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AI時代の採用コミュニケーション|企業に求められる「自社らしさの言語化」と人の温度

退職代行サービスの登場により「辞め方」は多様化し、生成AIの浸透は就職活動や採用の初期接点を根本から変えつつあります。

効率化が進む一方で、学生の「自己理解」や企業の「求職者理解」といった“人を理解するコミュニケーション”がむしろ希薄になりつつあります。さらに、入社後のオンボーディングやインターナルコミュニケーションにおいても、AIやオンラインツールの活用が進む中、「心理的安全性」が入社後の定着率を左右することが明らかになってきています。

今回は、採用コンサルタントの谷出正直氏へのインタビューを通して、「退職の仕方」「新卒採用の在り方」「入社後の定着施策」という一連のプロセスをAI時代の視点から捉え直し、企業が直面する新しい課題と、その解決に向けたヒントを探ります。


谷出 正直(たにで まさなお)氏 / 採用コンサルタント/採用アナリスト

奈良県出身。筑波大学大学院体育研究科を修了。新卒でエン・ジャパンに入社。新卒採用支援事業に約11年間携わり、独立。現在は、企業や学生、大学、採用支援企業、メディアなど新卒採用や就職活動に関わる方、約3500人と生きたネットワークを構築。企業の採用支援、学生の就職支援、大学での授業や講演などを行う。

目次[非表示]

  1. 1.“辞め方”の多様化が映す、企業と個人の新しい関係
  2. 2.かつての就職活動は終焉へ。学生も企業も、“AIと共に考える”ことが当たり前に
  3. 3.AIにインプットする、企業の「求める人物像」はどう抽出する?「社員の言葉」をテーブルに並べ、AIと「未来のありたい姿」を言語化していく二人三脚の作業が誕生
  4. 4.全てをAIに任せる採用活動はうまくいかない。企業のAI導入による選考プロセスの効果とリスク
  5. 5.社員を巻き込む採用が、離職を防ぐ。AIでは再現できない「対話」が生む、企業と個人の相互理解
  6. 6.採用活動:学生に対する「企業理解」は“AI”で、「魅力付け」は“人”で、最後の「見極め」は“二人三脚”で
  7. 7.学生にとっても採用担当者にとっても、AIではなく「自分が選んだ」という納得感が入社後の離職を予防する

“辞め方”の多様化が映す、企業と個人の新しい関係


――近年の退職代行サービスの登場は、採用活動にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

退職代行に関するニュースが取り上げられていますが、実際のところ、厚生労働省発表のデータ(※1)からも、入社後1~3年以内に辞める“早期離職”が劇的に増えているわけではありません。
(※1)厚生労働省HP 学歴別就職後3年以内離職率の推移 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137940.html

退職代行サービスの利用実態には、「離職までの期間」と「使われ方」において、それぞれ2つのケースがあります。

まず、「離職までの期間」は、入社直後から1カ月以内などに辞めるケースと、ある一定期間働いてから辞めるケース。

また「使われ方」としては、いきなり退職の意思を告げられるドタキャンケースと、離職希望者が事前に離職の意思を示していたにもかかわらず、受け入れてもらえなかったことから使われるセーフティネットケースです。

前者のケースには否定的な意見もある一方で、後者は、強引な引き留めや脅しがあった現場において、離職希望者を守る一手として機能している側面があります。

かつての就職活動は終焉へ。学生も企業も、“AIと共に考える”ことが当たり前に


――生成AIが広まる以前、学生は入社も退社も全て自力で行うのが当たり前でしたが、今の学生の就活時のAI利用実態はどうなっていますか。

企業を辞めたいと思った時にも、必要な手続きなどについてAIに聞くといった使い方は普通にしていると思います。また現在、企業側の現場において、AIを使って仕事をすることが悪ではないですよね。生産性を上げるために、いかにAIを使いこなして成果を出せるかという認識に変わってきています。

よって、学生側の視点で見ると、例えばエントリーシートを手書きで提出することを求めてくる企業に対しては疑問視される可能性があります。DXが進んでいないと見なされるからです。優秀な学生から、そんな企業はそもそも受けないと判断されかねません。

