「企業広報」戦略策定のカギは「ビジネス・イシューの読み解き」にあり【物価上昇/エネルギー/人財】
ロシアのウクライナ侵攻や円安、インフレ、景気後退など、企業経営において難しい舵取りが迫られる中、2023年がスタートしました。このような状況においては、よりいっそう社会の動きを注視しながら自社の広報戦略を立てていくことが重要となります。では、どのようにして先を見通し、自社の広報戦略を推進していくか。本記事では、長らく企業コミュニケーションに資する各種調査や提言に取り組んできた、電通PRコンサルティング内シンクタンク「企業広報戦略研究所」(※1)の阪井所長に聞きました。
また、企業広報戦略研究所では、2023年の重要イッシューを中心に、1年を通じて注目すべき行事や予定を一覧で整理した「ビジネス・イシュー・カレンダー2023年度版」(※2)も制作。当資料の巻末には、企業が各重要イシューに向き合うための、「広報対策のポイント」などもまとめました。期間限定で公開しておりますので、ダウンロードして、年間の「企業広報」活動にお役立てください。
(※1) 企業広報戦略研究所について
(※2) 「ビジネス・イシュー・カレンダー2023年度版抜粋版」+「企業PR戦略カレンダー」作成プログラムのご提案
目次[非表示]
- 1.大きなイシューとして、流れを見ていくこと
- 2.2023年重要イシュー①「物価上昇」
- 3.2023年重要イシュー②「エネルギー」
- 3.1.◎「エネルギー」に注目が集まる主な出来事
- 3.2.◎関連サポートプログラムのご紹介
- 4.2023年重要イシュー③「人財」
- 4.1.賃上げ
- 4.2.社員育成
- 4.3.従業員エンゲージメント
- 4.4.◎「人財」に注目が集まる主な出来事
- 4.5.◎当イシューに関連した、当社のサポートプログラム
- 5.広報戦略策定のカギは「ビジネス・イシューの読み解き」にあり
- 6.ご案内ビジネス・イシュー・カレンダー2023年度版(抜粋版)+企業PR戦略カレンダー作成プログラムご提案
大きなイシューとして、流れを見ていくこと
―まず広報担当者にとって「社会・経済情勢を捉えることの意味」について教えてください。
2022年は国内外問わずさまざまな問題が生じ、企業経営の難しさを痛感した1年となりました。今年も引き続き難しい環境ではありますが、そのような中だからこそ、ステークホルダーとの対話を推進する「広報活動」をより重視すべきであり、広報担当者に期待される役割も大きくなっていると考えています。
広報戦略を立案する際に重要なのは、社会情勢・世論を踏まえることです。それも個々の話題や行事を見るのではなく、世の中の大きな「イシュー(課題)」を捉えることが非常に重要となります。イシューを踏まえながら、「自社に、そして自社の顧客など重要なステークホルダーに、どのような影響を及ぼす可能性があるのか」、また「その中でどのように動くべきなのか」を予測しながら計画を立てるのです。今回は2023年の重要イシューとして「物価上昇」「エネルギー」「人財」の三つを取り上げながら、広報戦略・活動方針立案のポイントを説明します。
2023年重要イシュー①「物価上昇」
―ひとつめの「物価上昇」について教えてください
ご存じの通り、原材料や原油価格が高騰し、多くの商品・サービスが値上げされました。昨年2022年は、企業物価指数の前年比の上げ幅が9.7%と過去最高を記録しましたが、今年もその傾向が止まらないと見られています。
物価上昇は企業のみならず生活者の暮らしに大きく影響することもあり、非常に関心の高いテーマです。そのためメディアの注目も高く、報道量も伸びています。
―確かに、毎日のように報道されているのを目にします
毎月消費者物価指数、企業物価指数が発表されるため、このタイミングで関連する話題が必ず報道されます。また今年は3月下旬から統一地方選挙が行われるため、各政党・政治家がこの「物価上昇イシュー」に対しどのような政策を訴えるかによって特定の業界・企業に影響を与える可能性もあるため注視が必要です。さらに3月の春闘、6月の株主総会、夏・冬のボーナス支給時期など、年間を通して話題になることが予測されます。
―企業はどのような対策を取ればよいのでしょうか?
