【人的資本の盲点】ミドル・シニア世代も活躍し続けるキーワード
人生100年時代の新しい人生設計を示した大ベストセラー「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略」(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、池村千秋訳/東洋経済新報社,2016)の世界的ムーブメントを引き合いに出すまでもなく、現在、人生100年時代に向けた生き方に関する議論が活発になりつつあります(※1)。
これに対応して、多くの企業は、60歳を超えても生きがいを持って働ける環境を整えつつありますが、その一方で、組織は若返りを加速。人材開発予算については若手社員への投資に偏り、ミドル・シニア層においては育成対象外となっていることも、少なくなくありません。またさらに、企業におけるミドル・シニア層の活用は十分とは言えず(※2)、中でも男性における自己肯定感の低下を問題視する声もあります(※3)。
それでは、ミドル・シニア層社員は、これからどのように働き、生きていくべきか。そして、どうすれば自己肯定感をもって、社会や企業に価値を提供し続けられるのか?「世界一孤独な日本のオジサン」の著者で、ベストセラーを連発するコミュニケーション・ストラテジスト、エグゼクティブ・スピーチコーチでもある岡本純子さんにお話を伺いました。
※1 関連記事
「【ライフシフト】いまこそ企業に求められる「トライ&エラー」(小木曽麻里氏)」
※2 関連記事
❝ミドル・シニア人材については、企業特殊性という競争優位の源泉となりうるものを蓄積してきた「有用な層」であるにも関わらず、活用が十分とは言えない状況にある。ではミドル・シニアはどのように活用できるのか、またどのように活用すればいいのか。❞
(パーソル総合研究所 「人的資本経営におけるミドルシニアの活用」)※3 参考資料
■有限会社エッセンシャルエデュケーションセンター 2021年報道用資料「約6割のミドルシニア会社員が『⾃分に⾃信がない』事実」
■東洋経済オンライン 「年齢が高い男性ほど自己肯定感が低い納得の訳」
岡本純子(おかもと・じゅんこ)
コミュニケーション・ストラテジスト
エグゼクティブ・スピーチコーチ(「世界最高の話し方」を教える「伝説の家庭教師」)読売新聞経済部記者、電通PRコンサルティングを経て、現職。新聞記者として鍛えた「言語化力」「表現力」、PRコンサルタントとして蓄積した「ブランディング」ノウハウ、ニューヨークで学んだ「パフォーマンス力」「科学的知見」を融合し、独自のコミュ力メソッドを確立。大手都銀、商社、電機メーカー、自動車メーカー、通信会社など日本を代表する大企業や外資系企業のリーダー、官僚・政治家など、1000人を超えるトップエリートの家庭教師として、プレゼン・スピーチ等のプライベートコーチングに携わる。
「東洋経済オンライン」「プレジデントオンライン」などで、「コミュ力の鍛え方」について、情報発信を続ける一方、2018年に「世界一孤独な日本のオジサン」を出版、話題となる。近著「世界最高の話し方: 1000人以上の社長・企業幹部の話し方を変えた!『伝説の家庭教師』が教える門外不出の50のルール」は15万部を超えるベストセラーに。
2021年には、「今年の顔」100人にとして『2021 Forbes JAPAN 100』に選出。2022年5月に、次世代リーダー向け「世界最高の話し方の学校」を立ち上げる。https://commschool.jp/
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幸福になるために一番重要なファクターは「つながり」
―岡本さんは5年前(※)「世界一孤独な日本のオジサン」を上梓されましたが、そこから今までで変わってきた部分はありますか?
※2018年刊
「寂しく、不機嫌な中高年にならないために、今から何をしておくべきか?」を考えるきっかけとなればと思って書いたのが「世界一孤独な日本のオジサン」でしたが、残念ながらこの問題に対する理解は深まったとは言えません。「孤独」は今も全世界で共通する課題で、その重要性はもっとフォーカスされるべきであると考えています。
なぜ孤独問題を解消していかなければならないのか。それは、さまざまな研究からも明らかになっていますが、人生の幸福にとって一番重要なファクターが実はお金でも仕事の成功でもなく「つながり」だからです。にもかかわらず、日本では軽視されてしまっています。「自立するためには人に依存してはいけない」と考えている人も多く、「しがらみ」と「つながり」がごっちゃになってしまっているのです。
しかし実は、自立とは「依存先をたくさん持つ」ということなんです。日本人は人間関係を築くためのスキルを身に付ける機会がないので、「もっと対人スキルを身に付けて、孤独にならないように」というメッセージを本に込めたのですが、見事に「余計なお世話」「ほっといてくれ」と言われてしまいました(笑)。本当はもっと議論を深められたらいいなと思っています。
―なぜ、男性にそういった問題が起きやすいのでしょうか?
