残ってくれたのかなと思います。
視覚を使わないで対話するという「ルール」は正しさを見つけるためのものではなく、答えのない問いを探求する「ゲーム」のようなワクワク感に近いです。そしてこの現体験を通じて、視覚に頼っていることに無自覚だといろいろ分かった気になってしまう、ということを自覚できるようになりました。
日頃、頼りすぎている「視覚」を閉じ、腹の底にある言葉を探求する
―ワークショップ『ビジョン・クエスト』を開発するきっかけについて教えてください。
裕太:ここ4、5年、クライアントから「パーパスやビジョンをつくりたい」あるいは「つくったけど社内浸透していない」といった相談をいただくことが増えてきました。そこで、社員の皆さんが、パーパスやビジョンを問い直し、会社のパーパスと社員一人一人の「マイパーパス」の接点を探求できるような創造的な環境をつくりたいと考えていたんです。
そんなとき、健介くんがパーソナリティを務める「見えないわたしの、聞けば見えてくるラジオ」を聴いていたら、ゲストのライムスター・宇多丸さんと健介くんが、視覚に頼らずに崎陽軒の「シウマイ弁当」を食べるというむちゃくちゃな企画にチャレンジしていました(笑)。宇多丸さんと言えば、大御所のラジオパーソナリティーであり、ライムスターという日本を代表するラップグループのMC。いわば、話し手のプロであり、日本語のプロ。なのに、アイマスクをして弁当を食べるだけで、めちゃくちゃ戸惑ったり楽しんだりしていて、思いっきり素が出ているんです。その様子が耳から伝わってきて、すごく新鮮だったんですよね。
健介:「崎陽軒チャレンジ」ね(笑)。リスナーさんも面白がって「私も目隠ししてシウマイ弁当食べてみました」とSNSで報告してくださったりしました。最後に食べたかった「あんず」を途中で食べてしまったり、しょうゆやからしをうまく使えなかったりでも、意外と大変なんですよ(笑)。
裕太:健介くんたちの「崎陽軒チャレンジ」を聴いて、多くの人が生活する上で頼りにしている「視覚」を閉ざすと、当たり前の日常が激変し、あらゆることがゲームになるということに気付かされました。と同時に、「ダイアログ」のワークショップでの「見えない人に伝える資料づくり」を思い出しました。
毎日、SNSで文字や写真を見て、動画メディアを倍速でチェックして……この対談も記事になったら、文章を目で読む人が大半だと思いますが、現代ほど、視覚情報があふれている時代はないと思うんです。無自覚に視覚に依存しているというか。だからこそ、「視覚」を閉ざして深く内省し、他者と対話できる環境をつくることで、その人にとって大事な思いや根本的な考えが言葉として腹の奥底から出てくるのではないか。さらに、コミュニケーションを取る上で「視覚」に頼れなくなったとき、相手に伝えるために創意工夫をするのではないかという仮説が立ったんです。
「視覚」を閉じて、潜在的な創造力を最大限に引き出されることで、企業のパーパスと自分の思いが重なる部分が見つかれば、社員一人一人が企業で働く意味を見いだせますし、結果的に、企業が魅力的になる。「パーパスやビジョンが社員に浸透しない」というクライアントの課題解決につながるのではと考え、健介くんにワークショップを一緒につくってもらえないかと相談しました。
パーパス浸透を目指すワークショップ『ビジョン・クエスト』
―裕太さんからの相談を受け、健介さんはどんなことを思われましたか?