一方で、生成AIに関しては、学生の中でも学んでいるかどうかで、使いこなせるレベルに差があり、それは企業も同じです。

――これまで学生の企業研究には、OB・OG訪問やキャリア支援センターなどを活用するのが一般的でしたが、そこをAIに代替され始めているのでしょうか。

AIは、学生にとって、企業を知るきっかけになっています。

しかし、プロンプトの設計の仕方や質問の仕方次第で、その学生にとって最適な企業の情報が出てくるかどうかは変わり、良い企業の定義は人によって異なります。よって、自身にとって良い企業の判断軸を持っていない学生は、AIから出てきた情報をうのみにしてしまう懸念はあります。また、企業HPをわざわざ見に行く前に、就職を希望する企業名を検索し、AIモードで表示された要約が彼らにとっての一次判断フィルターになるでしょう。

――とすると、企業として対策しておきたいのは、AIにどう自社が要約されるか、ということですね。

はい。AIは、文字情報になっていないものから思考することはできません。人間の脳内にある情報にAIはアクセスできないからです。だからこそ、AIが学習できるように“自社の経験や文化を言語化する”ことが重要です。

その作業は単なる情報整理ではなく、“自社らしさ”を定義するコミュニケーションの一部と捉えるべきでしょう。例えばですが、採用サイトに社員300人分の「当社を選んだ理由」「自分が熱中していること」など、本来表には開示されていない一人一人に眠るストーリーを書き起こしておく、などもいいかもしれません。

AIにインプットする、企業の「求める人物像」はどう抽出する?「社員の言葉」をテーブルに並べ、AIと「未来のありたい姿」を言語化していく二人三脚の作業が誕生


――その言語化した企業の魅力を、AIが読み込めるような場所、つまりメディアを通した発信に乗せていく必要性も高まりそうです。逆に、企業側として「求める人物像」もプロンプトを設計する上で定義しておく必要があると思うのですが、どう導き出せばよいのでしょうか。

まず「求める人物像」の考え方は2つあります。1つ目は、『今の延長線上つまり過去から導き出す考え方』です。これは、今社内で活躍している人や採用してきた人の面接、履歴書、適正テスト結果などの情報を全てデータ化して、合格者と不合格者に分ければ、基準を出すことは可能です。しかし、今の組織強化には効果が見込める一方で、次の時代を見越した変革性のある企業経営を目指すなら、過去の基準の積み上げだけで未来は描けません。

1つの事例として、AmazonがAIを使用した人材採用システムを活用したが、過去10年間分の履歴書パターンを学習させた結果、男性を採用するのが好ましいとAIが認識し、女性差別的な採用判断をするということが起きたのも、その一例として挙げられます。

そこで、重要なのが、2つ目の『未来の企業像からの逆算で導き出す考え方』です。企業の変革や拡大などを目指すなら、中長期的な経営目標を実現した時に、どんな人が未来の社内にいるのか?必要な能力とは?といった観点から考えます。これは、主に経営陣に対する対話型インタビューやコミュニケーションを通じて、引き出すことが必要であり有効です。このように「求める人物像」が定義できたら、その人物に興味関心を持ってもらえる自社の魅力や特徴を“言語化された情報”にすることが大切で、ここはAIの得意領域。その情報を整理し、採用に関わるコンセプトや最適な情報をAIから提案してもらうなど、AIと二人三脚でより精緻な情報発信を行うことができます。

企業の「求める人物像」の考え方


                               ※谷出氏へのインタビューをもとに作成

全てをAIに任せる採用活動はうまくいかない。企業のAI導入による選考プロセスの効果とリスク


――採用におけるAI活用の解像度が上がりました。現状として、企業側の採用活動にもさまざまなAIツールなどの導入が進んでいますが、その効果やリスクにはどんなものがあるのでしょうか