多くの男性がいまだ「競争の社会」に生きているからだと考えています。コミュニケーションの軸として、女性はコラボレーション、男性はコンペティションと言われることもあるように、男性は競争の中で「マウントを取る」ことを重視しているんですよね。特に団塊世代を中心としたミドル・シニア世代は激しい競争社会にさらされた経験があるので、弱みを見せること自体が悪と感じる方が多くいらっしゃるんです。
そのため、ミドル・シニア世代の中には、若い人に対して常にマウントを取ってしまうような人も多くいます。しかし今やこの「マウントを取る」コミュニケーションは時代遅れになってしまっているんです。
尊敬は「されるべきもの」ではなく「するべきもの」
―私の元上司が、「デジタルスキルが必要になったからか、最近若い人に尊敬されない…」と嘆いていました。
「年上や先輩は尊敬はされるもの」という感覚が、そもそも古い。若い人だって、尊敬されたいですよね?私はコミュニケーションスキルを学ぶ「世界最高の話し方の学校」を運営していますが、生徒に対しても「先生とは呼ばないように」と伝えています。お互い対等だと思っているので。私が彼らから学ぶこともたくさんあります。役職や年齢など上下関係に縛られたコミュニケーションは時代遅れだと考えています。
本当に重要なのは「お互いに対するリスペクト」です。最近では、それを理解している人ほど次世代リーダーとして活躍するケースが多くなってきていると感じています。
―確かに「自分は尊敬されるべきだ」という態度を取られてしまうと引いてしまいますよね。でもいきなり「相手を尊敬すべき」と言われても難しい。コツはありますか?
そんなに難しくはなくて、単純なんですよ。キーワードは「笑顔と相づち」です。私、この人と話をしたら面白そうだろうなという人に気付く「オジセンサー」が異様に発達しているんですよ。そういう人に共通しているのが「笑顔と相づち」なんです。いつもニコニコしている人。面白がらせようではなく、面白いねって言ってくれる人。そういう人なら一緒にいたくありませんか?
年上だから、教えなくちゃ、話して聞かせてやらねば、という意識は捨てたほうがいい。やっぱり、偉そうにしゃべると本当に嫌われるんですよね。だからこそ「笑顔と相づち」で、人が話しやすい環境をつくることを意識するといいと思います。
これからの時代に求められる「サーバントリーダーシップ」
―「笑顔と相づち」。とてもいいキーワードですね!それでは次に仕事をする中でシニア世代が活躍するためにはどのように意識・行動すればよいかを教えてください。
これだけ人材不足の国ですから、必ず皆さんの居場所というか、花を咲かせる場所はあると思っています。ミドル・シニア世代は、若い人たちが持っていない、知識や経験を持っていますよね?それは十分生かせるものだと思います。ただ、俺のいうことを聞け、と言ってマウントしてくる限りそれは難しい。ですので、「言って聞かせる」ではなく、「聞いて言わせる」を意識することが大切だと考えています。
「言って聞かせる」だと、相手が「言うことを聞いていればいい」という発想になってしまうんです。それでは自主性も自立心も生まれない。それが積もり積もって、日本経済の停滞につながっていると考えています。
自立した人材をつくっていくためには、「もっと想像してごらん、自分で何をしたらいいか考えてごらん」という形で、自主的に動けるような環境をつくる必要があります。そうしないと、これからの組織は機能していかないんです。人材が育たないからトップダウンでやるしかない、というケースもあると思いますが、どこかのタイミングで必ずゆがみが生まれます。
これからは、野球の栗山英樹監督やサッカーの森保一監督のように、自立を促していくようなスタイルに切り替えていかないと難しいのではないでしょうか。ただし、リーダーとして「決断しない」というわけではないですよ。最終的には自分で決断するけれども、チームとして、全ての人材を伸ばしていくという発想の方が、長期的にはいいはずなんです。
―ミドル・シニア世代の経験や知見があれば、「聞いて言わせる」ことができれば会社の中でも存在感を示すことができそうですね。
デジタルスキルが若い人にかなわないなということだったら、ミドル・シニア世代はヒューマンスキルを磨くべきなんです。人を励ます力であるとか、人に寄り添う力みたいなもの。話を聞いてあげて、それぞれの悩みを受け止めてあげられる人には、とてもニーズがあります。
最近は若い人でもミドル・シニアでも、自分の話をしたい人はたくさんいますが、人の話を聞きたい人があまりに少ない。だからこそ、マスターリスナーはニーズが高いと思うんです。「○○しなさい」ではなくて、「どうしたらいいと思う?」と聞ける方が、圧倒的に上司力が高いわけですよ。聞いてあげて、話させてあげる。聞いた話を整理してあげて、相手が動く言葉をどう贈れるか 。ミドル・シニア世代の経験と知見があれば、これを意識して行動に移すだけで本当に貴重な人材になれるはずです。
繰り返しますが、今のリーダーシップって、ぐいぐいと引っ張ることではないんです。「部下の話を聞く、奉仕する」ことがリーダーの役割、つまりサーバントリーダーシップ(支援型リーダーシップ)が求められています。ミドル・シニアの方々には、そういう視点で新しい時代のリーダーシップを発揮してほしいと願っています。
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
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