ESGとは?企業の取り組みとPR事例 伝わるための「n=1起点」を解説
近年企業は、社会・環境の変化に対応しながらも、長期的で持続的な成長を実現すべく、ESG活動を通じた「企業価値の創造」に取り組んでいます。つまり、ESG活動は、中長期的なリスク・イシューへの対応力の源であるのみならず、「稼ぐ力」そのものの源泉であると考えられています。
よって、企業を取り巻くさまざまなステークホルダーからは、財務情報のみならず、非財務情報(ESG情報)も含めた総合的な情報開示と企業評価に注目が集まるようになってきました。つまり、事業による収益拡大はもちろんのこと、環境負荷の軽減や働き方改革、人的資本に対する取り組みなど、その「稼ぎ方」に社会の注目が集まっていると言ってよいでしょう。
にもかかわらず、2022年度当社内「企業広報戦略研究所」の調査では、約6割弱の生活者にはこうした活動の情報が「届いていない」ことが判明。それでは、「伝わるESG活動」とは何か?
本記事では、共感を呼び込み、かつその企業ならではの価値創造に貢献するESGコミュニケーションのポイントを、ケーススタディーとともにご紹介。また「ESGブランディング」に関する当社サポートプログラムご紹介資料もご用意しました。併せてご覧ください。
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伝えているけど、伝わっていない!?「ESG」
昨今、企業の環境や人的資本に対するアクション、すなわちESG活動は、「取り組んでいるから、すごい!」から「取り組んでいて、当たり前」の時代に突入しており、自社の魅力を生かした各社の取り組みはますます活発になってきています。
しかしESGに関する活動は、優先すべき社会課題が同業他社とも共通することが多く、差別化が図りにくいもの。
「一生懸命やっているけれどもなんだか世の中に伝わっている気がしない・・・」「社内でもなぜこの活動を行っているのかが理解を得られていない気がする・・・」
と、頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、「企業のESG活動がどうしたら人々に届き、共感を呼び込みながら、ステークホルダーや顧客との良好な関係構築に導くことができるのか?」、すなわち「ESG伝わっていない問題」を解決するためのポイントをまとめてみました。
まず、こちらの調査結果をご覧ください。
これは、「企業のESG活動を知った後、実際に行動を起こしたかどうか」について、1万人の生活者に向けて行った当社調査の結果です。全体の43.8%は、『企業のサイトを検索/商品・サービスを購入/家族や友人に話す』など、積極的な行動を起こしている、つまり「ESG活動が伝わっている」状態です。
一方、56.2%の人たちは特に反応を示していない。つまり「ESG活動が伝わっていない」という結果になりました。
この両者の違いは一体何なのでしょうか?私たちは前者の「ESG活動が伝わっている」企業事例の研究を通じて、一つの「共通点」があることに気が付きました。
“伝わるESG”の基本戦略「n=1起点」
「ESG活動が伝わっている」企業事例の「共通点」。それは、「【n=1】が、共感を呼び込むESG活動の起点になっている」ということです。つまり「ある特定の誰か=一人」を起点にしてESG活動のコミュニケーションが設計・展開されているということでした。
よりイメージがしやすいように、ロールモデルとしてアパレル企業A社のESGにおける「S領域」(社会・人的資本)に関する事例をご紹介します。
普段より環境や人に配慮した商品をつくっているアパレル会社A社のAさん。今日もウェルビーングな商品の開発に頭を悩ませていた。
「いいことをしているはずなのに、誰のための活動なのか。イマイチ手応えが感じられない・・・。ところで、自社のステークホルダーの中に自社商品に関して課題を抱える人はいないだろうか?」調べてみると、例えば顧客の一人 、車いすユーザーBさんの存在があった。
Bさんは「スカートは着脱が難しくて・・・毎日同じズボンをはくしかないの」と、障がいが理由でファッションの選択肢が狭められていた。
「洋服についての基本的な悩みは大体が解決されている」と思っていたA社とって、これは見落としていた事実。そこで「どこの誰かも分からない人のため」ではなく、自社商品に切実な悩みを抱えている一人=Bさんに徹底的に寄り添った結果、「座ったままでも着脱しやすいスカート」が開発された。
このスカートは完成お披露目会やイベントなどで披露され、テレビや新聞、WEBサイトなどさまざまなメディアで紹介。障がいの有無に関係なく着用できるインクルーシブな商品として話題になり、販売数は予想を大幅に上回るとともに、これを支えたA社の企業理念である「全ての人に、優しい服を」にも関心が集まる。その結果、「A社の取り組み、すてき!」「私の家族にもこんな悩みが実はあったからうれしい」という声がSNSで広がり、ビジネスとしても成功を収めた。
企業として環境・人的資本・ガバナンスにおける社会課題に取り組む場合、漠然とした目標へのアプローチが採用されがちです。しかし、自社のどのような「志(パーパス)」や「ユニークネス(比類なき唯一の性質)あふれる資産(技術、実績、ネットワーク)」をもって、「誰の問題をどう解決したか(しようとしているか)」を明確に示すことで、初めてESG活動が届くと考えています。