新卒採用におけるAI活用は、採用活動の各フェーズで広がっています。ポイントは「初期選考の効率化」と「判断の客観化」です。例えば、大手企業にとって膨大な応募書類を短時間で処理できるようになり、採用担当者はより“面接(面談)すべき学生”にリソースを集中させることが可能になりました。AIは、“採用担当を代替する”のではなく、“採用担当の判断を支援する”方向へと進化しているのも特徴といえるでしょう。

企業の採用プロセスごとのAI活用の例

プロセス

内容

ES(書類選考)の

初期スクリーニング

AIがエントリーシートの文章を解析し、文体や表現の特徴、語彙の多様性、内容の一貫性などを数値化

初期選考:動画選考や
AI面接

学生が提出する自己PR動画やオンライン面接の映像や音声をAIが解析し、表情・話し方・発話スピード・感情トーンなどを可視化

就活生対応

就活生とのコミュニケーションにおいて、チャットボットが採用担当の代わりに質問へ応答。面接の日程調整を行うことも

マッチング

AIが応募学生の経歴やESの記載内容、適性テストの結果などと企業の要件データ(求める人物像)を照合し、「定着しやすい人材」や「職種との親和性が高い人材」を抽出

面接の改善

面接の様子を録画し、面接官の評価傾向や学生の回答傾向をAIが解析し、面接全体の質を見直す。面接官トレーニングにつなげる動きにもなっている

※谷出氏へのインタビューをもとに作成

社員を巻き込む採用が、離職を防ぐ。AIでは再現できない「対話」が生む、企業と個人の相互理解


――今年5月に発表されたマイナビ調査(※2)によると、学生にとって受験意欲が下がる面接は「動画選考・AI面接」といった結果が発表されました。

最終的に企業が持っているリソース=面接官には、限りがあります。それなら選考フローの入り口でAI面接を活用しつつ、ある一定の基準を超えた人材とのコミュニケーションを深めることに面接官が時間を割けば、最終的に優秀な人材採用につながるという発想を、今多くの企業が持っているのではと思います。よって、採用活動がAIで完結する時代は、少なくともまだ来ていません。AIの活用目的が曖昧なまま“効率化”だけを追う企業ほど、求める人物との出会いを逃している傾向があります。

(※2)マイナビHP マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査4月<就職活動におけるAI利用について>
https://www.mynavi.jp/news/2025/05/post_49027.html 

――それでは、社員の定着率向上や離職予防につながるAI時代のインターナルコミュニケーションに必要なこととは何でしょうか。

離職の主な理由は、人間関係や価値観の不一致であり、健全なコミュニケーションが取れていれば離職を防げている可能性が高いんです。面白いデータがあります。採用活動に現場の社員が関われば関わるほど定着率が上がるともいわれているんです。つまり社員に対して「採用コンテンツにしたいので、インタビューさせてもらえませんか?」といった協力を仰ぐ声かけが、実は社員の定着に影響し、離職予防につながるんです。

そしてそのインタビューは形式ばった一問一答ではなく、深掘りをすることで本音を引き出すのがポイントです。理由は、求職者である第三者に「今自分はどんな仕事をしているか」「なぜこの企業に入ったのか」「仕事を通じてどんなやりがいがあるのか」などを社員自ら話すことで、自身がこの企業でこの仕事をしている意味などを考える過程で仕事へのモチベーションが戻ったり、初心を思い出すきっかけになります。自分で話したことには、一貫性の法則が働いて実現したいと思うという背景もあります。これは、採用という場面でないと出にくいテーマです。

――AIにもヒアリングはできると思うのですが、効果が変わってくるのでしょうか?