健介:僕は、2016年に見えない世界に来て以来、自身の実体験をもとに、「見えないこと」をルールの一つにしたさまざまな「遊び」を考案してきました。さっきの「崎陽軒チャレンジ」もそうですね。ルールが定まると、全て自由なときよりは何をするにも難易度が上がり、人のクリエイティビティは刺激されます。例えば、サッカーはキーパー以外手を使っちゃいけないし、ラグビーは前に投げちゃいけない。そういった、理不尽とも言えるルールを設けることで遊びは楽しくなるし、その制限の下で何とかしようと燃えるのだと思うんです。
裕太くんから相談を受けたときも、特別な場所とかではなくていつも働いているオフィスで、視覚を一時的に閉ざすというルールの下、どこまで自分に深く潜れるか、自分の奥底から出てきた言葉をどう表現したら相手に伝わるか、他者とコミュニケーションを取り、どれだけ新たな価値観を知ることができるか、そんなチャレンジができるゲームをつくってみたいと思いました。
裕太:企業のパーパスと自分のパーパスを探求するゲーム(ワークショップ)をつくるなら、その場をいかに創造的にできるかが僕らが提供できる価値です。そこで、健介くんをはじめとした、目が「見える人」と「見えない人(+ほぼ見えない人)」の間をつなぐ「ブラインド・コミュニケーター」の3人と、僕ら電通PRコンサルティングの3人でチームを組み、対話を重ねながらつくり上げたのが『ビジョン・クエスト』です。視界を遮断した状態で言葉だけで伝え合う「ブラインド・コミュニケーション」というアプローチを通して、会社のパーパスと参加者自らのパーパスとの重なりを探求・発見できるワークショップです。
そして、最大のポイントは目を閉じるだけではなく、ブラインド・コミュニケーターとぼくらファシリテーターがいざなう探求の世界ですね。
―ワークショップ『ビジョン・クエスト』では、具体的にどんなことをしますか?
裕太:『ビジョン・クエスト』の参加者は、いつも働いているオフィスの会議室などでアイマスクを着けて視覚を閉ざし、PRコンサルタントとブラインド・コミュニケーターのファシリテーションの下で内省し、10~15年後の203X年から逆算して、「自分のこうありたいな」と思うこと(My Purpose)と、「会社のこうあったらいいな」(Corporate Purpose)の接点を、参加者同士の対話を通じて発見し、言語化していきます。ワークでは未来だけではなく、これまで自分と会社は何を大事にしてきたのかという過去と現在も大事にします。
接点を見いだせれば、会社が目指す在り方の中で、自分はこんなふうに働きたいといったことも見つかりますし、会社の「こうありたい」と社員の「こうありたい」が大きく乖離していることが分かれば、もしかしたら会社のパーパスやビジョンを再考する時期なのかもしれない。会社にとっても、個人にとっても幸せな形を模索するきっかけをつくることができます。
健介:会社のパーパスやビジョンって、言葉としては一つに定まっていますが、社員それぞれ捉え方が違ってよいものだと思うんです。これまでは、社員の捉え方なんて、乱暴な話どうでもよくて「理念がこれなんだから、その通り動け」とトップダウン的にまとめられた組織が多かったかもしれませんが、今はそうじゃない。会社も社員も、より良い状態(Well-being)を探求し続けることが何よりも大事です。
会社のパーパスやビジョンを活用して、社員一人一人の「そもそも」や「これから」を楽しく探し続けることこそ意味があると思い、ワークショップの名前に「クエスト(探求・冒険)」という言葉を選びました。
裕太:クエストとクエスチョン(問い)は同じ語源らしいですが、ワークショップでは、自分と相手への問いかけを通して、正解のない未来を探求する営みとも捉えられます。私とあなたと会社が大事にしてきたこと、これからも大事にしていきたいことを認め合い、同じ組織でそれぞれの大事にしていることを実現するにはどうしたらいいかを考えるベースができる。研修のように「1回やって終わり」ではなく、自分や会社のパーパスを探究していくきっかけが、『ビジョン・クエスト』です。
ブラインド・コミュニケーションが、誰もが本来持っている主体性を再生させ、コミュニケーションをアップデートする
―『ビジョン・クエスト』の参加者からは、どのような反響がありましたか?