そしてこれをわれわれは、「ESGブランディング」における基本戦略【n=1起点】と呼んでいます。
「うちはA社のようにBtoCではないから…」「社員数の少ない会社だし…」と感じる方もいるかもしれません。しかし、「どこかの誰か」ではない、ある特定の誰かである「一人を起点にする」ということは、規模や業種にかかわらず、あらゆる企業でも取り組めることです。
伝わりにくいESGに関して、「n=1」を起点にコミュニケーションしていくことで、「なぜA社がESG課題に取り組むのか」「A社は自社の資産を生かして、どう課題に向き合おうとしているのか」が明確になり、結果、より強い共感力をもって、社内外の認知や理解も深まると考えます。
“伝わるESG”の基本戦術「3つのP」
「伝わるESG」にとって【n=1起点】は最も重要な戦略だと捉えていますが、それに加えて、「伝わるESG」には欠かせない“戦術”も存在します。それが、【3つのP】です。
この3つのPとは、「People」「Partnership」「PESO media」を意味しています。先ほどの、A社事例と共にひもといていきましょう。
「People」社員起点(e.g.社員Aさん)
社員の課題に取り組む“熱量”を可視化することで、生活者に自社らしいESG活動背景を届けます。「架空のアパレル企業A社で働きBさんの課題に取り組んだAさん」が、この社員起点の要素です。「A社がESG活動に取り組む理由」を生活者に届けるには、ストーリー性がポイントとなります。
- 活動の熱源となったAさんはどんな人なのか?
- どんな背景・思いがあってこの活動に取り組んでいるのか?
- そんなAさんをバックアップしたA社はどんな企業なのか?
というように、企業の「らしさ」を体現する「社員」を通して、A社のESGに対するビジョンを伝えていくことが可能と考えています。
「Partnership」外部連携・共創(e.g.車いすユーザー団体)
自社の枠を超え、他団体や他企業と共に、課題解決に取り組む姿を発信することで、本気のESG課題解決姿勢と成果を届けます。
社会課題が複雑化する昨今において、自社のみ、または一時的な活動のみでは本質的な成果を残すことは難しいとされています。「協働による本質的な課題抽出」と「企業や団体を超えた継続的な面での向き合い」こそが、自社の取り組みの本気度を示すことにつながると考えています。
A社事例では、商品を開発するに当たり、車いすユーザー当事者の悩みを抽出するために、該当団体や同じ課題感を持つ他企業と共に、活動を展開したとしましょう。当団体との連携・共創過程を隠すのではなく、むしろ積極的に紹介していくことで、より本格的に課題解決に取り組む「企業姿勢」を訴求することにつながり、結果、より幅広い生活者の共感を呼び込んでいくのではないでしょうか?また、このことによって、新しい知恵、技術、ネットワークを有する、さらなるパートナー(共創企業・団体)からの支援をも呼び込んでくることも考えられます。
「PESO media」 デザイン(e.g.ソーシャルメディアでの口コミ、TVでの取り上げなど)
「Paid」「Earned」「Shared」「Owned」メディアといった、多面的な情報伝達手段を活用し、受け取り手に合わせた顔つきでESG活動の「過程」と「成果」を届けます。
例えばA社では、
- 認知獲得のための広告を出稿するのみならず、
- より多くのメディアに紹介していただけるよう、車いすユーザーに社会的関心が集まるタイミングでニュースを発信。
- ソーシャルメディア上では、一緒に開発に携わった「車いすユーザー」や「ファッション関連インフルエンサー」と共に情報を発信。
- さらにこの施策に興味を持った人が、より詳細な情報を取得できるよう、開発の背景や過程をオウンドメディア(企業ウェブサイト、PR動画、ファクトブック)にて発信。
といったところでしょうか。
ESG活動は、社会的要請の下で取り組むことが多いため、ともすれば「良いことに取り組んでいるから、自然と社会に伝わっているに違いない」と思い込みがちです。しかし、各社がさまざまなESG活動に積極的に取り組み始めた今、ここに「伝わらないESG」が抱える問題があるのではないでしょうか?
つまり、自社の「思い」と「結果」のみを一方的に声高に伝えるのみならず、社会的関心と目線を合わせた「発信文脈」デザインや「発信タイミング」設計を行うこと。これにより、受け手にとっては、情報の「自分ごと化」が促進し、あたかも自分のために語られているような「共感」を感じ、新たな積極的行動が喚起される。すなわち、「伝わるESG」の実践につながることが考えられます。
「伝わるESG」を創る「ESGブランディング」
いかがでしたでしょうか。
これが電通PRコンサルティングの考える「伝わるESG」、つまり戦略【n=1】と戦術【3つのP】が作用して成り立つESGブランディングです。
既に取り組まれている自社のESG活動があれば、これらの戦術と戦略がどれくらい該当するか一度確認してみるのも良いかもしれません。
またもし、「自社の【n=1】と【3つのP】はどんなものがあるんだろうか・・・?」と気になった方は、電通PRコンサルティングまで、お気軽に問い合わせください。
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
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