このような逆風の環境に対し、企業がどのように乗り切るのかということに注目が集まっていますが、特に自社の商品・サービスを値上げする際には、広報の視点が非常に重要となります。
確かに原材料やエネルギーが高騰し、値上げせざるを得ない環境であるのも事実です。しかし生活者にとっては素直に受け入れることが難しく、単に「高くなった」「買うのを控えよう」とネガティブに捉えられてしまう可能性があります。そのため、ステークホルダーに寄り添った発表のシナリオやタイミングを練り上げることが重要です。
―広報としてはどのようなタイミングが重要になりますか?
「新商品・新サービス発表」「決算説明」「株主総会」などで説明を求められる事が考えられます。
値上げをせざる得ない背景や、コスト抑制の企業努力、それでもなぜ値上げをしなければいけないのか? 値上げに伴う提供価値の改善は?・・・などを、「ビジョン」や「パーパス」を踏まえたシナリオの中でしっかり練り上げるとともに、説得力を高めるための「データ」や「プレゼンテーション資料作成」「メディアトレーニング」などの準備を丁寧に行うことが、これまで以上に重要になってくると考えます。
またこれらとともに、オウンドメディアや報道、ソーシャルメディアなどを通じて、「生活者」や「取引先」など、「株主」以外のステークホルダーに向けても積極的にメッセージを発信していくことも重要です。
◎「物価上昇」に注目が集まる主な出来事
3月:春闘
4月末:本決算
3月下旬~4月下旬:統一地方選挙
4~6月:アメリカ経済後退予測
4/8:日銀黒田総裁任期満了
6月:株主総会
各月:消費者物価指数・企業物価指数発表
夏・冬 ボーナス支給
◎関連サポートプログラムのご紹介
2023年重要イシュー②「エネルギー」
―二つめの重要イシューとして「エネルギー」を挙げています
今年2月で、ロシアのウクライナ侵攻から1年を迎えます。この間、世界のエネルギー情勢が大きく変わりました。エネルギー資源の乏しい日本の「経済安全保障問題」が顕在化した1年ともいえるでしょう。このような傾向が続く中、政府や企業のエネルギー調達に関する戦略・取り組みには、間違いなく注目が集まると考えています。
タイミングとしては電力が逼迫する夏場をピークとして、5月に行われる「G7気候・エネルギー・環境相会合」、11月に予定されている「COP28」開催時などが考えられます。
―企業にとってのエネルギーとはどのような位置づけでしょうか?
企業にとってのエネルギーとは、BCP(事業継続計画)に直結するテーマです。エネルギーを調達できなければ事業が存続できません。特に電力逼迫が注目される「夏場においての調達戦略」、そして、企業として省エネにつながる商品・サービスをどのように展開していくかということも注目されるでしょう。また、現在火力発電に頼っている日本においては、環境問題との両立も大切なイシューであると捉えています。
もちろん、生活者にとっても大きな関心事です。光熱費の上昇については生活に直結するため、非常に敏感なテーマですが、それだけで捉えてしまうと早計です。
「Z世代」と言われる若い方々のESGやSDGs意識が、他の世代よりも高い事が、当「企業広報戦略研究所」の調査で分かっています(※3)。つまり、こうした若年層の方々を中心に、「サステナブルにかかわる『企業姿勢』 『取り組み(ファクト)』を見てモノを買う」という行動傾向が加速していることも注目すべきです。当研究所の調査によれば、企業のESGやSDGsの取り組みについて知った後に行動したかを聞いたところ 、4割超(43.8%)の人が何かしらの行動を起こしたことが分かりました。行動としてはウェブサイト閲覧が1位で、次いで「その企業の商品やサービスを購入または利用した」(9.7%)となっています。特に外食や食品業界でその傾向が高くでています。(※4)
これを踏まえると、外食・食品をはじめ小売りやサービス業など、「当イシューとは関わりが薄い」と見られていた企業にとっても、エネルギー問題に先進的に向き合う企業姿勢を発信し、共感を形成するチャンスがあるともいえるでしょう。例えば昨年2022年、セブン・イレブンがCO2半減の新型店の出店を加速することを発表し大きな注目を集めましたが、このようなGX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みについては、新しい法制度が検討されていることもあり、「Z世代」の生活者のみならず、メディアもアンテナを張っています。
(※3)(※4)
企業広報戦略研究所「2022年度ESG/SDGsに関する意識調査」より
―広報活動としてはどのような取り組みが考えられますか?