AIによるインタビューにも一定の効果はありますが、AIは基本的に(現段階だと)全てを肯定してくれる傾向にありますよね。深い「本音」や納得感を引き出すにはプロの聞き手や第三者によるヒアリングがより効果的です。また、結局「人」が自分のためにこれだけ時間を割いてくれた、と感じられるかどうかも、実は重要なポイントだと考えています。

採用活動:学生に対する「企業理解」は“AI”で、「魅力付け」は“人”で、最後の「見極め」は“二人三脚”で


――AI時代であってもインターナルコミュニケーションに大事なのはダイレクトなコミュニケーションなんですね。

採用活動の本質と目的とは、選考フローを通じた企業と求職者のお互いが「理解」「魅力付け(志望動機形成)」「見極め」をした上で、面接や説明会などを通じて、信頼・信用・承認・憧れなどの対象になる「人間関係」を築くことです。採用活動においてAIは、初期選考の効率化には有効ですが、企業の魅力付けや求職者の「本音」の引き出しは、やはり「人」が担うべき領域であり、「人」に担ってほしいと考える領域なのです。

一方で、過去の離職率データベースなどを活用できれば、この学生は自社で採用すべきかの「見極め」はAIと協力して行えるパートでもあります。採用フローの段階に応じて、このAIとの協業をうまく分担していくことが鍵となるでしょう。

オンボーディングが円滑な企業の共通点
①社員巻き込みの効果
採用活動に社員を巻き込むことで、既存社員の定着率が上がり、新入社員の離職率も下がるという好循環が生まれている。採用活動を単なる人集めではなく、定着と活躍をゴールに据えている傾向あり。
②情報ギャップの解消
早期離職の主な理由は『こんなはずじゃなかった』という情報ギャップであり、選考中に企業のリアルな情報を隠さず発信し、離職防止のための理解を深める機会を増やしている。
③評価制度と社員の動機付け
採用活動への参加を評価制度に組み込むことで、社員のモチベーションを高め、片手間ではなく本気で取り組んでもらう仕組みがある。
                                       ※谷出氏へのインタビューをもとに作成

学生にとっても採用担当者にとっても、AIではなく「自分が選んだ」という納得感が入社後の離職を予防する


――社員を巻き込んだオンボーディング(社員の早期離職を防ぎながら企業にとって有用な人材に育成する施策)がうまくいっている企業の共通点とは何でしょうか。

企業において、最も大事なのは「人」です。それを理解している企業は、単に人を取ればいいという発想ではなく、採用した人がちゃんと定着して活躍するまでをゴールに見据えた採用活動をしています。

例えば、オンボーディングの一環で、AIの元データとなる情報源として、多様なキャリアパスや転職事例を社員インタビューのかたちで多数発信するのも良いでしょう。求職者が自分に近い事例を見つけやすくなり、異業種からの転職促進や学生への魅力付けにも効果的です。

人は最終的に選ぶものや決めた道がたとえ同じであったとしても、その決定に至るまでのプロセスで納得度を高めているのです。インタビューで引き出される言葉も同じで、AIではなく人が介在する価値はそこにあるのです。社員へのインタビューを通じて、「本音開示」情報や言語化されたコンテンツの充実をいかに図れるかが、AI時代におけるインターナルコミュニケーションをはじめ、採用活動全体において、一層重要となるでしょう。

最終選考~入社前にも実施できるインターナルコミュニケーション施策
入社前から本音を引き出す場づくり
  ー入社前から候補者が安心して“本音”を語れる場を設計することで、“理想と現実のギャップ”に関しての期待値調整とエンゲージメント向上につなげる
「企業理解」を深めるワークショップを実施
  ー求職者、新入社員、既存社員から経営陣までが参加し、企業理解を深める
「企業と個人の相互理解」を促進するプロセス設計の工夫
  -採用~配属に至るまでのプロセスで「企業と個人の相互理解」を深める


AIが情報を整理し、人が想いを伝える——。そんな時代だからこそ、企業の“らしさ”を言語化し、社内外に発信するコミュニケーション設計がますます重要になっています。

電通PRコンサルティングでは、採用広報やインターナルコミュニケーションの視点から、企業と人材のより良い出会いと定着を支援します。まずはお気軽にご相談ください。

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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PRX編集部
PRX編集部
電通グループ内のPR領域における専門会社「電通PRコンサルティング」が運営するオウンドメディアです。1961年の創立以来、国内外の企業、団体をサポートしてきた経験・実績をベースに、電通PRコンサルティングならではの視点で、PRの基礎から最新PRトレンドやソリューションまで幅広くお届けします。

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