裕太:「私はこんなことをしたいんだ!」「会社のこういうところが大好きだ」「この仲間と一緒に働けてよかった」など、普段なら絶対に言えないような、青臭い言葉が出てきて驚いたという感想をいただくことが多いですね。普段のコミュニケーションをアップデートし、本質に迫る上で『ビジョン・クエスト』の核を成す「ブラインド・コミュニケーション」は有効なアプローチだなと思います。
健介:「仕事では横文字を使いがちなのに、実は自分もその言葉を深く理解していなかったと気付いた。もっとシンプルな言葉で、クライアントに説明したくなった」といった感想も寄せられていましたね。目を閉じていると、「もっとかっこよく言いたい」とか「一般的な意見を確かめてから発言したい」と思っても、とっさにスマホで調べたりできませんし、そもそもメモも見られません。まだ言葉になっていないモヤモヤした気持ちや、当たり前すぎて意識していない価値観を、多くの人と言葉を尽くして対話するからこそ、互いの思いや魅力を改めて発見できたりするのかもしれません。
―『ビジョン・クエスト』が、他のワークショップと異なるポイントを教えてください。
裕太:多くのワークショップは、合意形成やアイデア出しを目的としていますが、『ビジョン・クエスト』は、参加メンバーの「主体性を再生する」ワークショップです。『ビジョン・クエスト』では、会社のこと、自分のこと、参加するメンバーのことを深く考えます。そして、自分の言葉で何が大事かを探求していく過程で、会社や仲間を好きになったり、つながりを感じられるようになります。他人との共通点や相違点が分かると、社員本人も会社で働くことの意味を感じられますし、会社や仲間との信頼関係が強化します。そして結果的に、社員一人一人のエンゲージメントが高まります。
健介:「そもそも」を問い直すというのは、コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスが一見悪い行為に思えますが、「そもそも」が社員一人一人の軸として定まることで、生産性が全体的に底上げされると思います。どんな企業もどんな社員もそれぞれ歩んできた歴史があり、向かいたい未来がある。一度体験いただくと、時間軸を行ったり来たりするまとまった時間と場所を人為的につくることの重要性が実感できると思います。
裕太:特に、100年、200年と歴史が長く、ミッドライフ・クライシスに陥っている企業はパーパスの浸透に課題を感じていることが多いです。『ビジョン・クエスト』が、社員一人一人が本来持っている主体性が再生されるきっかけになれたらと思います。
集合写真
―『ビジョン・クエスト』の活用可能性、今後深めていきたい提供価値をお聞かせください。
裕太:会社や個人のパーパス策定・浸透、あるいはビジョンの探求をしたい企業・自治体・大学などあらゆる組織に『ビジョン・クエスト』をぜひ活用いただきたいです。一方で、『ビジョン・クエスト』の根本にある「ブラインド・コミュニケーション」という手法を、新たなコンテンツとしてPR活用したいというご相談もいただいています。
「ブラインド・コミュニケーション」のすごさは、言葉が腹から出てくるという点です。この力を生かして、アイマスクをした社長や社員が健介くんとブラインド対談を行って、本音や本心が詰まった音声コンテンツを「聴く社内報」や「聴く採用広報」に発展する新たな試みを行っています。整えられたキレイな文章や写真、動画からは伝わらない感情、本音、本心がじっくり伝わり、社員や未来の社員の気持ちを動かす新たなアプローチとして評価いただいています。ブラインド・コミュニケーションによってつくり出される音声コンテンツは、既存のコミュニケーションの在り方をアップデートする可能性を秘めていると思います。
健介:確かに最近の就活生は「飾られたもの、うそっぽさ」をすぐに見破りますしね(笑)。そして、この前対談させていただいた電通PRコンサルティングの山口社長が、仕事も人生も、このブラインド対談も、ロールプレイングゲームみたいだと言っていたのがとても印象的でした。何でも、冒険したり探求したりする気持ちで楽しんだもの勝ちですね。
石井健介氏と電通PRコンサルティング 社長 山口のブラインド対談
▶音声で聞く! 電通PRコンサルティングが実施したブラインド・ワークショップ『ビジョン・クエスト』の様子を聴く(「PRX Studio Q」公式note)
▶『ブラインド・コミュニケーション』とは?|PRの先輩に聞いてみました(「PRX Studio Q」公式note )
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
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