イベントやキャンペーンの実施時や、新商品発表においては強く意識する必要があるのではないでしょうか? 特にZ世代をターゲットとするような商品においては、提供する企業としてエネルギー・環境に対してどのような姿勢で取り組んでいるのか、開発の背景や技術者の苦労などを紡いだナラティブやストーリーを丁寧に設計していく必要があります。イベントの実施などでもエネルギーの無駄遣いをしないことや環境への配慮はより強く求められると考えます。
またエネルギーに乏しい日本は、世界各国の経済政策により大きな影響を受けるため、これまで以上にビジネスインテリジェンス活動(情報収集)も積極的に行うべきと考えています。世界のエネルギー政策を把握しながら、自社にとって重要なステークホルダーを見極め、よりよい関係を築くためのパブリック・アフェアーズ(PA)も大切な活動となります。
◎「エネルギー」に注目が集まる主な出来事
2月:「GX推進法案」提出見込(通常国会~6月迄)
2月:ロシアのウクライナ侵攻から1年
4月:G7気候・エネルギー・環境相会合(札幌)
7月:夏の節電要請
11月:COP28(ドバイ)
11月:経済安全保障推進法 段階的施行
11月:米国大統領選挙1年前
◎関連サポートプログラムのご紹介
エネルギー政策に関するご参考資料はこちらをご覧ください。
(ワシントン政策分析レポートVol.16 )
2023年重要イシュー③「人財」
―三つめには「人財」を挙げています
人は「人財」と称されるように無形の資産として大きな価値があります。2023年3月末からは、有価証券報告書での非財務情報・人的資本の開示を義務付けられることもあり、企業の人財戦略は広報の重要テーマとして注目を集めると考えられます。
このイシューで重要なキーワードは「賃上げ」「社員育成」「従業員エンゲージメント」です。
キーワードは「賃上げ/社員育成/従業員エンゲージメント」
賃上げ
岸田政権はインフレ率を超える賃上げの要請を企業に出しましたが、この要請に対し企業がどのような姿勢を取るのかには、人財を大切にする指標の一つとして今まで以上に関心を持たれるでしょう。先日、ユニクロ(ファーストリテイリング)が正社員の年収を最大40%引き上げると発表し(2023年1月11日)、大きな話題となりましたが、今後も引き続き注目されると考えています。人財を大切にする姿勢は、企業の魅力に直結します。当研究所の調査によると、「人的魅力」は企業の魅力要素において常に最上位との結果が出ています。
社員育成
「社員育成」については、その取り組み自体が大きなPRチャンスといえます。さまざまな変化に対応するために新しい知識やスキルを学ぶ「リスキリング」(※5)というキーワードはメディアでも頻出していますが、具体的な取り組みについてはそれほど紹介されていません。メディアも、企業のユニークな人財育成術などは積極的に取材したいと考えているでしょう。
※5 「TrendReport2023」~これからの「リスキリング」~
従業員エンゲージメント
三つめの「従業員エンゲージメント」は非財務情報開示において注目を集めると予測します。エンゲージメントスコアが開示されることによって「あの会社の従業員満足度は○%」「A社よりもB社は○○ポイント低い」など企業間の比較が簡単になされ、ソーシャルメディア上などで拡散し、特に採用活動などに影響することが考えられます。
―広報活動ではどのような取り組みが考えられますか?
広報主導でのファクトづくりが重要となります。
「人財」に対する考え方をトップがしっかりと言葉にし、賃上げやリスキリングに対するファクトを積み重ね、結果として「従業員エンゲージメント」スコアが上昇していく良いスパイラルを作り出すことが重要と考えます。そのためにも社員を十分理解し、同じ目的に向かって進む環境づくりを整えることがベースとなります。当社では内部コミュニケーションを活性化させるためのプログラム「従業員エンゲージメントプログラム」などを提供しています。
また、学生など社外に向けては先に触れたリスキリングの取り組みなど、具体的な取り組みについてファクトブックやオウンドメディアなどで情報を整理し、ソーシャルメディア・パブリシティ・広告などを組み合わせながら積極的に発信していくことが重要です。
◎「人財」に注目が集まる主な出来事
- 3月:春闘
- 3月:採用広報解禁
- 4月:有価証券報告書 記載指標改訂義務化
- 4月:「こども家庭庁」発足・「こども基本法」施行
- 6月:新卒採用選考解禁
- 6月:株主総会
◎当イシューに関連した、当社のサポートプログラム
広報戦略策定のカギは「ビジネス・イシューの読み解き」にあり
―ありがとうございました。それでは最後にメッセージをお願いします。
これまでお話をしてきたように、変化の激しい環境下ではより社会を俯瞰し、さまざまな視点を持ちながら自社の活動と付き合わせていく広報視点が重要と考えています。
広報PR部門は事業部門などからあがってくるネタを発信するだけの部門ではありません。これからの広報PR部門は社会・経済を先読みし、社内でのファクトづくりを促していく「価値創造プロデューサー」であるべきだと考えています。今回作成した「ビジネス・イシュー・カレンダー2023」を参考にして頂き、自社にとって影響のあるイシューを先読みしチャンスを探り、まずは社内にファクトづくりを働きかけてみてください。
また、外部からの視点を入れることも効果的です。
我々は広報のプロフェッショナルとして、よりよい広報戦略を策定し、広報活動を推進していくためのサービスを幅広く提供しています。いつでもお声がけ頂き、ディスカッションできればと考えています。
ご案内
ビジネス・イシュー・カレンダー2023年度版(抜粋版)
+企業PR戦略カレンダー作成プログラムご提案
「企業広報戦略研究所」が考える、2023年の重要イシュー「物価上昇」「エネルギー」「人財」を中心に、1年を通じて注意すべき出来事を一覧で整理。抜粋版をご提供するとともに、企業として、各重要イシューに向き合うための、企業広報活動「戦略策定のポイント」等も整理しています。
また巻末には、各企業様向けに「企業PR戦略カレンダー」作成プログラムのご提案もご用意しました。年間での「企業広報」活動にお役立てください。
「企業広報戦略研究所」所長 阪井完二プロフィール
阪井 完二(企業広報戦略研究所 所長)
株式会社電通PRコンサルティング 執行役員
- 企業PR戦略、経営広報・コーポレートブランディング、パブリックアフェアーズ、イシューマネジメント、リスクマネジメント、KPI・効果測定などの調査研究および実践。政府、通信、交通、食品、サービスなど多くの業界を担当。
- 主な受賞歴:マーケティング学会最優秀論文賞(ベストペーパー賞)受賞、日本PR協会「PRアワード イノベーション/スキル部門最優秀賞受賞」、国際PR協会 「Golden World Award」コミュニケーション・リサーチ部門最優秀賞受賞。アジアパシフィックPRアワードB-to-B部門受賞など多数。
- 2013年に「企業広報戦略研究所」を立上げ、東京大学を始め、各種学術機関との産学連携による調査研究・論文執筆・学会発表等を通して、業界の発展に努めている。現在、所長を務める。マーケティング学会、広報学会所属。日本PR協会認定PRプランナー
- 主な執筆:日経BP「新・戦略思考の広報マネジメント」「戦略思考の魅力度ブランディング」「戦略思考のリスクマネジメント」、経済広報「上場企業の企業広報力調査」 「評判を調査分析する方法~レピュテーション調査を有効に活用するには」「今年のイシューを予測する」「広報部門にとってのパブリックアフェアーズ戦略とは」、広報会議「企業の広報力~危機管理編」「ニューノーマル時代の従業員エンゲージメント」「ESG経営と企業の価値づくりとは」など。
- 講演等:各中央省庁・企業、経済広報センター、公正取引協議会、企業研究会、経済同友会、日本経済団体連合会、マーケティング学会、広報学会、人工知能学会、国会議員会館、広報IRエキスポ、社会構想大学院大学など多数。